第百七話 僕は思いにふける
去って行くバルナバスの背中を見続け、見えなくなってしまったのでみんなの集まっている所に行った。
「ねぇ大丈夫なの?」
「あぁ何も問題はないさ」
「そんな訳ないでしょ、今にも泣きそうじゃない」
必死に込み上げてくる涙を押さえつけていたが、ラウラには見抜かれてしまったようだ。
出来る事ならあの頃に戻りたい……。
「レーベンさん、あれに乗れるようにしましたよ」
ビテックはわざとなのか楽しそうに言ってくるので、僕はその気持ちに答えるように笑顔になった。
もう違うんだよな……。
「何をしたんだ」
「へへっ紐を付けたんですよ」
ドラゴンゾンビは伏せの状態でそこにいたが、その背中には四本の太いロープが結ばれていた。
「もしかして、あれがそうなのか」
「そうです。落ちないように自分の身体を縛ればいいんです。ですから、空から帰りましょうよ」
確かに歩くより早いに決まっているが、この気持ちを楽にするには風の匂いを感じるのも良いかも知れない。
だが、ビテックとラウラはそんなロープに命を預ける事には反対のようだが、僕も空の世界に行きたくなっている。
「飛びましょう。大丈夫ですよ。僕の魔法で補助もしますし……駄目か」
「駄目って何だよ」
「いやぁ昔は拘束を目的とした魔法だったんですけど、何故か刃物の様になったんですよ、まぁ試す前に気が付いて良かったですよ」
「お前な~」
僕の魔法は秘薬のせいでおかしくなってしまったのだから、効果が変わった事を忘れてはいけない。
「さぁロープを信じて出発しましょう。乗って下さい」
ビテックは楽しそうだが渋々乗った二人を確認して飛ぶ指示を出すと、音もなく空に舞い上がり、風の影響も全く感じない。
「おいおい、ちょっと高すぎだぞ、もう少し低くしてくれよ、落ちたら死んでしまうじゃないか」
トビアスは怖いらしいのだが、ドラゴンゾンビの背中は骨の硬さえどうにかすれば馬車よりも快適に過ごせる。
「さぁミフィスに帰りましょうか」
空からだと見ている景色が違うので指示が難しく、僕には空の景色を楽しんでいる余裕はない。
「思った以上に怖くないんだね」
「そうですね、むしろ快適じゃないですか」
「ねぇトビアスも……」
トビアスも楽しんでいるだろうと思ったが、既に意識を失っていた。しっかりとロープを身体に巻きつけ全身に力が入ったまま白目をむいている。
「まぁ騒がないよりいいか」
「意外な弱点を発見したね」
僕は指示を出しながらずっと考えている。
大人に何てなりたくなかったな……。
「もう街が見えてくるはずだけど、このまま行っていいのかな」
「平気じゃない。あそこの住民は経験してるしね」」
多分大丈夫だとは思うが、あの騒ぎを近くで見てしまったので少しだけ不安が頭をよぎる。それにこのドラゴンゾンビは今までのスケルトンとは何かが違うのも少し心配だ。
「もう領主館の庭に降りろよ、あそこなら何があっても何とかなるだろ」
「目を覚ましたんだな」
「あぁ未だに此処にいるのが嫌だけどな」
トビアスは下を見ないようにしながらドラゴンゾンビの背中にしがみ付いている。その姿をみるとほんの少しだけ笑ってしまった。
「てめぇ何笑っているんだよ」
「いいじゃない。辛そうな顔をされているよりマシでしょ」
「まぁそうだけどな」
「すみません」
◇
ドラゴンゾンビは音もなく街に近づき、一気に中庭に舞い降りた。




