第百六話 僕は忘れない
兵士達は倒れている魔術師を起こしているが、中には蔑んだ目を向けている者もいた。
まぁ口だけだった事が露見したからな。
「もうこれで満足しましたか、それじゃ杖を返して貰いますね」
自らの意思で動かないに間に再び僕の魔力を流していると、僕の肩をトビアスが叩いてきた。
「どうかしましたか」
「もっと厄介な連中の登場だよ」
顎で指した方角を見ると、談笑しながら歩いて来る五人組の姿が見えた。
「よくもまぁ一気に揃うんだな」
兵士達もその五人組に気が付き、一斉に敬礼をして彼等を迎え入れている。勿論、隊長と呼ばれた男も偉そうにしていた男も例外はそこには無い。
「この状況を説明してくれない?」
五人の中から一人だけ走ってきて、物珍しそうにドラゴンゾンビを見上げたのは選抜会であったあのルートゥだ。その後を歩いてきたバルナバスはドラゴンゾンビと僕を見比べながら笑顔を見せてきた。
「まさか此処に来ているとはな、ちょっと雰囲気が変わったようだけど元気そうで良かったよ」
「色々あったんだけどね、そっちこそかなりの活躍をしているじゃないか、聞いた話だとハーピーの群れを討伐したって聞いたよ」
「まさかハーピーしかいないとは思わなかったからつまらない討伐だったけどな、本当はもっと嫌な情報が入っていたんだがガセだったんだ」
僕とバルナバスが久しぶりの会話をしているというのに、相変わらずの憎たらし勇者が割り込んでくる。
「これは君の仕業なのかい」
「魔石の力も借りてますけどね」
勇者バザロフが目の前にいると言うのにトビアスは明後日の方を向いているが、ラウラとビテックは通常の人達のように憧れが凄すぎたのか硬直してしまっている。
「こんな真似が出来るとはな、君は人間なのかい? それとも人間の振りをした魔人なのかい?」
「おいっ、勇者だからって言って良い言葉じゃ無いだろ」
「相変わらずだね君は、今度はその子供の奴隷となったのかな」
その言葉にトビアスは顔色を赤く染めながら勇者に殴りかかろうとしたが、その間にバルナバスが入るとそのままトビアスを殴りつけた。
「てめぇ、何しやがるんだ」
「勇者様を殴ろうとするからです。そんな無礼な真似をしていいと思いますか」
トビアスは直ぐに立ち上がると、バルナバスににじり寄って行く。
「ちょっと落ち着いてくれ、今のはバルナバスが悪いじゃないか、お前が殴ってどうするんだよ」
「そうでもしないと止められないだろ」
「バル、落ち着きなさい。私が少しからかったのが原因なんだからね」
勇者バザロフはわざとらしくトビアスに手を差し出したが、その手は邪険に払われてしまった。
「貴様、なんだその態度は」
その様子を見ていた兵士にも我慢の限界が訪れた様で怒号が巻き起こっている。このままだと納まりが付く気配がない。
「静かにしなさい。彼とは昔からの付き合い何だから良いんだよ。ちょっと黙っていてくれないか」
勇者バザロフは声を荒げる訳では無く冷静に話し掛けているが、その言葉のの中には僕達にも向けられているだろう。
「俺に絡むな」
トビアスはもうバザロフと話したくないのかこの輪の中から外れていく。目線で彼を追うと、未だにドラゴンゾンビしか興味が無いルートゥの姿が視界に端に映った。
「まぁいい。それで君は何なんだい。どこかであった事がある様な気もするが……」
僕との因縁は全く記憶に残っていないし、選抜会の参加者だという事も気が付いていない様だ。僕はどうでもいいがバルナバスが僕の代わりに説明をするとようやく頷いたのだが、どこまで理解したのか不明だ。
「それでそこの兵士達と揉めていた理由は何なんだい。勇者の私が仲裁してあげよう」
何を思ったのかバザロフが仲裁をしようとしたので、先ずが隊長が自分の非を隠しながら話し、その後で僕がそれを訂正しながら話した。
こうなった場合になるともう向うの言い分が通ってしまうのだろうが、バルナバスが矛盾点や僕の魔法の秘密をバザロフに話すと形勢は僕達の方に傾いていく。
「まぁあくまでも中立の立場に居なくてはいけないのが勇者なんだよ、だからさ君達がそこのドラゴンゾンビと戦ってくれるかな、倒せるんだろ」
一部の兵士はやる気になったようだが、魔法による攻撃手段を失ってしまったので文句を言いながらも彼等は此処から去って行った。
「不満は残るかも知れないけどこれでいいよね、もう終わったのなら次に行かないといけないからな、バルは少し話してから来るといいよ」
「有難うございます。直ぐに追いかけます」
◇
久し振りに二人だけで大木に寄りかかりながら話している。
「あれからエレナとはどうなったんだ?」
「色々あって振られたよ」
この会話は大失敗だったが、さほど落ち込んでいない様なのでもう立ち直ったのだろう。
「勇者のパーティとしての旅はどうなんだ」
「そうだな……それこそ色々あるな、ただそれも含めて充実しているさ、それよりお前の魔力はあれから増えたようだな、そうとう鍛えたんだろうな」
「そうでもないさ、まぁ……な」
何だか会話が弾まないがそれでもたわいのない会話をしていると、ルートゥが駆け寄ってきた。
「ねぇ勇者は何処に行ったの?」
「お前はまだ見ていたのかよ、しょうがないな、悪いなレーベンまたいつかな」
ルートゥをと話しながら去ってくバルナバスの姿を僕は忘れる事は無いだろう。




