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第百五話 僕はかなりムカついた

 この場に姿を見せたのは冒険者では無く兵士達で、百人ほどの屈強な男達がドラゴンゾンビを見るなりいきなり武器を向けてきた。


「面倒な事になりそうだな……おいっどうした」

「ちょっとね」


 ドラゴンゾンビから怒りの感情が流れてきたが、魔力で無理やり大人しくさせる。ほんの少しだけ動き出そうとしたが、何とかその行動を押さえる事が出来た。


 これはちょっと厄介だぞ、早くアリアナさんに見て貰わないとな。


「あのさ、そんなに怖がらないで武器をしまってくれないかな、こいつがマスターになっているんで怖がらなくても大丈夫さ」


 トビアスが僕達の前に立って安全であることをアピールしているが、兵士達は武器をしまう事はせずに徐々ににじり寄ってくる。


「おいっどうやってこれのマスターとやらになったんだ」


 いきなり怒鳴りながら言ってくるこの男は兵士の中で立場が偉そうで、そのせいか一番安全な中央にいる。


「魔法の力ですね」

「貴様のようなガキが魔法でだと、いい加減な事を言うな、ちゃんと説明するんだ」


 あ~めんどくさい。最初から文句を言ってくるんだったらもう何を言っても無駄じゃないか。


「あのそれ以外の説明のしようが無いんですよ、ちなみにこれが赤竜のなれの果てなんで皆さんの仕事は終わりですよ」


 トビアスは僕の代わりに話してくれているし、どうせガキあつかいされた僕が何を言っても無駄に違いない。


「本当にそれが赤竜なんだな、お前らが討伐した事にしたいみたいだが、どうせ既に死んでいたんだろ、だったらそれを渡すんだ。これは命令だからな」


 僕達なら強引にこれを奪えると思っているらしいが、何処にその自信があるのか全く理解が出来ない。


 馬鹿なのだろうか、揉めたく無いから我慢しているけど何だかムカついてきたな。


「隊長、どうやらそれはそこのガキの杖と魔力で繋がっていますね」


 筋肉が鎧からはみ出そうな色黒の男がしゃしゃり出てきたが、やはり見た目と同じなのか正確な事を理解していない様だ。


「その杖に秘密があるんだな、おいっその杖をよこすんだ」

「これは僕の杖何で渡す訳ないじゃないですか」

「生意気なガキだな、私に逆らうと言うのか」

「隊長、用意した物を渡したらどうですか」


 今度は別の男が隊長に近づくと少し大きめの袋を渡した。渡された隊長は何だか不服そうだが自分だけで頷くと僕達の足元にそれを投げてくる。


 かなり重そうな袋だったが、拾い上げて中を見ると見たことも無い大きさの金塊が入っていた。


「これは何ですか」

「見ても分からんのか、私がそれを買ってやるていうんだよ、ギルドに渡すより何倍も儲かるんだからそれでいいだろうが」


 するとトビアスが僕から金塊を奪い、そのまま兵士達の方に投げつけた。


「あんたらさぁいい加減にしろよな、この事を上に報告したらどうなるか分かっているんだろうなハンネスさんよ」

「何だと、亜人の分際で私に逆らうとでもいうのか……」


 口から唾を吐きながら怒鳴って来るが、側にいた兵士が違和感に気が付いたようだ。


「ちょっと待ってください、あいつは隊長の名前を呼んでいました」

「何だと、おいっ誰か私の名前を教えた奴はいるのか、まぁいい、私は隊長だからな、亜人でも名前ぐらいは知っているんだろう」


 後ろ姿なのでトビアスがどのような表情をしているのか分からないが、雰囲気から怒っているのが感じる。


「もっと言ってやろうか、あんたはミルスで、あんたは……」


 指を差しながら一人一人の名前を当てていく、当てられた兵士は動揺しているのが見て取れた。


「お前はどうして言い当てられるんだ。何者だ」

「単なる冒険者だよ、だがな今の意味をよく考えろよ、いいんだなこの事を報告しても」


 これで多少流れが変わったように思えたが、これまで後ろに隠れていた小綺麗な鎧を身に着けた小男が前に出てきた。


「君ねぇそんな事ぐらいで騙せると思ったら大間違いだぞ、君がいくら彼等の名前を知っていようが関係ないし、私の顔を知っているのならもう何も言えないはずだがね」

「何でこんな場所に……」


 誰だか知らないが屈強な兵士とは思えない男の出現でまたしても流れが変わってしまった。


「部下に聞いたがその少年はそれを押さえるのに必死じゃないか、今は押さえているかも知れないがそんな魔力じゃもうそろそろ暴走するんじゃないのかね、ここの兵に逆らった事は水に流してやるから金塊を拾って立ち去りなさい」


 そいつは全く理解出来ていない。僕は訓練で魔力を誤魔化しているから仕方のないことかもしれないけどこのドラゴンゾンビを見てよくそんな事が言えるもんだ。


「あの。本気でそれを言っていますか」

「彼は魔法省から引き抜いた私の右腕なんだよ、君は冒険者にしては魔力はあるそうだが……子ども相手にこれ以上言ったら可哀そうだな。君は冒険者を止めてもっと勉強した方がいいな」


 あ~あ~あ~、叫びたいほどムカつくし、顔の筋肉がどうにかなりそうだが、だったらやってみろ。


「それなら、杖を渡しましょうか」

「あぁそうしてくれ」

「おいっ」


 トビアスが驚いたように僕の手を掴むが、その手に空いている手を重ね、そっと首を横に振る。


「それじゃ頑張って下さいね」


 僕は魔力の供給を止めたと同時にその魔法使いに杖を渡す。


「うわぁぁぁぁぁ、何だよ、ちょっと助けてくれ、私に魔力を渡すんだ」

 

 他にも魔法使いがいた様で、その元魔法省の男の背中に手を置いて魔力を注いでいくが、そもそものやり方が間違ているのでいくら魔力があっても意味はなく、ただドラゴンゾンビに吸い取られて行くだけだ。


 次々と魔力切れで意識を失って行くので、暴走しない内に杖を奪い、ドラゴンゾンビを再び僕の物とした。


「流石は元だけありますね。もう少しで暴れ出すところでしたよ」


 息を荒げながら悔しそうに僕を見上げているが、それ以上は何も言ってこないしあの偉そうな男も睨んでいるだけだった。 

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