第百四話 僕は若干不安になっている
僕達の目の前に赤竜の死体があるが、肉という肉が溶けてしまっていて骨にただ皮が被っているいるようだ。
なんだかなぁ、毒のせいなんだろうけど……ちょっとな。
「この匂いと、そこら中にある汚いのはどうにかならないのか」
「僕だってそうしたいですけど、そう言った魔法は使えないからなぁ」
「だったらさ、これからはそういった魔法を勉強した方がいいんじゃないか」
言われ無くたって僕も魔法使いなら誰もが使う事が出来る魔法を使いたいが、もうそれは出来なくなってしまったのだから仕方がない。どうしたら良いのか全く見当がつかない。
「どうにかした方がいいよね」
「そりゃそうだろ、お前は触れるか」
「嫌だよ、何で触らなくちゃいけないんですか、そもそも液体なんだから暫くすれば乾燥するんじゃないかな」
何もいい案が浮かばず、トビアスはダンジョンの反対側にいる二人を連れてくると、ビテックはいきなり鼻を押さえて気絶してしまった。
「ちょっと、ねぇ大丈夫なの、お~い」
「やはり犬人型は無理か、おいっレーベン、お前の魔法のせいなんだからせめて匂いはどうにかしろよ」
「そう言われてもな……あっそうだ、ねぇラウラ、スケルトンの魔石ってどうなった?」
「ちゃんと回収したわよ、それでどうするつもりなの」
もし上手くいってくれたら少しは感謝してくれるはずだ。僕は魔石に魔力を流して赤竜の死体に投げてみた。
「えっちょっと汚くなるじゃない。止めてよ」
「まぁいいから見ててよ……えっそんなに魔力を持ってくのかよ」
ずっずずずずずずずずずず。
綺麗なドラゴンゾンビにはならなかったが、ちゃんとドラゴンゾンビとなってくれた。骨の周りに纏っている皮はダルダルになっているし、匂いも含めてこのままではどうしようもないが、自分で身体を洗ってくれたら余計な手間が省ける。
ずん、ずっ、ずん、ずっ、ずん、ずず。
トビアスがビテックを背負って先頭を進みその後ろにラウラと僕がいて最後尾を自分の皮を引きずりながらドラゴンゾンビが付いて来る。
ドラゴンゾンビの行動は僕が指示を出しているが、何故だか知らないけど意思を感じるのは気のせいだと思いたい。
ドラゴンゾンビを愛用しているアリアナさんに聞いておけば良かったと思うが、ネクロマンサーではない僕にはこれが限界だろう。アリアナさんの魔石が無ければこれは只の骨に戻ってしまう。
「あのさぁ、まさか後ろからブレスを吐くとかは無いよね」
「はははっ心配性だな、こいつは只の骨で、魔石の力で動かしているだけなんだよ。そんな事ある訳ないじゃないか」
……流れる冷や汗が止まらない。このドラゴンゾンビは今まで出していたスケルトンとかなり違っている。僕にははっきりと意思を感じている。この先どうなるのか僕には不明だ。
そうなったら魔力供給を止めて魔石を外せば良いと思うのだが……。
「おっようやく川に出たぞ、広くはないがもういいよな、ビテックの奴が可哀そうだ」
「そうだよね、ちゃんと自分で洗わせるよ」
トビアスに対して話し方や態度が定まっていなかったが、もう仲間として話す事にしようと思う。あれを倒すのにも、ラウラ達を逃がすにも僕一人では出来なかったし、自ら進んでやってくれているのでいつまでも変な風に思うのはもう止めた。
ドラゴンゾンビは皮を脱ぐと、少ない水量なのだが丁寧に自分の皮を洗い、それが終わるとそれを布のようにして身体を拭いている。
「何だか奇妙な光景だな」
「そうだね、もう見る事はないよ」
時間は掛かってしまったが匂いも執れて真っ白なドラゴンゾンビが姿を現し、生前の皮を丁寧に畳んでいた。
「ううううっ、ここは?」
「おっ、ようやく目を覚ましたか、いいか悪いのは全てレーベンだからな」
「ちょっと待ってよ、ああするしか無かったんだから、しょうがないよ」
「えええええ~何ですか、あれは」
その存在にこっちは慣れていたが、初めて見るビテックは恐怖に震え始めた。
「大丈夫だよ、もう討伐は終わっているんだ」
「そうですけど、ギルドに持って行くにはせめて爪と牙が無いとな証明にならないんですけど……」
「それは無理だな、折角のドラゴンゾンビが台無しになるよ」
問題は全て解決した訳じゃないが、どうせならこの状態のままのドラゴンゾンビが良いと思う。
「あの、それもそうなのかも知れませんが、殺気だっている連中がこっちに向かっていますよ、足跡で追って来たんでしょうね」
ビテックに言われ僕達が歩いてきた方角を見ると、全身を鎧で身を包んでいる集団の姿が微かに見えた。




