第百三話 僕の討伐の仕方
赤竜は口を開け。灰色の煙を吐きながら洞窟から出てこようとしている。
「斬撃が効いてくれればいいが」
「そうだね、僕も合わせるよ」
トビアスは斬撃を、僕は【刃闇】を飛ばすが、赤竜に避けようともせずそれを受け止め、何事の無いように歩いている。
「どうしようか」
「俺はもう諦めたくなってきたな」
「そんなこと言わないでよ、まだ始まったばかりでしょ……操闇」
この赤竜を手なずける事が出来たら楽だと思ったが、奴の頭に闇が吸いこまれると同時に赤竜怒りの感情が逆流してきて激しい頭痛に襲われた。
「どうした。大丈夫か」
「いやぁこれはかなりきついね、こいつはもう僕達を逃がさないつもりだかも」
「そりゃそうだろ……危なっ」
再びトビアスは僕を抱えながら走り出すと、それを追うかのようにブレスが迫って来る。重なったまま転がるようにして避けると、僕達の代わりとなった木々達が消し炭の様に消えていく。
「ふ~ん。ブレスを吐いている時は動けないのかな、あれで動かれたら詰んだような気がするから僕達にとっては良かったな」
「お前は良く落ち着いていられるな、羨ましいよ」
「抱えられているからだよ」
ブレスはまだ出し切っていない様でトビアスは僕を抱えながらただひたすら走っているが、僕に落ちてくる汗とその苦しそうな表情が限界が近い事を教えてくれているようだ。
トビアスの速度が落ち始めた頃、ようやくブレスは終わってくれて再び赤竜はゆっくりと歩き始めた。
「もしかしたらブレスを吐いた後は動きが鈍くなるのとか」
「そうだといいけどな、あれだけの攻撃力があるんだ。それ位の弱点がないとやってられないぞ」
「あの、一つ聞いていいかな」
「何だよ、早くしろよ、出来れば自分で動いて欲しんだけどな」
僕の動きでは赤竜の攻撃をかわせないと思ったのかトビアスは抱えてくれたまま、赤竜から距離をとっている。
「このままでいいんだけど、さっきはどうして闇に潜ろうとしたところを止めたんだ?」
「当たり前だろ、あれの直撃コースだったじゃないか、あんなのは闇の潜っても無理に決まっているだろ」
そうなると安全ではないが、それはトビアスも同じ事だろう。後はトビアスが僕を信用してくれればいいが。
かなり疲れているトビアスにこの事を頼むのは申し訳ないが、僕の考えを話すと嫌そうな顔をしたものの、しぶしぶ了承してくれた。
「本当に大丈夫かよ」
「僕もそれを願っているけどやる価値はあるんじゃないかな」
トビアスから離れ【潜闇】で潜る。トビアスはそのまま赤竜に向かって再び斬撃を飛ばし始めた。
「おらおら、もう一度撃って来いよ、今度も躱してやるからさ」
しかし、赤竜はブレスを撃たないでその身体でトビアスを押しつぶそうとした。
「お前とは時間軸が違うんだよ」
赤竜の突進を簡単に躱したトビアスはそのまま距離をとると、再び赤竜は大きく息を吸い込み始める。
「隙だらけなんだよ、お前は」
動きを止めた赤竜に今迄以上の斬撃を飛ばしたが、身体に当たる前にブレスが放たれその斬撃はブレスに飲み込まれかき消されてしまった。
「何だよ、またか」
トビアスの身体は限界を超え目や耳からも血を流しながらブレスを避け続け、最後は脚がもつれて転がってしまったが、運良く赤竜のブレスも終わりを告げている。
「くっそ~動けよ」
転んだ時に痙攣してしまった足を必死に叩きながら立ち上がろうとするが、そのトビアスに向かって赤竜は煙を吐きながらゆっくりと歩きだした。
僕はすかさず赤竜の足元まで移動し、闇から飛び出す。
「たっぷり飲んでくれよな……毒闇」
ずっと闇に潜りながら魔力を注いでいた高濃度の【毒闇】をまだ煙を口から吐いている赤竜に注ぎ込んだ。
「口を開けているからいけないんだ」
赤竜は顔を背けるが、四股が上手く動かないのか僕に攻撃を仕掛けてこようともせず、ひたすら【毒闇】を体内に取り込んでいる。
しまいに腹が波を打つようになり、その目が大きく見開かれると腹が破裂して得体のしれない液体をばら巻き始めた。
「上手くいったようだけど、これは何だい」
「まだ触らないで下さいね、危険だから」
「こんなのに触る訳無いだろ、馬鹿かよ」
「そうだよね……解除」
もう触っても大丈夫だと言いたかったが、触る訳は無いだろうからその言葉は胸の中で納めて置く。
「随分と酷い匂いだな、これはどうにかならないのか」
「それは……無理ですね」
折角倒したのだけど、この気持ちは何だろう。




