第百二話 僕の誤算
赤竜がいるこのダンジョンはブレスによって此処にいた魔物を一掃したのか壁は高温のブレスによって出来たであろう跡がはっきりと分かる。
「それで奴は何処にいるんだ」
「この奥の部屋みたいな場所ですよ」
ビテックは一人でダンジョンに潜入し、赤竜の場所を確認していた。このダンジョンは階層は何処までなのか分かっていないが、赤竜は下にはいず、この直線上の広くなった場所を寝床にしているらしい。
「やはりラウラには無理だな、此処に残ってくれないか」
「どうしてよ、この為に来たんだから行くに決まっているでしょ」
「お嬢ちゃん、レーベンの言う通りだよ、ちょっと赤竜にいる場所が悪いし隠れる場所が少ないからな」
僕は竜の魔力に触れるのは初めての事だが、思った以上に簡単には討伐は出来そうもない。それにビテックとスケルトンでは完全に役不足だ。
「ラウラさんそうさせて貰いましょうよ、此処から先は僕らは足手まといなんです」
「そんなに強いの……」
「ただの赤竜では無いようです」
渋々ラウラはダンジョンの入口で待機する事を約束してくれ、僕とトビアスだけがダンジョンの中に入って行く。他の魔物はいないが、独特のにおいがダンジョン内に充満している。
「随分と静かだね」
「眠っていればお前の魔法で一気に終わるかな」
ダンジョン内は自然光が入っているが、それはこの中を明るくしたかったのかいくつも小さい穴が開けられている。
「こんな細いブレスも撃てるんだな」
「全く厄介な竜に当たったもんだよ。さてその姿はどうなんだろうね」
ゆっくりと広場の中に入って行くとその中は想像以上の広さで、その奥の壁に寄りかかるようにして赤竜が眠っていた。
「いいじゃないか、目を覚ます前にやってしまえよ」
「そうですね……滅闇」
「おいっそれは無いだろ、消してどうするんだよ」
そんな事は僕にはどうでもいい。ただ最大攻撃力の魔法を放つ、ただそれだけだ。
シュッ
風を切る音とともに目の前にいたはずの赤竜の姿が消えている。
「馬鹿野郎、ぼさっとするな」
トビアスによって突き飛ばされると、僕がいた場所に赤竜の尾が振り下ろされた。
「潜闇」
僕が潜ると同時に頭の上を爪がかすめる。ほんの少しタイミングが遅ければ今頃僕の首は吹き飛ばされていただろう。
「いっけ~」
ラウラの叫びと共にスケルトンが赤竜に向かって走って来るが、軽く振り払うだけでスケルトンはバラバラにされてしまった。
「何で入ってきた、いいから出て行け」
闇から飛び出して大声で叫ぶが、ラウラはもとよりビテックすら恐怖で足がすくんだのか動けないようだ。
「奴の気を引きつけろ、あの馬鹿共を逃がす」
「頼む……滅闇」
僕に背を向けている赤竜に放つと、焦げた匂いがしてその部分から血が噴き出すが、尾がふられると闇は霧散してしまった。ゆっくりと向きを変え始めた赤竜の後ろをトビアスが二人を抱えて出口に走っているのが見える。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
赤竜の目はそれまでは黒かったが、今はその黒目が赤身を帯びていてかなり僕に対して怒っているようだ。それに加え、吹き出した血も止まってしまっている様なのでもう傷口は塞がってしまったのかも知れない。
「ちょっと休戦しないか……煙闇」
一気に広がった闇が赤竜を包んで行く、僕の目には中の様子がはっきりと分かるが、赤竜は見えていないようで闇を払おうともがいている。
「お待たせ、あいつらは無事に非難させたぞ、まさかここに来るとはな」
「そうで……」
まだこっちの話が終わっていないのだが、もう赤竜は僕の【煙闇】を消してしまった。視線を僕に合わせると大きく息を吸いこんでいるのかその腹がかなり大きく膨らんでいる。
「潜……」
「潜るな~」
身体の半分は闇に潜ってしまったが、トビアスは僕を抱えて走り出した。僕の目線の先には口を大きく開けた赤竜が見え、その口から光が溢れてくる。
「あぁ撃って……」
「くっそ~」
僕達が向かった方角は下の階層に向かう道があると思っていたが、それよりも近くにダンジョンから出れる場所があったのでそちらに向かって飛び出した。それと同時に光輝くブレスが僕達の横を通過して行った。
「ぷっふぁ~、何とかなったな」
「そうですけど、どうしますか」
予想以上の手強い相手に勝機が見いだせないけど、このまま逃げるのも何だか悔しい。
ずん、ずん、ずん。
素早い動きが出来るはずなのに、わざとらしく大きな音を出しながら赤竜がこっちに向かって歩いてくる。




