第百一話 僕は実感する
目の前にある山脈を超えた先にはビテックやトビアスの生まれ故郷でもある獣人族の国がある。向うでもこの事は問題になっているはずだが、その情報は此方には入ってこない。
「被害は向うにもあるんだろうな」
「そうですね、大丈夫だと良いんですけど」
「なぁ国に帰りたいとは思わないのか」
「僕は売られた身ですからね、国に帰っても故郷には戻らないでしょうね」
どういう理由でビテックを売り渡したのかは分からないが、ビテックはその事を許してはいない様だ。
「お前はそんな事を聞くなよ、割り切れる訳無いだろ」
「すみません。ただ故郷ってどんなものか知りたかったんだ。僕は故郷を知らないし、ずっと育っていた魔法学校も出入禁止なので」
僕にも両親はいたに決まっているが、どんな人だったのだろうか。
「ちょっとあんたは変なこと言わないでよ、クルナ村が故郷でしょ」
「そうなのかな」
そうなのかも知れないが、いつかは自分のルーツを探ってみるのも良いかも知れない。
「あっあの山から異様な魔力を感じます」
ビテックが指を差した山は霧で覆われていて全貌が見えないが、どことなく嫌な感じがするのは気のせいだと思いたい。
「それなら朝になったらあの山を目指して進むか。帝国軍が来たら面倒だからな」
◇
目的の山に到着する前にワイバーンの住処を発見したが見つからないように迂回していく。いくつもの山を越え、二日を過ぎたあたりでようやく目的地の山に入った。
「それにしても他の連中と全く出会わないな、情報交換ぐらいしたいのにな」
「この山脈は広いですからね、そう簡単には出会わないでしょうね。ただまともな情報をくれるかは分かりませんよ」
「冒険者はやはり面倒だな、ならなくて良かったよ」
僕の言葉にトビアスとビテックは驚いているが、僕とラウラはどうして二人がそんな口をあけてこっちを見てくるのか分からない。
「ちょっと待ってくださいよ。えっ冒険者登録していないんですか」
「お前は何をやってるんだよ、勿体ないじゃないか」
今回の赤竜を討伐すれば確実に階級は上がるし、ギルドカードにドラゴンバスターの称号が記されるそうなのだが、僕にはそんな事はどうでもいい事だ。
「アールシュ様も僕が登録していない事は知っているよ、それなのに登録しろとは言わなかったからね。ただ討伐して欲しいんじゃないか」
「そんな訳ないですよね、名を広めるいい機会だと言っていたじゃないですか」
「倒せば噂程度には広がるだろ、まぁあの人なりの言い方だからね、本心じゃないんだよ」
普通の冒険者にとってはその称号は大事らしいが、元勇者であるアールシュ様にとってはそんな事は気にしないのだろう。そもそもアールシュ様も冒険者登録などしていないのだから。
「なぁビテック、何だか俺達が小物に思えてきたな、レーベンはは勇者になった方がいいよ」
「そうですね、まぁ気を取り直して登りましょう」
2人には僕の姿が見えていないのか、ここまで来るのに僕だけスケルトンにおぶされている、そんな体力の無い男がどうして勇者になれるのだろうか。
あいつが僕にグレゴールを飲まさなければみんなと一緒に歩けたし、まとめて闇の中に入れて移動する事も可能だった。
「左の方から魔狼の群れがやってきます」
「僕がやるからいいよ」
三人には山登りに集中してもらい、魔獣の対応は僕が一人でおこなう。討伐部位など考えなくても良い僕にとってはそこら辺の魔獣などどうでもいい。
魔狼を【毒闇】で一気に滅ぼし、何事も無かったかのようにスケルトンにおぶさって貰う。
「ねぇ魔力は大丈夫なの、本番で使えないなんてことになったら大変だよ」
「歩いていないから回復は早いし、さほど減っていないから平気だよ。それより交代しようか」
女性であるラウラが歩いているとのに僕だけが乗っているのが少し恥ずかしいが、ラウラは只首を横に振った。
「やはりこの山で当りですよ、ちょっと偵察してきます」
数十分後、ビテックが戻ってきて、この先のダンジョンの中に赤竜がいる事が判明した。
「こんな山の中にダンジョンかよ、中に入る前に体力回復をしようか」
ビテックが案内したダンジョンは入口が大きく開けていて、中には整備されたような道が存在している。
「嫌な雰囲気だね、この私でも分かるよ」
「そうだね、いいかいここからはラウラがスケルトンに乗ってくれ」
平地ならスケルトンに戦闘に参加してもらうが、このような場所ならスケルトンはラウラ専用の護衛にする事に決めた。




