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アベノミクスの変化から考える日本政治の権力の居場所

 VTuberというものの存在を初めて知った時、「なにこれ? どうせ日本国内の特定の層で盛り上がっているだけなんでしょ?」なんて思って、僕は大して気にしていませんでした。

 が、その後、日本国内だけでなく海外のユーザーもかなり多いという話を聞いて、少しばかり興味を持ちました(ミーハーだなって自分でも思いましたが。……今でも“ミーハー”って言葉は通じるんですかね?)。

 それで実際にVTuberの動画をいくつか観てみたのですが、思っていたよりも面白かったです。

 なんて言うか、こういうキャラクターを産み出す能力ってのは日本社会は優れていますよね。初音ミクなんかもそうですが、こういうのってクリエイターだけでどうこうできるものじゃないと思います。それを面白がる視聴者がいて勝手に色々と遊び(二次創作とか)、そういった視聴者のアクションを受けてまたクリエイターが何かをしてってな相互作用で醸成されていくものなのでしょう。凄いと思うのは、時には嫌悪感すらも覚える悪ふざけにしか思えない反応まで“肥やし”にしてしまう点でしょうか。こうなって来ると邪魔しようと思ってもなかなか難しいです。

 海外でも人気だと知った時、

 「面白いビジネスモデルだとは思うけど、どうせ、すぐに他の国に真似されちゃうんじゃないの?」

 なんて僕は思っていたのですが、今のところ、そんな話は聞きません(英語を話すVTuberはいますが、日本の事務所所属っぽい。いえ、僕が知らないだけでいるかもですが)。それは、或いは、だからなのかもしれません。日本のようにキャラクターを醸成する文化がないと似たような事は難しいのかも。

 さて。

 このVTuberですが、媒体によっては配信中に視聴者がお金を配信者にプレゼントできたりもします。俗に言う“投げ銭”ってやつですね(VTuberに限らないけど)。

 VTuberの活動を支援したかったり、または単に目立ちたかったりするファンが主に行うものですが、この“投げ銭”は、全額VTuberやその事務所の収入になる訳ではありません。例えば、YouTubeだったら手数料として30%がYouTubeの利益になります。

 これ、もちろん、YouTubeにとっては美味しいですよね。自分達は努力せずともVTuber達ががんばってくれれば、自分達の利益が増えていくのですから。

 もっとも、VTuberの投げ銭の利益はそれほどではないと思います(いえ、詳しくは知りませんがね)。ただ今後は分かりません。発展途上国が経済発展をし、それら国々で一定層にVTuberのファンがつくのなら、決して馬鹿にできない規模の金額になっていく可能性はあると思います。

 VTuberへの投げ銭の手数料収入は、まだ可能性の段階ですが、手数料収入が既に馬鹿にできない規模になっている業界もあります。知っている人も多いと思いますが、ゲーム業界ですね。

 これを読んでいる皆さんの中にも、ネットゲームで遊んでいる人がいるかもしれませんが、そういったネットゲームには課金システムがあるのが普通です。キャラクターやアイテム、または次のストーリーを観る為にお金を払うのですね。

 この課金システムでも、プラットフォームを運営する企業に対して手数料が発生しています。アップルとかグーグルなどがそういったプラットフォームの企業ですが、あなたが支払ったお金の一部はネットゲームを運営する会社だけでなく、これら企業の利益にもなっています。

 ネットゲームにバグが発生して、ユーザーが返金を要望しても、ゲームを運営している企業がそれになかなか応じない事が多いらしいのですが、その一因は、この手数料システムにあると言われています。既にアップルとかグーグルに手数料を支払ってしまっていますからね。もし、そのネットゲームを運営する企業がユーザーにお金を返金してしまったなら、手数料分、ネットゲームの運営会社は損害を受ける事になってしまいます。

 そういう場合は、プラットフォームの企業が、手数料を返してくれれば良いのですが、なかなかそうもいかないみたいで……。

 日本のゲーム産業はネットゲームの台頭によって衰退してしまったと言われていますが、それでもまだまだ捨てたものじゃありません。前述したようにキャラクターを醸成していく能力は高いですし、漫画やアニメといったコンテンツの人気の高さを考えるのなら、戦える能力は充分に持っています。

 まぁ、その所為で逆にキャラクター人気頼みのゲーム開発が増えているなんて話も聞きますから、メリットばかりがあるわけじゃなさそうなのですがね。

 (因みに、中国や韓国でネットゲームが育ったのは、コピー商品が横行していて、据え置き型のゲームでは収益を上げる事ができなかったからだそうです)

 では、ここで少し考えてみてください。

 もし、日本の企業がネットゲームを行う“プラットフォーム”の立ち位置に付けたなら、とっても有利になるとは思いませんか?

 これは単純に“手数料が入る”といったことばかりを言っている訳じゃありません。例えば、「自企業の傘下のゲーム会社に対しては、手数料を減額する」なんて事をやったなら、価格競争で大きく有利になります。もちろん、宣伝や開発環境の普及など、まだまだ数多にメリットは考えられます。

 が、しかし、日本企業の中にこの“プラットフォーム”の立ち位置に立とうする企業はいません。

 まぁ、理由は簡単に分かりますよね。アップルやグーグルといったアメリカの企業があまりに規模が大き過ぎてとてもじゃありませんが、太刀打ちできないからです。

 国が強烈にバックアップすればなんとかなるかもしれませんが、そんな動きは日本社会にはまったく観られません。

 ところがですね。日本では観られませんが、他ではやろうとしている国もあったりするのですよ。

 「え? アメリカに対して喧嘩を売るような命知らずな国があるの?」

 と驚く人もいるかもしれませんが、そんな事が可能で、こういった先進技術に思いっ切り力を入れまくっている巨大な国家が一つだけありますよね。

 はい。

 もう皆さん分かっているかもしれませんが、それは“中国”です。

 2020年の8月頃、アップルとグーグルが人気ゲームの「フォートナイト」を削除したニュースが話題になっていました。

 エピックゲームズというゲームの配信会社が、アップルの仕組みを回避する独自の課金システムを導入しようとしたので、その事に対する制裁措置を執ったのです。

 つまり、エピックゲームズはアップルに手数料を支払わなくてもゲームが楽しめる仕組みを作ってしまったのですね。

 アップルはアプリ市場で寡占状態にあると以前から指摘されていましたから、それなりに正当性はあるかもしれませんが、それでもこれは驚くべき出来事です。アップルの権力は巨大ですからね。

 「たかがゲーム配信企業にアップルの権力に対抗できほどの力があるのか?」

 そう思われる人もいるかもしれません。

 が、エピックゲームズという企業は表向きはアメリカの企業って事になっていますが、実は中国の巨大資本がバックにいます。

 つまり、企業単体でアップルに喧嘩を売った訳じゃなく、中国という巨大資本の力を借りているのです。

 ……と言うよりも、むしろ喧嘩を売った本体が中国と考えた方が良さそうです。

 中国はゲーム業界だけに限らず、IT分野全般でアメリカ企業の支配に対抗しようとしています。つまり、これはIT業界の米中戦争の一端である可能性が高そうなのですね。

 中国のIT業界戦略はまだまだ他にもあります。最近、話題になる事が多いeスポーツですが、中国が巨大な資本を投入していて、世界的にはeスポーツは中国中心に回ろうとしています。日本への影響力も馬鹿にならなくて、例えば、eスポーツを運営する財団法人の日本esports促進協会(JEF)は、“日本”って名前が入っていますが、中国資本が注入されていますし、日本のプロゲーマーの多くが配信を行っているMildomは中国の会社です。

 まだまだeスポーツがどの程度の市場規模になるかは分かりませんが、それでも未知の可能性が埋まっている事だけは確かです。そして、知らない人も多いかもしれませんが、日本って世界的に有名なゲームのプレイヤーが意外に多いのですよ。

 僕はストリートファイターVしかやっていないので、他はそれほど詳しくないのですが、例えばアメリカやヨーロッパだけでなく、南アフリカとかドミニカ共和国のプレイヤーが日本のプロゲーマーを知っていたりします。

 早い話が、もしeスポーツ業界が今後発展していくとしたなら、日本は結構有利な立場にいるのです。

 がしかし、日本政府がそれを積極的に活かそうとしているようには思えないのです…… 多少の動きはありますけどね。

 (以上のゲーム業界情報は、主にYouTubeチャンネル「ナカイド / 激辛ゲームレビュー」の「フォートナイトが削除されて大炎上中…理由をまとめてみた」の回を参考にさせていただきました。

 他の動画も分かり易く、そして面白くまとめられてあるので、興味を抱いた方は是非観てみてください)

 情報技術関連の分野を巧く活かせるかどうかが国の行く末を決めるとすら言われている今の世界全体の現状を鑑みるに、これはちょっと鈍る過ぎるように思えます。

 新型コロナウィルス(コロナ19)への対策として、厚生労働省が提供している接触確認アプリ“COCOA”に不具合が多発していますが、これなんかも国の情報技術分野への取り組みのお粗末さがよく分かるエピソードの一つでしょう。

 この問題は世間で様々に批判されていますからここでは具体的には述べませんが、一応、情報技術のエンジニアとして働いていて、この業界について多少の知識のある僕には、何故そんな状況になってしまっているのかが何となく想像できます。

 まず、事情が事情ですから、無理矢理なスケジュールを強行してしまっただろう点があります。完成を急かされた所為で、充分にシステムを練っている時間がなかったのでしょう。

 そして、もう一点は、日本独自の業界の構造的な問題です。

 恐らくは、技術者の実力よりも、“コネ”を重視して人を集める日本のIT業界の性質の所為で、優秀な技術者を集められなかったのだと思うのです。

 日本の場合、仮に優秀な技術者がいると分かっていても、その人に声をかけるとは限りません。技術力が劣っていても、その開発会社とコネのある…… (営業と営業が知り合いとかそんな感じですが) 技術会社に声をかけてしまうんです。結果として、実力不足の人がやって来たりします。

 しかも、技術者の絶対数が少ないですから、人を集める場合、「誰かいない?」と声をかけられた営業が別の会社の営業にその話を回し、その営業が更にまた別の営業に…… と繰り返して、その技術者が開発元に入るまでに何社も経由しているなんて事もあります。

 これ、開発元にとっては困った話です。

 だって、何社も経由している所為で自分達が雇った技術者が本当は“何処の誰なのか分からない”ってことになってしまいますからね。

 僕はある現場でインドの人と一緒になった事があるのですが、その人、ある日「入国管理局に行って来る」と言って休んだきり二度と出社して来なかったです。

 何があったんでしょうねぇ……

 更に、何社も経由する過程で、何処かの営業が(雇われ易くする為に)勝手にスキルシートを改ざんしていて、“雇った技術者が求めるスキルを持っていない”なんて事もあったりなんかもするんです。

 因みに、技術者本人にもその事が知らされていなくて、「いざ開発現場に入ってみたら、全然知らないスキルができる事になっていて困った」なんて言っている人に僕は出会った事があります。

 ぶっちゃけ、詐欺ですよね、これ。

 酷い話はまだまだあります。

 そもそも営業が、紹介して来た技術者の実力を知らないなんて事もあるんです。

 僕の働ている現場で人が足らなくて、自分の会社経由で人を増やしてもらった事があるのですが、営業が「凄くできる人です」と言うので月に100万を超える高額で雇ったのに、大したことがなかった上に、勤務態度まで悪かったなんて事もありました。因みに、その人の代わりに連れて来た人は、もっと悪くてプログラミングができませんでした。

 いやぁ、あの時は、肩身の狭い想いをしましたねぇ……

 営業の人に話を聞いてみると、「現場に入れさえすれば何とかなる」と思っている人もいるみたいなんですが、技術者の立場から言わせてもらうなら、「何とかなってないんだよ! 他の人に負担が集中しているだけで!」てなもんなんですよ。

 つまり、仕方ないから、できる人達ができない人達の分まで仕事をしているだけなんです。

 しかも、そういう技術力がない人達の方が技術力のある人達よりも給料が高いなんてケースもあります。

 例え技術力があっても、弱小な会社に所属していると、その間に入った経由しているだけの会社にマージンを奪われまくって、自分の手元には少ししか入って来ないからなんですがね。普通、紹介手数料って最初の一回だけだと思うのですが、何故かずっと取られ続けるんですよ。

 こう言うのを知ってしまうと、はっきり言って、腐ります。真面目に努力するのが嫌になりますよ。

 技術者の立場が不遇である事を問題視している人は多いですが、中には「君達がたくさんの営業を養っているんだよ」みたいな発言をする人もいました。

 ――いや、なんで、既に成人している立派な大人を養わないといけないのでしょう?

 こんな話を聞いて、「技術者になりたい」と思う人は稀でしょうが、実際に嫌がる人が大勢いるんです。がんばって努力して成果を出しても、それに見合った収入を得られないのですから当たり前ですよね。社会主義国家が没落した原因と同じです。

 (ただし、労働条件は悪いですが、職自体はたくさんあります。まぁ、運が良ければ、労働条件も良いですが)

 はっきり言って悲惨な状況ですが、解決する手段は実にシンプルです。

 多くの技術者を管理するシステムを設けて、そこに技術者の実績とスキルと評価を登録し、営業なんて介さずとも、優秀な技術者を開発元がそこから雇えるようにすれば良いんです。

 こういう仕組みにすれば、開発元は技術者のスキルを把握し易くするなるし、営業にマージンを取られない分だけ技術者を安く雇えるようにもなります。そして、技術者はがんばればがんばった分だけ評価を受けられ、やはり営業にマージンを取られない分だけ収入が高くなります。当然、技術者の技術力も上がっていきます。

 もし、これを実現できたなら、日本の情報技術産業全体が活性化するでしょう。アプリやソフトといった商品の料金や値段が安くなってクオリティが上がり、技術者の質も向上し、労働条件だって良くなります。

 日本社会全体にとって、ほぼ間違いなくプラスの影響があります。

 がしかし、これを実現しようとしたなら、絶対に反対する勢力が出てきます。

 まぁ、簡単に分かると思いますが、技術者を仲介する事で収入を得ている営業職の人達がいるからですね。彼らは職を奪われてしまいます。

 恐らく、こんなシステムを立ち上げようとしたなら、官僚やら政治家やらが動いて潰しにかかるでしょう。当然彼らは、業界団体から見返りを得ています。

 「え? 日本社会全体の利益になるのに、そんな事を官僚や政治家がするの?」

 なんて思ったピュアな人達もいるかもしれませんが、“日本が貧乏になろうが、自分達さえ儲かればそれで良い”ってなノリの官僚や政治家達は大勢いるんですよ。

 例えば、実店舗の収益が減るのでネット上の売買が禁止されている商品が日本にはあります。医薬品が有名ですが、(ごめんなさい、これは詳しくないのですが)海外のゲームソフトの場合なんかでもそんな話を聞きますし、世界では活気づいているシェアリングエコノミーも日本では規制されていて、まったく普及をしていません(最近は、コロナ19の影響で下火になっていそうですがね)。

 それはもちろん、日本の官僚や政治家達にそれだけの権力がある事を意味してもいます。その権力を利用して、業界団体の既得権益を守り、その見返りとして官僚や政治家達が不当に利益を得ているという、まるで社会主義国家みたいな体制が、日本社会の現状なんです。残念ながら。

 もしも疑われるのなら、「電気用品の技術上の基準を定める省令」で検索をかけてみてください。直ぐにヒットします。

 これは官僚が製造業に対して持っている権限の一例ですが、これを悪用して官僚達は民間企業の自由な活動を抑制し、日本社会の経済発展を阻んでいるんです。

 それは数字にも顕著に表れていて、1989年、世界全体の日本が占めるGDPの割合は15%もありました。が、その30年後の2019年には、なんと6%にまで低下してしまっています。

 因みに、アメリカは28%から25%とあまり変わっていません。

 (参考文献:「大マスコミが絶対書けない事 この本読んだらええねん! 著者:辛坊治郎 光文社」231ページ辺りから)

 それが最も心配なのはその情報技術分野で、官僚達の無知も手伝って酷い状況になっています。

 多くの先進諸国や、発展途上国では、情報技術分野を活性化させようとしているのに、日本は既得権益の確保の為にまるで逆の事をやってしまっているのですね。

 

 ――ただし。

 当然ながら、そんな状況を憂いている人達もいます。

 

 例えば、かつて小泉政権は“構造改革”を行いました。この中で「官から民へ」と訴えられましたが、この発想は、「規制されている民間の力を解放して、国が無駄遣いしている資源を民間に有効活用してもらおう」というものです。

 この小泉政権下の改革は、残念ながら充分に行われないまま終わってしまったのですが、小泉政権の流れを受け継いで誕生したと言われている安倍政権では、アベノミクスと言われる経済政策が計画され、やはり規制改革・緩和によって規制の所為で抑制されている民間の力を解放しようという動きが出ました。

 が、ところがどっこい、これは“動きが出た”だけでした。

 いえ、規制改革が進んだ分野もあるにはあるのですが、とてもじゃありませんが、充分とは言えないものだったのです。少なくとも、当時の安倍首相自身の「ドリルの刃となって岩盤規制に穴を空ける」というような発言から期待できる内容には遠く及ばなかったのです。

 そして、規制改革を行わない代わりに、安倍政権は大胆な金融緩和政策をし始めてしまいました。

 金融緩和もアベノミクスの計画の一つではありましたが、これは規制改革によって解放された結果、民間で生じるだろう資金需要を満たす為のもので、つまりは規制改革とセットでなければいけないはずなのです。

 しかも、放っておけば深刻な副作用が日本の経済社会を襲う危険すらもあります。

 この当時、安倍政権がどうしてこのような政策を実行しているのか分からず、僕は大いに不安を抱きました。「安倍政権が暴走しているかも」と心配していたのです。

 安倍政権は日本会議という名の“宗教団体や自己啓発セミナー系団体の連合体”と密接な繋がりがあるのですが、宗教といったらしばし暴走する性質を持っています。

 しかも「信念をもって臨めばなんとかなる」的な精神論のような主張も耳にしていたので、「これは警鐘を鳴らさなくてはならない」と考えて実際にそんなエッセイも書いたのですが、今はもしかしたら、経済におけるプラシーボ効果のようなものを狙ったのではないか?と思っています。

 これは「金融政策の「誤解」 著者:早川英男 慶応義塾大学出版会」という本に載っていた推測なのですが(37ページ辺りから)、経済では理論が間違っていても市場がそれを信じる事で実際に効果を発揮する現象が度々起こるそうなんです。

 実際、安倍政権は表向きは大胆な金融緩和の姿勢を崩しませんでしたが、裏では確りと慎重な政策を執っていたんです。長期国債の買い取り額を下げたり、副作用に耐えられるようにする為か、地方銀行の再編を行って体力をつけさせたり。

 その本当の意図は分かりませんが、安倍政権がアベノミクスの内容を変化させて、別の政策を執り始めたのは確かです。

 では、どうして安倍政権は当初、多くの経済専門家が支持をした政策を実行せず、別の政策をし始めてしまったのでしょうか?

 これについての一般的な見方は、「官僚の抵抗が激しく、それに負けてしまった」というものです。

 (ここで安倍政権支持者の方々が、「官僚に負けるな!」とエールでも送ったのなら話は分かるのですが、どうもほとんど人達は無反応だったみたいです。或いは、アベノミクスという政策を理解しないまま支持していたのかもしれません)

 小泉政権時代にも“抵抗勢力”という言葉が流行りましたが、それと同じで、アベノミクスの規制改革に反対する勢力が抵抗してきた為に、政策を曲げざるを得なかったというのですね。

 もちろん、“反対する勢力”とは、官僚達が主導する様々な業界の関連団体です。一部にはマスコミだって入っているでしょう。

 これが事実であるかどうか、確かめる術はないと僕は思っていました。ところが、2020年の夏に安倍政権が急遽終わり、菅政権が始まって事情が変わりました。

 

 成立した当初、僕の菅政権に対する見方は冷めたものでした。

 「どうせ大して内容も変わらないだろうに、なんで、新政権が始まっただけで支持率が上がるんだよ?」

 なんて思って斜に構えていたのを覚えています。

 が、政策の発表を見てその認識が変わりました。「規制改革」という言葉を菅総理が使ったからです。

 アベノミクスに「規制改革」が入っていた事を、国民の大半は忘れていたように思いますから、そのまま黙っておけば「公約破り」なんて批判は起こらないでしょう。なのに敢えてその言葉を使ったからには、本気でそれに取り組む意志があると判断できます。

 それから、菅政権は実際にデジタル庁を創設しました。「遅れている日本の情報技術産業に危機感を抱いていて、本気で促進させるつもりがある」という期待を抱かせます。

 また、菅総理は“選択的夫婦別姓”に前向きな発言もしています。

 どうして、これに僕が注目をするのかと言うと、実はこの“夫婦別姓”には、先に述べた日本会議が反対をしているんです。ならば、菅総理は日本会議という宗教団体からは比較的距離が離れていると考えるべきでしょう。

 それで僕は「菅政権は安倍政権とは違うのかもしれない」と思うようになったのです。

 そして、これによって、安倍政権がアベノミクスにあった“規制改革”を実施しなかったのが本当に官僚達の抵抗に因るものなのかどうかが分かるはずだとも思っていました。

 もし、本当に抵抗を受けている所為だったならば、これから菅政権への妨害が始まるはずですからね。それで僕はその点に注目をして、それからニュースを観るようになったのです。果たして、何らかの妨害が行われるのかどうか……

 そんなところで起こったのが、“日本学術会議任命拒否問題”でした。

 安倍政権の政策に反対していた学者を、菅総理が日本学術会議に任命しなかったというのがその概要ですが、はっきり言って不可解です。何故なら、この日本学術会議はそれほど重要なものではなく、わざわざリスクを冒してまで任命を拒否するほどの価値はないからです。

 つまり、“リスクとリターンのバランスが悪い”のですよ。

 本当に菅総理はそれを把握した上で任命を拒否したのでしょうか? リスクとリターンのバランスも判断もできないような人間が、総理の座にまで上がれるとは思えないのですが。

 実は実際に菅総理は「自分は知らない」といったような発言を一度しているんです。その後、何故かその発言はなかった事にされたかのような扱いになり、随分と長い間批判され続けましたが、どうにも腑に落ちない感覚は拭えません。

 また、こんな変な内容のニュースも僕は目にしました。

 「菅政権が始めた地方銀行の再編…」

 前述した通り、地方銀行の再編を始めたのは安倍政権です。菅政権ではありません。実は地方銀行の再編にはプラスのイメージがあるばかりではなく、地方銀行の痛みを伴うというマイナスのイメージもあるのです。穿った見方をするのなら、そのマイナスのイメージによって菅政権にダメージを与えようとしたとも捉えられます。

 もちろん、単なるミスかもしれませんがね。

 その後も、菅政権にダメージを与えるスキャンダルは続きました。

 安倍政権時代に起こった“桜を見る会問題”が、何故か今更マスコミにリークされて問題を追及されました。因みにこういったスキャンダルのリーク元が官僚である事は珍しくないそうです。

 それに加えて、自民党議員の養鶏業者からの資金提供疑惑(いえ、この程度のスキャンダルならば、普通にどんな政権の時でも珍しくない頻度で起こっていますが)。最近では、菅総理の長男が絡んだ総務省幹部への接待疑惑が浮上しています。

 断っておきますが、これら全てが捏造や曲解報道だと言っている訳ではないんです。政治家というものは叩けば何かしら埃が出るらしいですから、多かれ少なかれ罪はあるのでしょう(日本学術会議任命拒否問題については単に罠に嵌められただけかもしれませんが)。

 がしかし、自分達にとって都合が良い政権だったなら、それらスキャンダルを隠したままにし、邪魔になる政権だったならリークして潰しにかかるといった事が行われている可能性はかなり高いのではないでしょうか?

 

 僕には自民党政権の全てを肯定するつもりはありません。

 と言うか、僕の他のエッセイを読んでいる人なら知っていると思いますが、むしろ政権に対して批判的な主張をする方が多いです。まぁ、適切な批判はアドバイスであって、決して攻撃ではないのですが、それは置いておいて、とにかく中立に政治を評価するスタンスを心がけようとしています。

 だから、自民党政権の軍事志向が強すぎる点や原子力政策などには反対をしていますが、それでも今の日本にとって必要な改革を行おうとしている点は評価し、応援するべきだとも思っているのです。

 例えば、菅政権は“オンライン授業”を普及させようとしています(少なくとも、当初はそう言っていました)。

 これは、これからの日本にとってとても重要です。

 日本の情報技術産業は遅れていますが、その原因の一つが教育不足です。教育する人もいなければ、環境も整っていない。

 この問題点を乗り越える為には、オンライン授業の普及が不可欠です。オンライン授業は、原理的には、一度に一億人でも十億人でも教えられるからです。成功すれば、一気に優秀な技術者を増やせます。

 また、AIやロボットなどが普及していけば、それらに職を奪われる人が出て来ると予想できます(営業職とか、ですが)。そういった失業者達の存在は普通は社会問題と見做されますが、考え方を変えるのならば、失業者は貴重な労働資源だとも表現できます。その労働資源を新たな産業に充てれば、経済成長が期待できるからです。

 がしかし、当然ながら、新たなスキルを身に付けてもらわなくては、その労働資源を有効に活かす事は難しいでしょう。

 その新たなスキルを身に付けてもらう為にもオンライン授業は非常に効果的なんです。低いコストで大規模の教育が可能ですから。

 だから、オンライン授業の普及と質の向上が、これからの日本社会にとってとても重要なんですね。

 ところが、これに文部科学省が反対しているそうです。

 オンライン授業が普及すれば、教員の数が減らされる。そうなると、予算が削られてしまう。自分達の権益が失われる。だから嫌だ。

 そんな理屈ですね。

 因みに、日本学術会議の管轄は確か文部科学省だったはずです。

 「……もしかしたら、何か仕組んだのか?」

 って、思わず邪推してしまいたくなりませんか?

 

 余談ですが、よく「官僚の仕事は大変だ」という主張を耳にします。ですが、僕はそういった主張を耳にする度に、「一体、どんな仕事のやり方をしているか教えて欲しい」とそう思ってしまうんです。

 何故なら、国が関わるシステムの開発をした時に、物凄く不効率な仕事の体制になっていたのを覚えていて、しなくて良い苦労をたくさんさせられた嫌な記憶があるからです。

 使いもしない、ただあるだけのような資料を膨大に作らされたり、国が決めた同じコードの体系が統一されていなくて、その所為でプログラミングが煩雑になってしまったり、いちいち手続きが面倒だったり。

 あんな仕事のやり方をしていたら、コストがかかるのは当り前でしょう。

 菅政権になってハンコ制度の廃止が促進されましたが、そんなもん民間の企業じゃとっくの昔に廃れていて、使う場面は限定的です(いえ、僕がいるのが情報技術産業だからかもしれませんがね)。

 上席者が承認する場合は、その上席者にオンラインアプリの承認権限を与えて、そのアプリ上から誰かが申請を出したらその承認者に自動でメールが飛んで、オンラインを通じて承認…… ってのが普通の流れです。わざわざ直接ハンコを押してもらうなんて無駄な作業はカットしています。

 新型コロナウィルス(コロナ19)対策の主な担当は、当然、厚生労働省ですが、この厚生労働省にも良くない話はたくさんあります。

 最も印象に残っているのは“薬害エイズ問題”。エイズを感染させてしまうかもしれないと分かっている血液製剤を、厚生労働省は天下り先の企業の利益に配慮して、そのまま市場に流通させてしまったのです。現在、それによる死者は実に600人にもなります。

 つまり、権益確保の為に国が行った大量殺人事件です。

 これは1980年代の話ですから、少々時代が古いですが、2007年にも薬害C型肝炎の患者データが、厚生労働省から出てきたなんて事件が起こりました。

 C型肝炎は、早くから治療をすれば治る病気ですが、見つかるのが遅くなったなら手遅れになります。患者本人は、自分がC型肝炎に感染している可能性があるかどうかなんて分かりませんから、厚生労働省が伝えるしかないんです。

 つまり、それを隠しておくことは殺人にも等しいのですが、厚生労働省はそれをわざと隠していた可能性が濃厚だそうです。追及されて、致し方なく出して来たという流れらしいですから。

 こういうエピソードを知った上で、厚生労働省のコロナ19への対応を観ていると、思わず不吉な想像をしてしまいませんか?

 代表例は、何故か充実させようとしないPCR検査。

 (ごめんなさい。詳しくは知らないのですが、安倍政権側がPCR検査を充実させようとしたのに、厚生労働省がそれを潰してしまったという話を耳にした事があります。裏は取っていないのですが)

 民間では三千円弱ほどで提供しているところもあるのに、厚生労働省の場合は二万円くらいかかってしまう(2021年2月現在)。

 利権絡みの何かがあるのじゃないか?と思わず勘ぐってしまいますよね。邪推かもしれませんが……

 

 色々な意味で改革が必要なのじゃないでしょうか?

 

 ただ、その為にはそれに賛同する多く“国民の声”が必要です。そして、日本という国はそういった面が非常に弱い。

 今のままでは難しいでしょう。

 或いは、この日本で新たな技術を取り入れた新たな産業を興す為には「新たな権益を与えるから、今の権益は諦めてくれ」といったような官僚達との取引が必要になって来るのかもしれません。

 不本意ですがね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 興味深く拝見しました。 人が足りなくて引っ張ってきたら、スキルのない人だったとか……IT業界あるあるのようですね。私も直面したことがあります。SEのはずが、コールセンターでexcelとかにつ…
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