お茶ともだち
ぼくはナオ。
とある町のマンションで、長田一家に飼われている小さな黒ネコだ。
家族は父親のタカヤ、ママさん、もうすぐ受験生になる中二のルカ、その弟でちょっとおっとりしたショータの四人。
みんなとても仲が良い。
そんな家族と一緒に暮らすぼくは、一見すると小さめの普通のネコなんだけど、その辺のネコとは違うところがある。
実は、長田家の誰よりも長生きしている「化け猫」だったりするのだ。
これはそんな四人と一匹の冬のおはなし。
◇◇◇
過ごしやすかった秋が遠くへ行ってしまうと、冬はあっという間に滑り込んできた。
山はすっかり赤や黄色にお化粧を終えたし、ぴゅうと風が鳴るだけで背筋が寒くなる。
葉がすっかり落ちるのと雪が降るの、どっちが早いかな?
秋は夜明けの清々しさが気持ち良かったけど、冬はやっぱり日が高く昇ってからに限る。
リビングの窓から明るい陽射しが柔らかく差し込むのを見て、ぼくは猫ちぐらから顔を出した。
「これからおでかけ?」
「にゃあ」
「ナオのことだから大丈夫だと思うけど、気を付けてね」
気付いたママさんが赤い首輪を付けてから玄関を開けてくれる。
途端に空気がぴんと張り詰めた。
マンションの廊下には似たような扉がいっぱい並んでいて、ぼくはそれを横目にトコトコと歩く。
最初に出会ったのは数軒先に住んでいる若い女性と小さな男の子だった。
「あ、なおちゃんだー」
「ナオちゃんもお散歩かな? 一緒に降りる?」
「にゃあ」
まだ幼い男の子がぴょんぴょん跳ねてエレベーターのボタンを押し、ぼくを元気に手招く。こんな風に、知っている人に会えた時は「ご一緒」させてもらうのだ。
二人とはマンションの入り口でさよならし、道を右に折れてすぐ隣の建物に向かう。
そこには二階建ての立派なお家が建っていて、ぼくは体を屈めてフェンスの下からするするっと入り込んだ。お邪魔しまーす。
「にゃあ」
お花や植木が綺麗に整えられた庭に回り込むと、甘い香りが黒い鼻に届く。
そこで剪定ばさみを手に作業していた背中へ控えめに「来たよー」と声をかけると、ゆっくりと振り返った。
「あぁ、ナオちゃん。いらっしゃい。また来てくれたのね」
ふわりと笑ったのは、その柔らかい笑顔みたいな白髪頭と丸いメガネをした、エプロン姿のおばあさん。ぼく達が住むマンションの大家さんだ。
もちろん、ぼくのことも引っ越してきた時から知っている。
「顔を見られて嬉しいわ。今お茶の準備をするから、縁側で待っていて?」
大家さんは鋏を腰のケースに仕舞い込むと、笑みを更に濃くした。
町ではあまり見かけない縁側付きのお家や、良く手入れされたこの庭が好きで、時々こうやって遊びに来るんだよ。
ぼくの周りには優しい人がいっぱいいて楽しいから、寒い冬でも散歩は止められないね。




