白い桜と桜色〜天使があたためる傷ついた心〜
「咲良ー、ねぇ、もうNEW人類は作らないの?」
光を纏ったような少女がなんの前触れもなく僕に話し掛けてきた。
「うん。
NEW人類を創ったとして、その子達が幸せに生きれるように育てていかないといけないからね。
創って終わりじゃないんだよ。」
「えー?
作りましょうよぉ。」
彼女は、くったくのない子供のように僕にそれをねだる。
「だからダメだって。」
「だったら私がここに来た目的が達成できないじゃない。
咲良の研究は確かにどれも素晴らしいわ。
その手伝いができることを光栄に思ってる。
だけど私は、みんながあっと驚くようなすっごい研究がしたいのよ!
功績が欲しいのっ!」
不満げな表情で口を尖らせ自分本位に僕を責める。
僕の都合などお構いなしと言ったような言い草だ。
「ノエル、君がNEW人類に愛を注げるようになれば考えるよ。
勿論、君主導でね。」
僕は、そんな彼女をなだめるように言い聞かせる。
「NEW人類に愛?
なにそれ?寒っ!」
そんな時だった。
その人物が僕の研究室を訪ねてきたのは。
彼女は、サラ。
27歳。
僕とは違う研究室で助教授をしている。
背が高く僕とあまり変わらない身長の彼女は自信に満ち溢れ、女王のような貫禄さえ漂わせている。
編み込まれたロングヘアにぽってりとした唇、肉感的な身体つきに大きくて形のよいお尻。
過去に全米のミスコンで優勝を飾ったことがある彼女は知的で優美だ。
肌の色の違う彼女を椅子へ座らせ、今日僕の研究室を訪ねてきた理由を訊ねる。
と同時に何かが頭をよぎった。
僕はパックリと開いていく心の傷を隠しながら平静を保つ。
心臓がドクンドクンと激しく早く脈打つのが分かる。
彼女を見て、僕に折檻を加えた黒人メイドを思い出し心と身体が引き裂かれそうになっていたのだ。
「今日は、紗倉教授にお願いがあってきたのよ。」
「なんのお願いかな?」
「あなたに私の子供を創って欲しいの。
私は子供が作れない身体だから勿論NEW人類の意味でね。」
固い意志を伝えるようにしっかりとした口調で彼女は話す。
「僕は、今はNEW人類を作る予定はないよ。
もし創ったとして、君はその子を一生大切にできるの?」
NEW人類の輝く未来を願い真剣な表情で彼女に問いかける。
「勿論大切に育てていくつもりよ。
私は病気で子宮が無くて結婚は諦めているのよ。
でもどうしても子供は欲しくて。
藁にもすがる思いで、あなたに依頼しにきたの。」
僕は彼女の真摯な眼差しを信じ、彼女にこう提案した。
「僕には君の願いを叶えることはできないけど、過去にアイシェというNEW人類を創った研究機関がある。
そこに尋ねてみようか?」
「ありがとう。
そうしてくれると助かるわ。」
彼女はぱっと花が咲いたように笑う。
彼女が帰ると僕はリルムへ今回の主旨をメールで送信した。
と、その僕を心配そうに見つめる視線に気付いた。
サクラだ。
「さーちゃん。」
「サクラ、どうしたの?」
「サクラとさーちゃんは日本人。
でも違う。
サクラと咲も違う。
みんな違う。
だからね…。」
「うん、わかってるよ。
サラも僕に折檻を加えた黒人メイドとは違う。
そう、言いたいんだろ?」
「うん。」
サクラは翼を広げた天使が僕を受け入れてくれたかのように抱擁し、僕が落ち着くまでそのまま僕の心をあたためてくれていた。




