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遅時期に咲く深山桜

深山桜(みやまざくら)とは、日本で5月6月に咲くとされる桜の品種だ。

風で舞い上がる白色の桜の花弁(はなびら)は、天使の羽を思わせ厳かな雰囲気へと誘い込む。



深山(みやま)ノエル(14)。

僕は彼女の扱いに困っていた。

仕事は早くなにも問題ないのだが、なにかと言えばサクラと咲に突っかかってくるのだ。


サクラと咲も参っているようで、ほとほと手を妬いていた。




「サクラ、なに?

あなたこんな難しいことやってるの?」


「難しくはないぞ。

この世界に秩序があるように、宇宙に法則が存在するように、化学にもルールがあって。

これは決められた遺伝子の法則に従い、予測を立て、結果を導き出してるだけなのだぞ。」


「ふーん。」

サクラの説明に感心したような、不満があるようなノエルの微妙な顔。


「ちょっと、貸して!」

ノエルがサクラが研究しているデータを奪い取る。


「ちょっ!

まだなのだ。

まだ出来てないからダメ!」



ー一体なにが気に入らないって言うんだ。ー

僕は頭を悩ませる。

「ほらノエル。

サクラの邪魔しない。

それ返して。」


「嫌よ!」


「ほら、わがまま言わないの。」

僕はノエルの手からそれを取り、サクラへ返す。



「やっぱり、咲良は天才ね。

こんなモノ作っちゃうだなんて。

サクラと咲は、まるで世界の研究データが蓄積されたデータベース装備のAIみたい。」


「それ褒め言葉?」


「褒め言葉かどうかはわからないけど、思ったままを言っただけ。」

一々、トゲのある言い方をする。




「皆さん、お茶が入りましたよ。」

その嫌な雰囲気を変えるように咲の柔らかい声が聞こえた。


「今日は桜の紅茶にしてみました。」

研究室に紅茶のいい香りが立ち込める。

珈琲紅茶兼用のマグカップに淹れられた紅茶に、小さなトレイに乗ったクッキー。

その香りに包まれたまま大きく深呼吸をすると、桜の香りが僕の中に入ってきて僕の気分を落ち着かせてくれる。

それはまるで幸せを運んでくれる春のたおやかな風のよう。



僕は紅茶の香りを嗅ぎながら、カップのふちに口をつける。

「いい香りだ。」


「さーちゃん、気に入ってくれた?」


「うん、とても。」


「よかった。

僕もいただこうかな。」


咲も春の到来を告げるかのような香りの紅茶を楽しんでいる。

美しさをたたえたような咲の眼差しの先にはサクラが居て、サクラを想う咲からは色香が漂う。



「疲れた。

やっとホッとできる感じ。」


「咲は頑張り過ぎだよ。」


「そうでもしなきゃ、追いつけないんだ。

これでもまだ足りないよ。

さーちゃんが僕やサクラにしてくれたみたいに僕はサクラを幸せにしたいんだ。」

咲からは大人としての責任が感じられた。



ー君はもうこんなにも成長しているんだね。ー


僕は、窓から外の空を見上げこれから訪れる未来に思いを馳せていた。

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