光と陰
サクラと咲が登校してきた。
暫く顔を見てなかったから僕は嬉しくて2人に駆け寄る。
「さーちゃん、久しぶり。」
あれからたった1ヶ月だというのに、咲は逞しく成長していた。
貫禄が出て男としての色気は増し、彼はもう一人前の大人のように見える。
「久しぶり。2人とも元気にしてた?」
ドキドキを抑えながら僕は咲に声を掛ける。
サクラは咲の後ろから顔を覗かせ、目が合うとまた咲のうしろに引っ込んだ。
久しぶりに見るサクラもやはり可愛い。
「元気だったよ。さーちゃんも元気だった?」
「勿論。」
心地いい。
この3人で居ると心が安らぐ。
アイシェの言うようにここが僕の居場所なんだろう。
と、その関係を壊すかのように悪魔のような声が水を差す。
「これが咲良の作ったお人形ね。とても綺麗。
よく出来てるじゃない?」
彼女はサクラと咲を観察するように見て、それから続ける。
「咲良から2人はお付き合いしてるって聞いてたけど、お人形はお人形同士お似合いね。
私はノエル。
よろしく。」
僕は彼女を叱ろうか迷っていた。
価値観は人それぞれ違うとはいえ、いくらなんでも言い過ぎだ。
そんな声ももろともせず咲は丁寧な挨拶を返す。
「初めまして。ノエルさん。
あなたが来ることは前々から、教授の紗倉より伺っておりました。
僕の名前は咲。そして、僕の彼女のサクラです。
名前はお人形じゃありませんので。」
礼儀正しい挨拶をしながらも、言うことはビシッと言う。
スマートでカッコいいその姿に僕は、惚れそうだ。
彼女はそれでもやめない。
「あなた達、人工の精子と人工の卵子から生まれたんでしょ?
それって人が作為的に遺伝子を組み替えて作ったものじゃない?
あなた達がチートなのも遺伝子配列のお陰。
動く精巧なお人形だわ。」
これには、いい加減僕でも頭にくる。
声を荒らげノエルを叱る。
「ノエル!
なんてことを言うんだよ。
2人は人権も認められていて人として生きてるの。
人なの!」
「本当に人なら、人として生きるのが普通じゃない!
『人として生きてるの』なんて表現使うのは、お人形だからじゃない。」
僕は殴りたくなる気持ちを抑える。
それを察してか咲が彼女に反論する。
「お言葉ですが、ノエルさん。
人口の精子と卵子。天然の精子と卵子になんの違いがあるのでしょう。
遺伝子配列を変えるデザイナーズベイビーなら天然の精子と卵子に手を加え創ることもできます。
天然の精子と卵子に手を加えたらそれはお人形になるのですか?
それに宿る魂や心にはなんの違いがあるのでしょう。」
「只のタンパク質から誕生したのがアナタ達。
つまりは物と一緒!
本物の人の誕生はね、もっと神秘的で神聖なものなのっ!」
普段の天使のように愛くるしい彼女からは考えられないような言葉に僕は絶句した。
光と陰、天使と悪魔が彼女の中では混在している。
「サクラと咲の誕生も神秘的で神聖なものだったよ。
それはもう美しいものだった。
僕はサクラや咲が受精した時、感動で泣いたんだ。
幸せにしたいと願った。
神がアダムとリリスを創造した時だって、そう感じたと思う!
神から創られた人の子孫である君は、神のお人形なのかい?」
僕はそれだけを言いサクラと咲を連れ、僕の私室へと篭った。




