陽だまり
ノエルは優秀だ。
指示をテキパキとこなし、僕の研究を手伝う。
その姿勢はまだ14歳の少女とは思えず大人顔負け。
僕の研究は彼女の手助けでなんの障害もなく進んでいく。
大した頭脳だ。
彼女は、パソコンを打つスピードも早く、流暢かつ正確な文章で研究の進捗状況をまとめる。
「咲良ー。できた。次は?」
「早かったね。」
「当然でしょ?私を誰だと思ってるの?」
「素晴らしいよ。それじゃあ、そろそろ休憩にしよう。」
彼女と学食へ向かう。
一緒にカレーライスを食べ、まったりとしたひと時を楽しむ。
彼女と居ると楽しい。
会話が弾む。
僕は、心がポカポカとしてくるのを感じていた。
「咲良、今度私のアパートに来ない?」
「え?」
「歓迎会してよ。」
「そうだね。歓迎会まだだったね。」
「それじゃあ、決まりっ!」
僕は、次の土曜に彼女のアパートへ行くこととなった。
楽しみだ。
ケーキと花束を用意しなきゃ。
彼女が僕の研究室へ来てから、僕はずっと陽だまりの中にいる。
その陽だまりの中ではなにも嫌なことは考えなくてよくて、居心地がよくて、例えるなら楽園みたいだ。
まるで彼女は天使のよう。
空を覆った薄雲から美しい陽光が降りてくる様のように彼女は美しく明るい。
天真爛漫な彼女は、気づくといつも僕が欲しい言葉をくれていた。
その日となり、僕は彼女のアパートへと向かう。
「咲良、来てくれてありがとう。」
満面の笑みで彼女は僕を出迎えてくれる。
「こちらこそ、お招きありがとう。」
お互いに挨拶を交わし、楽しい歓迎会のスタートだ。
彼女に花束を渡し、ケーキを一緒に食べ、日本のアニメのDVDを見て過ごす。
そのうち彼女の家庭環境の話となり、僕は真剣にその話を聞いていた。
彼女の母親はドイツの研究機関で働いていて、未婚で彼女を生んだそうだ。
父親は誰だか知ってるが、直接会ったことはないらしい。
母親は仕事で忙しく、彼女は父方の親戚を転々としていたと言う。
会ったこともない父の血縁者。
毎日肩身が狭く遠慮しながら周りに合わせる。
それがとても苦痛で、幼い頃から普段の生活の中で演技することを覚えたと言う。
「私、可哀想でしょ?」
と、冗談っぽく彼女は笑う。
それは寂しげで、儚げで、親と断絶した僕の過去と重なった。
いつも明るい彼女からは想像もつかない話だ。
なんの問題もなく育ってきた子のように見えるのに。
「咲良…、私のこと彼女だと思ってる?」
「え?」
「やっぱりあれ、冗談だと思ってたんだね。
私がまだ14歳だから?」
彼女は上目遣いで僕を見る。
「あ…、うん。」
「私は本気よ。
そりゃ、咲良の返事はなかったけどOKしてくれてるものとばかり思ってた。
私の何処が不満なの?
私、可愛いし胸だってあるし頭も良いし。
咲良と付き合うに足りるスペックだと思うんだけど。」
「スペックとかそんなんじゃないよ。
同じ年頃の優しいボーイフレンドでも作りなさい。」
彼女の幸せを願い僕は心からの言葉を彼女に掛けた。
「私に釣り合う男が居ないのよ!
私、今まで誰とも付き合ったことないの。
私と釣り合う男は、咲良くらいなんだから。」
彼女は、ブーっと頰を膨らませ僕に顔を近づける。
子供っぽくて無邪気な様子にサクラの顔を思い出し、彼女の頭を撫でながら傷ついた彼女の心を癒すのに僕はなにができるんだろうと考えていた。




