別離?
「さーちゃん、サクラを連れてこの家を出ようと思うんだ。」
唐突なことに僕の心は揺れる。
「え?なんで?」
取り繕うように僕は惚けた。
「うん…。
色々考えてね。」
「サクラはなんて言ってるの?」
「サクラにはまだ話してない。」
「ここに居ればいいよ。
部屋が狭いならもっと広いところを借りよう。」
「そういうことじゃないよ。
僕が借りようとしてるところだって1Kのアパートだし。」
「だったら…。」
「さーちゃん、本当はわかってるよね?」
僕は言葉に詰まった。
「兎に角、そういうことだから。」
事務的に言い放つ咲の声が僕には痛い。
だけど、この関係を崩したのは僕だ。
僕が気持ちを口に出してしまったから。
僕は、サクラへの想いが止められなくなっていた。
それは、サクラも同じだろう。
アイシェのことがあり、サクラが咲を愛しながらも僕のことも愛してくれていることを知ったのだ。
咲と関係を持ってからてっきり僕への想いは薄れていったのだとばかり思っていた。
その想いにサクラ自身は気づいていたのだろうか?
僕は、揺れる感情を持て余す。
僕はサクラの幸せを願いながらも、サクラが欲しい。
自分の矛盾した思考に飲み込まれていく。
-君を…、愛している-
咲のアパートは思ってたよりも早く決まり、ここを出て行く日となった。
「さーちゃん、今まで色々ありがとう。」
サクラは咲の後ろに隠れている。
「いいよ。
僕が君達を創ったんだからね。」
僕は、いつもの言葉を掛ける。
「それから大学、暫く休むから。」
「わかった。
引っ越し、なにか手伝おうか?」
「それもあるけど…。
サクラを抱くの。」
「そうか…。」
サクラは、こちらに顔を見せない。
きっと咲の後ろで顔を真っ赤にしているのだろう。
最後くらいサクラの顔を見たいんだけどな…。
僕は残念に思いながらも、2人の門出を応援する。
「何かあったら帰っておいでね。
ううん…、何もなくても帰っておいで。」
「でもそうしたらさーちゃん、サクラへの気持ち止められる?」
「わかってるんだね。」
「それくらいは。」
何年ぶりかに1人になった部屋で、虚無感が襲ってくる。
何もしたくないような倦怠感の中、僕は独り眠気に吸い込まれていった。




