桜咲く
僕は、自分がやってきたことは間違いない。
そう自分に言い聞かせた。
どんなに自分が汚れても、この世に命が宿ったサクラを産みだし育てるのが僕の使命だ。
そう思った。
「サクラ、僕が全部悪かった。僕が君を嫁としてプログラムしなければ君が傷つくことはなかったんだ。『神様、不潔です。』これだけのことだったんだ。
そうしたら、もしかしたら僕達は未来で恋に落ちたかもしれないし、永久に神様と人間の関係だったかもしれない。
君にその選択肢さえ与えなかった僕が悪いんだ。」
僕は泣き続けているサクラに近寄り、優しく頭を撫でる。
「やっと、僕が産み出した君に触れることができた。」
顔を上げたサクラをまじまじと見る。
近くで見ると余計に綺麗で男なら誰でも恋に落ちてしまいそうだ。
「君に見せたいものがある。涙を拭いて。」
ハンカチを差し出すと、サクラは震える手で受け取った。
なんて白くて綺麗な手なんだろう。
爪は桜貝のようにピンクで、どんな宝石よりも澄んでいる。
見とれそうになるのを必死で抑え、サクラが泣き止むのを待つ。
ようやく泣き止む頃には、外は夕日で赤く染まっていた。
サクラがゆっくりと立ち上がる。
サクラが寒くないよう白衣を掛け、手を優しく握り、2人で歩く。
行き交う学生は皆こちらを振り返り、サクラに見とれている。
あーあ、これで普通に出会えて居たらななんて思いながら、外へ出た。
その時風が吹き、ピンクの花びらが舞い上がる。
サクラの目線が花びらを追う。
「わぁ、綺麗。」
サクラの可愛らしい声。
目の前には大輪の桜の木。
-この3年間。ううん、君が産まれることが決まった日よりずっと前から、これを君に見せたかったんだ。-
2人で見る桜は毎年見るものよりずっと美しく、いつまでもその木を見つめていた。