美味しい水
「さーちゃん、相手して。」
「だぁめ。今、アイシェの勉強中。」
「じゃあ、パパ君。遊んで。遊んでー。」
サクラが駄々っ子のようにワガママを言う。
最近、アイシェに付きっきりでサクラと咲との時間を作ってあげれていない。
不満が溜まったサクラがこうなるのも無理もない。
でもなぁ…。
「こういう時だけ都合よく、パパを使うなよ!!」
「だって、さーちゃんはサクラを創った神様なのだろ?パパ君なのだろ?」
「そうだね。もう、パパでもなんでも良いよ。」
「わーん、パパ君が怒ったぁ。」
「怒ってないってば。」
怒るわけないじゃないか。
僕は、君が大好きなんだぞ。
口を尖らせ駄々捏ねてるとこだって可愛くて可愛くてしょうがないんだ。
「紗倉教授、私なら平気です。
サクラさんや咲さんとお外へ行かれてはどうでしょう?」
アイシェが僕の気持ちを察し、サクラ達と遊んでやるようにと促す。
「でも、大丈夫?」
「はい。
教育プログラムには慣れましたから自主学習できます。
だって、サクラさんや咲さんもそうしてきたのでしょう?
私だって、やれば出来ます。」
その力強い受け答えに、僕達は久しぶりに3人であの場所へ向かう。
暫く前に、美味しい水が欲しいと言っていたラーメン店だ。
ダンボールに沢山の人口湧水を詰め、少しだけあの時の強栄養剤を詰める。
僕達は車の中で音楽を聴いたり、歌を歌ったりしているとあっという間にその場所へ着いた。
-店主のおじさん、僕達のこと覚えてるかな?-
僕は暖簾を上げ中を覗く。
「いらっしゃいませ。」
店主の威勢のいい声が店に響く。
「あれ?
あの時の…。」
「覚えていてくれましたか?
今日は水を持ってきたんです。」
水の入ったダンボールを咲がひょいと抱え、車から降ろし、店内へと運ぶ。
「あぁ、こんなに。
それからあの時の栄養剤も。」
店主は大喜びだ。
早速、容器を開けて店主が水を飲む。
「美味しいねぇ。
まるで岐阜の湧きたての養老の水を思わせる。
口当たりが良くて甘くて、それでいてキリッと引き締まっている。」
店主はベタ褒めだ。
「実はねぇ。
家内が体調を崩してもう長くないんだ。
美味しい水が飲みたいと言っているんだが、なかなか良いものが手に入らなくてね。
これを飲ませてもいいかな?」
「はい。是非。」
「それから栄養剤も。」
「僕は医師免許を持っていません。
ただこの強栄養剤は赤ちゃんでも飲めるように作っています。」
「この紙に栄養剤に入っている成分を全て記載するので医師に見せ、成分的に問題が無ければあげてもいいかと…。
不安があるなら、先ず栄養剤の成分を分析にでも回してください。」
「滅相もないよ。
ワシは、信じる。」
「わかりました。
では。」
「ありがとうね。
本当にありがとうね。」
店主は、顔を隠しながら泣いている。
僕達は、これ以上なにも出来ず、
ラーメンをいただき、それからラムネを飲んで帰った。
まだ咲かないな。
ほころびかけた蕾を見て、僕は春の到来を待ち望んでいた。




