-サクラへ-
サクラ、僕は君を想うだけで幸せだった。
自分の心を隠し君に家族としての愛を与えていている時、その愛を君が受け取ってくれ幸せそうに笑うだけで満足だった。
サクラが咲と結ばれている最中でさえ、君を幸せに出来ていると思うと僕は幸福で満たされるんだ。
-咲は、理想の僕。-
ただただ君を守りたいと望む心から生まれた存在。
だけど、咲は僕じゃないまったく別の人間。
咲にはちゃんと人格がある。
僕の想いを継ぎながらも、自分の自我がしっかりとあるんだ。
咲は君を愛している。
そしてまた、君も咲を愛している。
だからね、
君を幸せにする為に僕は、自分の心に嘘をつくよ。
僕は美しい少女の額にキスをする。
海色のエメラルドグリーンの髪は風に揺れ、キラキラときらめいている。
僕は彼女の肩を抱き寄せ、あの木を見上げた。
あの日サクラと見た桜の木を今年はこの少女と見ているんだ。
まだ蕾は固く暫く花は咲かないけど、この場所で毎年君と見ていたあの満開の桜を想像するだけで僕は満ち足りていく。
瞳を閉じると桜の精のような君の姿が、今日のことのように想い出され次々とあふれてくる。
近くに居るのに君は遠くて、僕の心は君に逢いたいと望むんだ。
-逢いたい。サクラ。
君に逢いたいよ。-
君は、何処までも僕の心を乱す。
君を手に入れてしまえたらどんなに気持ちが楽になるだろう?
-ばっかだな…。
僕の願いはサクラの幸せ。
それだけなのに。
これ以上なにを望むと言うんだ。
それを望めば壊れてしまうというのに。-
自分で自分に言い聞かせる。
寂しさを受け入れてくれ、まるで僕に《そのままでいいよ。》と言うかのように、僕の肩に薄い紫色のショールが優しく掛けられた。
ふと彼女を見ると《何もかも受け入れるよ。》という表情。
大きく広がる海のような深い愛に僕は、彼女を抱きしめずには居られなかった。




