君想う〜恋心〜
サクラは怒っている。
僕を殴ったリアムに。
そして、その原因を作ったアイシェに。
だけど、その怒りはそれともちょっと違う気がした。
サクラは、僕の応急処置をしながらリアムとアイシェを叱る。
リアムは頭を下げ、アイシェは泣くばかり。
「もう!
さーちゃんを守れない愛ちゃんなんかにさーちゃんはあげないのだ!」
「それは紗倉教授が決めることです。
あなたが決めることじゃない。」
「でも、愛ちゃんがさーちゃんが殴られる原因を作ったのだぞ。」
「それはそう。
ちゃんと説明出来なかった自分が悪いと思ってます。
でもあげないって言っても、サクラさんには咲さんがいるじゃないですか?
サクラさんには紗倉教授を幸せにできない。」
「そうだよ。
もとはと言えば俺の早とちりが原因だし。」
リアムはアイシェのフォローへと回る。
サクラが黙る。
-咲と上手くいってると思ってたけど、もしかして僕にも可能性が?
いや、そんなことを考えたらいけないな。-
僕は自分の身勝手な考えを全否定する。
可能性が…、なんて考えてしまえば僕はまたサクラへの気持ちが止まらなくなり傷つけてしまうかもしれないからだ。
断ち切ったはずの想いなのに知らず知らずのうちにサクラへの恋心は膨らんでいて、どうしようもないところまで来ている。
-サクラ…、君が恋しい。-
-狂おしいほどに愛しいんだ。-
サクラを創った親として、サクラを愛してる気持ちは確かにあるんだ。
-だけど、嫁としてサクラを…、
僕はまだ愛してい…、る……。-
心を防御していた淡い恋心が弾けるように、僕はまだサクラを嫁として強く愛していることを自覚した。
「サクラ、それはさーちゃんが選ぶことだよ。」
僕の気持ちを察知したかのような咲の声。
ヒヤヒヤしながら咲を見ると、咲も僕の目をしっかりと見据えている。
僕は、迷う。
自分の気持ちをどうしていいのか?
そして、どうしたらサクラと咲が幸せになれるのか?
僕は自分の心を騙すことに決めた。
「アイシェ。
僕はまだ君に恋愛感情はない。
それでもいいのかい?」
「はい。
私、絶対に紗倉教授を振り向かせてみせます。」
「もしも、僕に想う人が居ても?」
「もしも紗倉教授に想う人が居て今、結ばれていないなら、その人は紗倉教授を幸せにできなかった人。
そんな人に私、負けません。」
彼女の僕を見つめる目は、本物だ。
このまま目を合わせていると、深い深い海のようなエメラルドグリーンの瞳に吸い込まれてしまいそう。
ーここで負けちゃ、いけない。ー
僕は、アイシェを見ながら続ける。
「僕は、DTじゃないよ。
過去の女が現れて君の気持ちを逆撫でするかもしれないよ。
勿論、僕は過去の女になびかないけど君は嫌な気持ちにならないの?」
「そりゃあ、嫌な気持ちになりますよ。
でも、紗倉教授が過去の女になびかないなら私は負けません。」
「君をどうするかの権限は、リアム及び君の研究機関にある。
リアムが許してくれるなら、真面目なお付き合いから始めましょう。」
僕はアイシェの告白を受け入れた。
リアムはやれやれと言う顔をしながらもアイシェの気持ちを尊重し、僕達を祝福してくれたのだ。
今日から、僕とアイシェのお付き合いが始まった。




