サクラとアイシェ
「父さんと母さんが何と言おうが僕はサクラと咲の研究データを渡すつもりはありませんよ。」
「うーん…、咲良だったらそう言うだろうね。」
「ブラウン副社長、アイシェの反応を見てみたいので、別室で息子達と対談させてもいいでしょうか?
同じ年頃の子達と触れあわせてみたいのです。」
「好きにしたまえ。」
僕達は別室へ呼ばれる。
その部屋は、僕、サクラ、咲、アイシェの4人だけだが、カメラと盗聴器が設置され外から監視されると聞かされた。
「ミーシャ=アレン研究員は下がりなさい。」
ミーシャは言われるがままに下がり、部屋の外で頑張ってねと目くばせをした。
閉ざされた部屋で咲が
「アイシェさん初めまして。
もうご存知でしょうが僕の名前は咲。
そして、こちらがサクラ。
それから私達の創世主、教授の紗倉咲良です。」
と礼儀正しく挨拶をする。
アイシェは照れながら、
「アイシェといいます。
よろしくお願いします。」
と、美しい声で答える。
「先に言われてしまったけど、僕は紗倉咲良。
よろしく。」
「サクラと言いますのだ。
よろしくお願いしますなのだ。」
和やかな時が流れ会話が弾む。
アイシェは、サクラの桜色の美しい髪を初めて学会で目の当たりにした社長が宝石のようにきらめく海のようにエメラルドグリーンでと指定したことからこの色になったらしい。
そして、瞳の色もサクラの赤い瞳に呼応するように、髪の色と同じエメラルドグリーンがあてられた。
サクラの髪と瞳の色はたまたまというか何というか、あの時…、僕のせいで感情が高まり赤色に変化してしまったのだけれど。
サクラとアイシェを対比してみるとどちらも見劣りしない。
それどころかお互いがお互いを引き立て合い余計に美しさが増している。
どうやらアイシェもサクラや咲と同じく計算尽くで創られたようだ。
海辺に咲く桜を見るように、僕と咲は2人を眺める。
アイシェは、続いて話す。
アイシェのアイは日本の愛の字が由来だそうで、アイシェが皆から愛されるようにと願い僕の母が付けたようだ。
だから、自分の名前の由来になっている日本が大好きだと言う。
アイシェの別の読みは《アイシャ》。
アイシャと読むと、シャに紗倉の紗の字を当てることができる。
漢字で書くとこう。
愛紗。
もし日本名が付けられるなら紗倉愛だったかもねと嬉しそうに話すアイシェを見て、僕は胸に何か詰まっていくような感じを覚えた。
ー僕のことはずっとひとりぼっちにしていたのに、アイシェにはこんなにも愛情を注いでいたの?
父さん…。
母さん…。-
決別したと割り切っていた相手だったが、やはりショックで僕は一刻も早く家へ帰りたかった。




