対峙
「アイシェにIQテストを行ったのだが、80〜100。
たまたま120を叩き出したものもあるが、おおよそ100といったところだろう。」
上層部はアイシェを疎むような目で見る。
「君の両親が創ったとは思えないね。」
僕は驚いた。
僕の両親がアイシェを創ったことと、僕と両親の親子関係を上層部が知っていたことに。
いや、ここまで大きな研究機関だ。
社員の情報を知らない方がおかしいか。
サクラと咲は驚いた表情で僕を見る。
「隠していたわけじゃないんだ。
初めて話すことになるけど、ここは僕の両親が働いている研究機関だよ。」
「大丈夫だよ。さーちゃん。」
「驚いただけで、隠していたとは思ってないぞ。」
サクラと咲は、僕を落ち着けるように語りかける。
「紗倉室長と葉菜主任研究員を呼べ。」
その声にひとりの上層部が動き、電話を掛ける。
暫くして入ってきたのは、遠い昔に会った懐かしいあの人達だった。
「久しぶりだな。咲良。」
「さーちゃん。」
僕の記憶が蘇る。
不倫をし僕と母を捨てた父。
それからその父を追う為、昼も夜もろくに睡眠も取らず勉強を続け父の母校の大学を首席で卒業した母。
母が離婚を拒否したままだから、籍はそのままだ。
母は親から虐待を受けており、父と出会った頃は高校さえろくに出ていなかった。
父が日本へ帰省中、真冬に裸足で暴力から逃げる母を見つけ保護したのだ。
それから交流を深め結婚。
高校さえろくに出ていない女性が子育てをしながら、父の母校に受かるには血の滲むような苦労があっただろう。
大学へ受かるまでに母は何度も過労で病院に運ばれている。
「お久しぶりですね。
お元気そうでなによりです。
まさか、父さんと母さんがアイシェを創っただなんて。」
「父さんと母さんだけじゃないけどね。
父さんと母さんはたまたまこの研究チームに参加していただけだよ。」
「まさか毎日泣き暮れていた母さんがここまでの人になるなんて思ってもみませんでした。」
不倫をして出て行った父への嫌味と、父を手に入れる為僕をひとりにした気の狂った母への当てつけだ。
「咲良、母さんはやればできる人なんだよ。
家庭環境が良くなかっただけで、母さんが頭のいい人だと言うことは最初からわかっていたんだ。」
「そうですか。
母さんが生きる場所を見つけることができてなにより。
僕の世話はもっぱら黒人メイドでしたけどね。」
あの時の怒りがふつふつと沸いてくる。
「あの時はすまなかった。」
「ごめんなさい。
さーちゃん。」
2人は、儀礼的に謝った。
場を取り繕いあの時のことを隠す様子はなかった。




