家族
「さーちゃん、何故さーちゃんは着物を着ないのだ?」
サクラが早速、新しい呼び名で呼んでくる。
サクラや咲から呼ばれるのなら、この呼び名もまんざらじゃないな。
「僕はサクラと咲のカメラマンがしたいんだから動きやすいようにだよ。」
カシャカシャとシャッターを切りながら会話を交わす。
「この仕立てて貰った着物…、どう見ても高価そうで…。」
鏡に映る着物を見て、サクラは申し訳なさそうにしている。
「僕は、今まで自分にそんなにお金を使うこと無かったから貯金はいくらかあって、それを使いたいように使ってるだけだよ。」
サクラに気にするなと言うがそれでも気になっているようだ。
「それにね、遺伝子の研究が認められてお金はどんどん入ってきてるんだ。
生活の基盤が出来ているから贅沢せずに今迄の生活を続けていたら、一生働かなくてもいいくらいだよ。
心配そうな顔をしない。
神様は、凄いんだぞ。」
「さーちゃん、ありがとうなのだ。」
「さーちゃん、ありがとう。」
サクラと咲は以前と比べ少し大人になったのか、お礼を言ってくる。
僕はそれが他人行儀に見えて気に入らなかった。
今まで通り、僕の愛を当たり前に受け取って欲しい。
そう思った。
僕にとって、サクラや咲を喜ばすものならイチゴ牛乳も着物もハグも変わらない。
ただ当たり前に与えたいだけなんだ。
「お礼なんて要らないよ。
君達を創りだした親なんだから、僕だってこれくらいしてあげたいじゃないか。
家族…、なんだから。」
何かを思い出しかけたかのように、家族という言葉が胸に重くのしかかる。
「家族。さーちゃんとサクラと咲ちゃんは家族。」
サクラも咲もパッと顔が明るくなり、愛だということを理解してくれたようだった。
《僕が欲しかったもの:お嫁さん 家族》
僕の素行で、サクラをお嫁さんにすることはできなかったけど念願の家族を手に入れた。
毎日幸せだと笑っていられるのは、サクラや咲のお陰だ。
家族の為ならどんなことだって僕はするよ。
僕はこの世のすべてに家族を守っていくことを誓った。
その格好のまま、サクラと咲と訪れた清水寺は夕日が当たり、日本独特の情緒を感じさせてくれた。
釘を1つも使わずに作られた日本建築は、荘厳で日本独特の歩んできた歴史を教えてくれる。
遠い昔に建てられ、何度も消失した建物を復興しようと奮闘した職人達。
魅力のない建物であれば、復元なんてせずまたまったく新しい建物にしたらいいだけだ。
細部に至るまで復元する程の魅力があったのだろう。
ーサクラと咲にこの世の美しいものをすべて見せてあげたいー
僕はレンズ越しに2人を見て、またシャッターを切った。




