色彩
善は急げ。
あれからすぐに荷造りし、僕たちは日本へ到着した。
初めての飛行機にサクラはきゃっきゃとはしゃいでいた。
咲も喜びを隠せないのかいつもよりテンションが高い。
冷静沈着な咲からは想像もつかない。
それからタクシーを使い新幹線に乗り換え、やっと目的地に到着した。
東京もいいけど…、やっぱ京都。
日本の古い町並みを楽しみたいなら、ここしかない。
自然の多い岐阜や温泉地である大分も候補だったんだけど、サクラや咲に見せたいものがあったんだ。
レンタカーを借り、先ずは老舗の和菓子屋に向かう。
そこは買った和菓子を店で食べれるようになっており、店員がお茶を立ててくれるんだ。
サクラも咲もショーケースに並んだ色とりどりの美しい和菓子に大はしゃぎだ。
どれもこれも食べてみたいと、色々選ぶ。
店員に確認すると賞味期限は当日中のものが多く、ここでは2つずつ食べ、残りは旅館へ持ち帰れるようにしてもらった。
あいつらのお土産用にと、日持ちのする干菓子や和三盆も包んでもらう。
サクラも咲もにっこり笑う。
「神様、お友達いっぱい。生徒いっぱい。」
「…まだ友達とは言えないけど、でもここで和菓子を見ていたらあいつらの顔が思い浮かんだんだ。」
照れ臭くなって俯き、顔を上げると咲が右手を伸ばす。
ーあれ?なにこれ?恥ずかしい。ー
差し伸べられた咲の手に胸が高鳴るのを感じた。
イケメン過ぎる咲は、僕の手を繋ぎ席までエスコートする。
ーここはサクラをエスコートするとこだろ?何故僕?ー
咲に身を任せ、サクラが椅子をひきそこに着席すると、テーブルには手作りのクッキーとマカロンが置いてあった。
「内緒でサクラさんと作ったんです。サクラさんからの提案ですよ。」
ーなにこれ、サクラも咲もイケメン。ー
サクラも咲も忙しいだろうに、いつこんなものを作れるようになったんだ。
そもそもいつ練習したんだよ。
目を見張る程の精巧な出来に、これじゃあ高級店のパティシエもびっくりだと思った。
「神様が教えてくれた優しい味になってるかなぁ?」
サクラが緊張しながら、こちらを見つめる。
ー優しいどころか、優しすぎるだろ。
あぁ、神様。サクラと咲に出会わせてくれてありがとう。ー
神に感謝せずにはいられなかった。
「サクラ、咲。これはここでは食べれないから旅館で美味しくいただくよ。」
そう答えると、和菓子を席へ運んできた店員がすかさず、
「あら?上手に出来てますね。
いいですよ。
紅茶あったかしら?
普通はお出ししてないんですが、今日は特別に紅茶も淹れましょうね。」
と、奥へ戻って行った。
なんていい店だ。
僕はこんなに人から親切にされたのは初めてだ。
今まで世界の全てが敵かのように僕に牙を剥いていた。
だけど、その暗黒の世界をサクラと咲が虹色に塗り変えていく。
真っ暗だった世界が色彩を取り戻したかのようだ。
僕は世界一幸せ者だな。
心が満たされていくのを感じていた。




