戸惑い
学食に戻ると談笑が始まっていた。
僕の席にはカレーライス。
「早く来いよ。」
ベンがいち早く僕を見つけ手を振る。
ガヤガヤしている中でも、ベンの声は通る。
周りは僕達に注目する。
恥ずかしい。
僕はそそくさと席に向かい椅子に腰掛ける。
僕は注目されるのが嫌いだ。
注目されていいことなんてないからだ。
今迄の悪いことばかりが思い浮かぶ。
「ベン、カレーありがとう。」
照れ臭いながらもお礼を言うと、
「いいって。
年下には優しくしないとな。」
という言葉が返ってきた。
今迄の彼からは信じられない言葉だ。
そしてベンが唐突に話し始めた。
「実はさ、俺、結婚するんだ。
彼女が妊娠しちゃってさ。」
目を丸くして驚いていると、にやけながら話を続ける。
「命って凄いんだな。
考え方がふっと変わって子供や年下には優しくって、誰から命令されたでもなく考えるようになった。
力無い年寄りも一緒だ。
俺が手を差し伸べられる限り、力になってやりたい。」
満面の笑みだ。
「ベン、おめでとう。」
ベンのことをまだ信頼しているわけではないけど、単純におめでたいなと思ってその言葉が出た。
「ありがとう。
子供は、お前みたいなやつになるよう頑張って育てるよ。
俺、心を入れ替えて生まれ変わるんだ。」
ベンが言ってるのはどうやら本心のようだ。
僕はうなづき
「応援するよ。」
と告げた。
「紗倉教授の生徒になれるといいな。
今や各国が紗倉教授の研究に追随して研究を進めてるもんな。
紗倉教授は遺伝子技術の先駆者だ。」
「僕には、それしかないからね。」
「なに謙遜してるんだよ。」
ベンが僕の肩を叩く。
別に謙遜しているわけじゃない。
事実だ。
子供の頃から学校と親の意向で飛び級を勧められ、年上の中で過ごしてきた。
友達はいなかったし、ひとりぼっちだった。
それしか無いから、そうしてきただけ。
ベンは始終僕を褒めちぎり、熱弁をふるい、話は尽きない。
僕は相槌を打つので精一杯だったが、ちゃんと話せていたと思う。
そして、ベンの話が終わり、みんなの輪に入るとサクラや咲も上手に談笑していた。
2人が居ると周りに花が咲いたようだ。
絵画から出てきたかのように美しくお似合いで、周りに圧倒的な存在感を示している。
サクラと咲が誕生したことで、ゆっくりと僕の周りの環境が変わっていく。
ひとりぼっちで止まっていた僕の時間が動き出す。
その変化に戸惑いながら、僕は2人を見守っていた。




