優しいは美味しい
家に帰り久しぶりにハンバーグを作る。
教授になったことと、サクラ創世の成果で僕専用の研究室が与えられたからだ。
出入りの権限は僕にある。
研究の邪魔が入らないお陰で安心して家に帰ることができるようになった。
サクラは相変わらず料理に興味があるようで僕の手元をじっと見つめている。
「神様は魔法使いだな。」
「ん?」
何が言いたいのかわからない。
「お肉と玉ねぎと卵から、美味しいハンバーグが作れるなんて。
出来上がりがどんな味になるのかすべて計算してのことか?」
サクラが学術的な質問をする。
「そんなの勘だよ。
出来上がりの味を計算できるのならサクラにも作れるかもね。」
頭のいいサクラのことだ。
味蕾と身体の欲する栄養の研究を極め、料理を覚えたらどんな素晴らしいメニューが出来上がるのだろう。
僕の素人料理は、いつかサクラに負けちゃうなと思った。
「サクラは、神様の料理が好き。」
案外素直なサクラに僕は一気にテンションが上がり心が躍る。
「身体を動かした後は塩分が必要だから濃いめの味付け。
病気の時や疲れている時は優しい味付け。
頭を動かした後はなにか糖分を摂れるものを。
アレルギー反応で出る項目以外でも人には消化が苦手なもの、苦手な味やにおいがあるからそれも考えて。
季節や産地による食材の味の変化も考慮。」
いつも僕が気をつけていることをサクラに伝える。
「ほうほう、神様の料理には優しい気持ちが入ってるのだな。」
サクラは思ったままに発言したのだろうが、僕は完全に落とされてしまった。
ーサクラ、完全に僕を落としたな。ー
これじゃあ、君を完全に僕のものにしたくなるじゃないか。
ハンバーグをこねていた手を止めサクラを抱きたい衝動と必死で闘う。
ー我慢していたのに。これ以上、嫁としてサクラを愛してしまわないように我慢してたのに。ー
「オイ!手が止まっておるぞ。手の熱でハンバーグのタネがぬくもってしまうではないか。
味と食感が変わるぞ。」
サクラから手厳しい注意が入る。
僕は、両手のゴム手袋を外し、必死に堪えながらサクラを見る。
目が潤んでいたと思う。
理性がきかない。
身体が勝手に動く。
僕はサクラに抱きつき、次の瞬間サクラにキスをした。
強引だったと思う。
唇でサクラの柔らかい唇を吸い、舌で無理やり歯をこじ開けた。
サクラが僕を拒絶しようとする。
でも止まらなくて、そのまま強引にキスを続けた。
3年間、我慢していた。
こんなことずっと誰ともしてない。
その反動は、僕自身でも止まらないくらいおそろしいものだった。




