桜の精
窓から入ってくる彩光に染まるサクラは、あの日と変わらず綺麗でその光景は僕の心を奪う。
まるで一枚の絵画のよう。
その芸術が現実に存在しているなんて思えなくて、天国にいるのかと錯覚してしまう程だった。
サクラがこちらを見て微笑む。
「桜を見に行かないか?」
その瞳に魅入られ声が声にならず、そのまま突っ立っていると、
「神様?」
と、その美しい芸術が今度は僕の顔を覗き込んできた。
「あ、あぁ!サクラ。」
我に返り、サクラをまじまじと見る。
ーやはり綺麗だ。ー
最近は、気がつけばサクラを見ていることが多くなった。
サクラは男の心を奪う。
そして、魅了する。
そのせいでサクラへの縁談は、戸籍が認められる前から山程きている。
サクラがまだ学生という理由で、返信専用のアルバイトを雇い毎日断りを入れている状態だ。
それでも諦めきれない金持ちから電話が掛かってくることも多く、返信専用のアルバイトに電話対応も任せることとなった。
タンパク質から精子と卵子を創り出すNEW人類研究の権利は今のところ僕だけにある。
だが僕の学会の発表を機に各国がNEW人類の誕生に向けて研究、開発を進めていることから、いつかサクラや咲以外のNEW人類が誕生するだろうことが予想される。
無闇矢鱈と人が創られ人身売買が行われることが懸念されることから、政府への法整備依頼とコンプライアンスの取り決めにいつも頭を悩ませている。
なんて考えている間に、サクラが僕の手を引き廊下を通り過ぎ、大輪の桜の木の下へ到着した。
桜の花弁がサクラの周りを舞い、まるで桜の精のよう。
ーどうかサクラが何事にも巻き込まれず、このまま幸せでありますように。ー
そう願わずにはいられなかった。




