愛ってなに?
「サクラ、傷つけてごめん。」
ほかに言葉が思いつかない。
「お前は、サクラが促成保育器で自動学習中、外の音は聞こえないと思っていたであろう?
サクラは2重音声程度なら、正確に聞き取ることができるのだぞ。」
驚いた。
サクラの知能は現在の科学で可能な限り高く設定していたのだが、人並み外れたここまでのことをできるとは思っていなかった。
「サクラ、凄いぞ!それは学習プログラムにないじゃないか。どうやって思いついたんだい?」
喜びサクラに問いかける。
世界中の難関大学レベルの授業を受け理解しながら、外部の音声も正確に認識するだなんて並大抵のことじゃない。
サクラは僕の目をじっと見つめたあと、目を逸らし、それからまた目を合わせ話し始めた。
「サクラが生を受けてから、お前はいつもサクラに話し掛けていた。
物心ついた頃にはサクラは、お前が話し掛けてくるのが嬉しくていつも心待ちにしていたのだぞ。
お前の声を聞こうといつも耳を澄ませてるうちにいつの間にか自動学習の音声とお前の音声を識別し、2重の音声を同時に理解することができるようになった。」
そして、サクラは続ける。
「だが、注意して聞いていると気持ち悪い声がたまに聞こえてくる。
耳を塞ぎたいが、塞ぐことができない。
毎日幾度も聞こえてくることもあった。
意味はすぐにわかった。
性行為について詳しくなくても感覚としてわかる。
心臓にナイフを突き立てられているようだった。
そして、必死で自動学習で学んだ遺伝子の勉強を思い出した。
サクラの形状はおおよそ自分で予測できる。
そこから遺伝子配列を考え、全ての遺伝子がどう繋がっているのかすべて予測を立てた。
そしてお前の遺伝子配列も予測をした。
お前の遺伝子にぴったり合うよう嫁としてサクラを創り出したのだろう?
なのに何故お前は他の女を膝の上に乗せているのか?
答えは簡単だ。
お前はサクラをダッチワイフとする為に創り出したのだ。」
僕は泣いた。
誕生する前から、僕はこんなにもサクラを傷つけていたのだと以前より深く感じたのだ。
ー違うよ。ー
セルフカウンセリングで自分の深層心理の中まで探ったが本当に僕はなにも考えていなかった。
周りからの嫉妬で虐められないようお姉さん達のオモチャになりながら、世界で一番可愛い理想のお嫁さんが欲しいという昔からの夢を叶えたかっただけだ。
ーサクラを幸せにしたい。ー
本当にそう思っていた。
だけどサクラが誕生するまで、自分自身がレイプ被害に遭っていたということさえ知らなかったんだ。
他の女との行為でサクラが傷つくとは考えなかった。
考えたらすぐにわかるはずなのに。
現実での保身と夢の実現とそればかりで、当たり前になっていたアレから逃げることさえしなかった。




