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第5話 下戸な魔王

 ヒスクは隣にいる魔王と見比べて驚嘆の声を上げる。


「やっぱり魔王って言うだけあって、胸の存在感もあるな」

「いきなりだな。さっきまで領主として立派な心掛けを聞けたと思ったのに、急に前世の高校生に戻ったな」

「いや、こんな会話はお前としかできんよ」

「あのキュールってメイドの子は?」

「キュールは妹みたいな存在だよ」

「へぇ……そうなんだ。立派で凛々しい貴族の娘を演じるのは疲れるだろ?」

「言葉遣いも『私』が定着したし、女性らしく振る舞うのも慣れたよ。まあ、他の女性の着替えやお風呂は未だに慣れないがな」

「じゃあ、俺とこうして温泉に浸かっているのも緊張しているのか?」

「前世が親友の男だと分かれば、緊張も何もないよ」

「ちっ、色仕掛けでもして困惑させてやろうと思ったのによ」


 魔王はつまらんと言わんばかりに、温泉から出ると火照った身体で法衣に着替える。

 ヒスクも続いて用意した布の服に着替えをすると、置いてある魔王の錫杖を試しに手に取ってみる。


「すごいデザインだな。髑髏の錫杖ってだけで威圧感が半端ないな」

「その錫杖は魔力を増減させるために、魔界にいる生物であしらって作った物だよ。錫杖なしでも魔法は使えるけど、威力が制御できないからな」


 角は魔力を溜めて、錫杖は魔力を制御しているのか。

 この二つがなくても、魔王の身体能力は最上級のドラゴン並みにあるらしいので、魔法が使えなくても地上で活動するには問題なさそうだ。

 錫杖を魔王に渡すと、魔王は魔法で楔のような物を取り出して地面に打ち込んでいく。


「それは?」

「ああ、簡単な結界を張っている。魔物が村に入らないための予防さ」

「なるほどね。でも、魔王の言う事なら魔物も命令を聞くんじゃないのか?」

「ないない。従属的な魔物は魔界にいたけど、地上の魔物は野性的で人間だろうが魔王だろうが容赦なく襲うよ」


 そんなものなのかとヒスクは納得すると、魔王は楔を打ち込むために村の周囲を回っていく。

 ヒスクも魔王に付き合って徒歩で移動する。


「俺が車で事故死してから、お前の死因は不運だな」

「生活が荒れていたからな。放課後はアルバイトのコンビニで深夜まで時間外労働させられた挙句にその分の賃金は支払われないし、睡眠不足で学校の授業も単位がやばかったからな」

「たしか親父さんは蒸発して、母親は他の男と朝帰りコースだって言ってたな。今は魔王に異世界転生して神様もひどい仕打ちをするな」

「そうでもないよ。体力と魔力は十分にあるし、自由を謳歌させてもらったよ。前世は金や時間に縛られて体力も並以下だったし、魔力なんてファンタジーな代物はなかったからな」

「……そうか。俺の場合、魔力は前世と変わらずないけど、体力はマシになったよ。後はお互いの容姿が格段に良くなったぐらいか」

「それは言える。俺は妖艶な褐色肌のお姉さんで、お前は凛々しい金髪のお姉さんって感じか」


 そんな会話をしながら、村の周囲に楔を打ち込んでいくと、魔王は呪文を唱えて結界が完成する。一見すると、何も変化はなさそうに見えるが、オークぐらいなら結界に触れただけで丸焼きになるらしい。


「これでよしっと。少し腹が空いたな」

「キュールが夕食を作って待っているだろう。折角だから、酒も用意するよ」

「すまん、酒は飲めない。驚くほど酒には弱いんだ」

「魔王なのに?」

「魔王でも弱点はあるってことだな」


 下戸な魔王とは意外だなとヒスクは思った

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