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第4話 天然温泉

 三人は居間のテーブルに座ると、ヒスクはキュールに魔王の自己紹介を始めた。


「キュール、彼女はロンソールの宮廷魔術師だった……マオだ」


 魔王の正体は隠して、宮廷魔術師のマオと言う設定で紹介すると、魔王もヒスクの話に合わせる。


「マオです。キュールさんでしたね? よろしくお願いします」

「身形も黒の法衣に派手な装飾の錫杖で高名な魔術師と認識していましたが、宮廷魔術師様でいらっしゃいましたか」


 魔王は丁寧に挨拶すると、キュールと握手を交わす。

 多分、本物の宮廷魔術師より魔術に長けているだろうとヒスクは思う。

 本当は包み隠さず話したいところだが、異世界転生や魔王と非現実的な単語を並べて混乱させたくはない。


「ここまで移動するのにお疲れでしょうから、村の外れにある天然温泉で疲れを癒して下さい。その間に私は夕食の準備をしていますので、ヒスクの大好物を作って待っていますよ」

「それは楽しみだな。それじゃあ、遠慮なく温泉に浸かってくるよ」


 キュールは席を立つと、二人を玄関まで見送って温泉がある道順を簡単に説明してくれた。

 二人は温泉を目指して歩き出すと、魔王は深い溜息をついた。


「お前が遠い存在に見えてきたよ」

「急にどうした?」

「異世界転生する前って、お互い地味な高校生だったのに、お前は貴族の役目をきちんと果たして立派だと思うよ。それに引き換え、俺は魔界で力こそ全ての世界だったからな」

「別に立派じゃないさ。家名を汚したのは事実だし、キュールを含めたメイドや執事達には申し訳ない事をした。俺は実力で魔王に上り詰めたお前を尊敬しているし、それこそ遠い存在に見えたよ」


 魔王のような力があれば、違う未来があったかもしれない。

 ヒスクの未熟さが招いた結果だと重々承知しているが、家名を汚した後悔の念は消えない。


「これからの人生はここで細々と暮らそうと考えている。俺の思考は前世が基盤(ベース)になっているから、男と結婚はしたくないし、独身で一生を過ごすよ」

「俺は……正直言うと魔界には帰りたくない。お前が望めば、俺がどこか国を一つ滅ぼして、お前を一国の王に仕立ててやることもできる」

「……それで王の器に治まっても、待っている運命は破滅さ。玉座や領地を奪い取ったところで、民衆の心は誰もついてこないだろう」


 魔王の実力なら、たしかに国を滅ぼす事はできるかもしれない。

 一時は王として君臨はできるだろうが、周辺国は黙っていないだろうし、周辺国を黙らせるためにその国を滅ぼしていったら、最早それは人類の大量虐殺に近い。

 ロンソールも魔王を利用して打開策を考えたが、悪法で染まった負の連鎖しか生まない。


「気持ちだけ受け取っておくさ。それとも、ここで隠居生活するのは嫌か?」

「そんな事はない。妙な提案をして悪かったよ。親友を不幸な目に遭わせるのは不本意だしな」


 魔王は頭を下げると、ヒスクは「頭を上げてくれ」と諭すように言う。

 キュールが教えてくれた道順を辿っていくと、湯気と一緒に硫黄の臭いが混じって石垣に囲まれた天然温泉の姿が見えてきた。


「小難しい話はここまでにして、早く入ろうぜ」


 ヒスクは駆け足になると、漆黒の鎧を脱ぎ捨てて入浴する準備を整える。

 魔王も後を追いかけると、二人は誰もいない天然温泉に浸かって心身共に癒されていく。

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