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第22話 彼女の名はクローリ・ヴィラール

 学び舎の着工が始まると、アニムスは周辺の街に足を運んで、生徒と教員を集めるために奔走する。

 施設が完成するまで、ヒスクと魔王は村の子供達に文字の読み書きや簡単な護身術の心得を教えたり、魔王が暇潰しに召喚したオセロ盤を用いて遊ばせたりした。

 夕方頃に子供達を家に帰して見送ると、ロシェはヒスクと魔王に感謝する。


「ありがとうございます。子供達もヒスクさんとマオさんにすっかり懐いてくれましたね。施設が出来上がりましたら、きっとここも賑やかになるんでしょうね」

「そうですね。村に活気が湧いて子供達にとって良い環境ですよ」

「読書をするには静かな場所で居心地も良かったのですが、子供達の事を考えたら仕方ありませんね」


 ロシェにとって、この村は趣味の読書をするには最高の環境である。

 施設が完成すれば、各地の村や街から生徒の子供達や教員が村に集まり、賑やかになるのは安易に想像ができる。


「失礼だが、ロシェのような教養のある信徒なら、都の本殿で司祭を務めていてもおかしくないと思うよ。この小さな村でシスターをしているのが不思議なぐらいだ」

「ふふっ……お世辞でも嬉しいですよ。村のシスターや都の司祭もクシュル神に仕える同じ人間です。世の中、地位や階級に目を奪われてしまう事は多いですが、大切なのは各々に課せられた役目を果たせるかだと思います。農家を営んでいる人は畑を耕して収穫しなくてはいけませんし、領主は領民を導いて護らないといけません。放棄すれば、暴動が起きるのは必至ですからね」


 ヒスクはそれとなく感じていた事をロシェに話すと、ヒスクにとって耳が痛い話が返ってきた。

 国や家を捨てて、本来ならロンソールのために最後まで主に仕えるのが騎士道であり、役目を果たす事に繋がる。

 実際、ロシェの知識は豊富で趣味の読書や聖書を普段から熱心に読んでいた賜物だろう。


「それっぽい事を言いましたが、全部、神父様の受け売りです。私もシスターとして、まだまだ未熟なので頑張らないといけませんね」


 ロシェは笑いながら種明かしすると、修行の身である自身を反省して精進する心構えだ。


「お互い頑張っていこう。外の遊具と部屋を整理して今日はもう帰るよ」

「ありがとうございます。私はそろそろお祈りの時間がありますので、何かありましたら呼んで下さい」


 ロシェはヒスク達に一礼すると、教会の中でお祈りを始めた。

 子供達が外で使っていた遊具や個室の掃除を簡単に済ませて帰路に就こうとすると、教会に一人の娘が訪ねて来た。


「失礼、宿はどちらに行けばあるのかしら?」


 どこかで聞いたような声だが、黒いローブを纏った風貌で売れ残っていた川魚を全部買い取ってくれた娘だとすぐに分かった。


「この村に宿はないよ」


 ヒスクは娘の問いに答える。

 娘は信じられないという顔をして、呆然と立ち尽くした。


「嘘でしょ……宿がなければ、今夜は野宿確定じゃないの!」


 元々、この村は観光地とは無縁の場所だったので宿を経営している店はない。

 そんな彼女を見兼ねたヒスクは自分の家に泊まらないかと提案する。


「もしよろしければ、私の家に一泊していく? この前、川魚を買ってくれたお礼もしたいし」


 村の外には魔物もいるし、野宿させるのは危険だ。

 娘はヒスクと魔王をじっと見つめると、どうやらあちら側も思い出してくれたようだ。


「ああ、あの時の変わったお姉さん達か」

「変わったお姉さん達って、君も大概だぞ」

「私は由緒正しいヴィラール家の魔術師よ。お姉さんのような黒の法衣と髑髏の錫杖って、まるで魔界の魔王にでもなったつもりかしら?」


 実際に魔王なんだけどねとは言えなかった。

 魔王と娘はどちらも奇抜な格好を指摘すると、ヒスクは両者をなだめて間に入る。


「まあまあ、日も暮れるし女性一人で野宿は危ない。今日は私の家に泊まるといいよ」

「……変な事はしないわよね?」

「えっ?」

「お姉さんって、美人で異性や同性から好かれるタイプに見えるのよね。それは別にいいんだけど、何というか雰囲気が男性に近いような気がしてならないのよ」


 娘は疑いの目でヒスクを見渡すと、男性に近いと言う表現は間違ってはいないような気がした。

 男から女に異世界転生して根本的な価値観は前世と変わらないので、男と恋愛感情になる事はないし、結婚も考えていない。

 潜在的な部分を見透かされたような気がして、ヒスクは言葉を詰まらせると娘はヒスクの背後に渡って胸と下腹部に手を当てた。


「胸もあるし、あそこも……ないね。妙な事を言ってごめんなさいね。私はクローリ・ヴィラールよ」

「ひゃあ……私はヒスクだ」

 絵面的には誤解を招かれない自己紹介の仕方だが、ヒスクは何とも情けない声を上げて顔を赤く染めた。

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