第21話 成立
翌日、ヒスクは魔王と共に村の教会へ訪れた。
教会の中に入ると、ロシェが村の子供達に絵本を読み聞かせている。
奥の個室からアニムスが出て来ると、ヒスク達に手を差し伸べて歓迎する。
「やあ、来てくれたんだね。子供達がいるここで立ち話するより奥の部屋で話そうか」
「はい、お願いします」
アニムスはヒスク達を奥の個室へ案内すると、扉を閉めてテーブルの席を用意する。
「お茶を出すから、楽にしていてくれ」
「いえ、どうぞお構いなく」
ヒスクは恐縮しながらテーブルの椅子に座ると、その隣に魔王も続いて座る。
カップに淹れ立ての紅茶と小皿にカステラを二人分並べると、アニムスは上機嫌に対応する。
「都の商人から茶葉と菓子を仕入れたのだが、紅茶と甘い物は大丈夫かな?」
「いえ、お茶も甘い物も大好物です」
「それはよかった。お隣のお嬢さんも気に入ってくれたようで何よりだ」
ヒスクは隣の魔王を振り返ると、カステラを一口で食べきって紅茶を一気飲みする。
品性の欠片もない食べ方にヒスクは小声で魔王に注意すると、アニムスは笑ってみせた。
「ははっ、なかなか良い食べっぷりだね。後でお土産にそれと同じ菓子を包んであげるから、昨日お茶を淹れてくれたあの子と一緒に食べてくれ」
「お見苦しいところを申し訳ありません。お心遣い感謝致します」
「お互い、もう皇子でも騎士でもないんだ。私は神父で、君は村娘だ。いや、これからは先生と呼ぶべきなのか。これから堅苦しい言葉は抜きにしよう」
ヒスク・マクシャルとして生を受けてから、先代の父が健在だった頃にはマクシャル家に仕える者からはヒスクお嬢様、領主に治まってからはヒスク様、城内ではヒスク団長と敬称は様々だった。今では村娘として以前のような地位も名誉もないが、堅苦しい敬称の呪縛から解き放たれている。
それはきっとアニムスも同じ事と言えるだろう。
ヒスクは姿勢を正してアニムスに向き合うと、本題へと移る。
「ではお言葉に甘えて……昨日の返答ですが、私から二つ聞き入れていただきたい願いがあります。聞き入れてもらえれば、喜んで引き受けさせていただきます」
「二つか。私にできることならいいのだが」
「一つ目は私と一緒に暮らしているキュールを学び舎に通わせてもらえないでしょうか? 昨日、私の隣に座らせた子です」
「あの子か。それは全然構わないし、むしろ大歓迎さ」
アニムスは快く承諾すると、ヒスクは二つ目の願いを口にする。
「ありがとうございます。二つ目は私の隣にいるマオを魔術師の教員として雇っていただけないでしょうか?」
「ほぉ……やはり、その法衣と錫杖から察して魔術師だったか」
魔王は三杯目の紅茶を口に含んでいたが、思いもよらない二つ目の願いを聞いた反動で、むせてしまった。
ヒスクは軽く魔王の背中をさすってやると、魔王は小声で反論する。
「ちょっと待てよ。講師の話は初めて聞いたぞ!」
「初めて話したからな」
「お前なぁ……自慢じゃないが、俺は人に物を教えたりする指導の経験はないぞ」
「誰だって最初は未経験だ。それに、お前の魔法ははっきり言って、並の宮廷魔術師より全然凄いよ。きっと良い先生になれる」
「……分かったよ。あまり自信はないが、やれるだけやってみるよ」
今まで目にした魔法を考慮しても、教員として教壇に立つには十分だとヒスクは判断している。
魔王はヒスクに煽てられると、教員になる決意を固める。
魔術師の実力を披露しようと、魔王は席を立って杖を振るうと瞬間移動の魔法を唱える。
魔法でその場にいる三人を掘っ立て小屋である居間のテーブルに移動した。
魔法を直に体験したアニムスは周囲を見渡して驚くと、外で洗濯物を干していたキュールが昼食の準備を始めようと掘っ立て小屋の中に戻って来ると、キュールは驚いた声を上げた。
「えっ! いつの間に戻られたのですか」
予想以上の出来事にアニムスはしばらく言葉を失っていると、魔王とキュールの手を握ってみせた。
「これは素晴らしい!? ヒスク殿、二つの願いは聞き入れた。是非ともよろしく頼むよ」
「ありがとうございます。約束通り、私も教員として頑張らせていただきます」
話がまとまり、キュールの入学とヒスクの再就職先と魔王にとって初めての就職先が決まった。




