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第20話 再就職先

 村の周辺を巡回する事になっている魔王は楔が打ち込まれている場所を中心に巡回を始めた。

 魔物の侵入は防げるが、盗賊の類は楔で防げないので魔王が直接警戒に当たっている。

 本来なら、治安維持は領主か帝国が管轄する仕事なのだが、この村まで人員を割いている余裕はないのだろう。

 魔王を玄関先まで見送ると、しばらくしてヒスクの掘っ立て小屋に誰かが訪ねて来た。


「夜分遅くに申し訳ない。神父のアニムスだ」


 玄関の扉をノックして聞こえてきた声の主は帝国の元第二皇子アニムスだった。

 ヒスクは玄関扉を開けると、祭服に身を包んだアニムスが立っていた。


「これは……アニムス様。どうなさいましたか?」

「アニムスと呼び捨てで構わないよ。実は相談したい事があるのだが、時間はあるかな?」

「ええ、大丈夫です。どうぞお入りください」

「すまないね。お邪魔するよ」


 ヒスクはアニムスを居間のテーブルに案内すると、椅子を用意して用件を伺った。


「ご相談とは何でしょうか?」

「ああ、実はこの村に教団主導の学び舎を設立させるのが決定してね。戦争孤児や親を亡くした子供達の受け皿として、将来を導ければいいと思っている」

「それはご立派な……」


 建前はいいが、おそらく教団主導で信者を獲得するために学び舎を設立するのが目的だろうと透けて見える。

 アニムスは話を続ける。


「設立まではよかったのだが、問題は人手が足りない事なのだ。相談と言うのは、ヒスク殿の腕を見込んで、学び舎の教員を担当していただきたいのだが、どうだろうか?」

「私のような若輩者が務まるとは……きっと私より適性の人物がいらっしゃるかと」

「そんな事はない! 貴殿のような教養のある美しい女性なら、きっと務まる。勿論、毎月の給金は教団を通して支払われる」

「しかし、私は教団の人間でもありませんし、部外者の私が教団から給金を貰うのは……」

「そんな心配は無用だ。あくまでヒスク殿は教団に雇われた武芸者として教員に収まってもらう。入信したり勧めたりする必要はないよ」


 アニムスはヒスクに怒涛の説得を試みて、彼が本気なのは伝わってくる。

 キュールは台所からお茶を用意して差し出すと、一礼して去ろうとした時にヒスクは呼び止めた。


「キュール、丁度よかった。私の隣に座りなさい」

「えっ……はい」


 キュールはヒスクの隣に座ると、ヒスクはアニムスに向き直って言葉にする。


「分かりました。今晩考えた上で明日ご返答致します」

「そうか。是非とも前向きに検討してくれ」


 アニムスは席を立つと、見送りは結構と言って足早に立ち去った。

 ヒスクは真剣な眼差しでキュールと向き合うように座ると、二人で相談を始める。


「キュールが学院に通いたいなら、私は先程の話を受けようと思う。でも通いたくないのなら、先程の話は丁重に断るつもりだ」

「学院は……正直に申しますと、憧れていました。文字の読み書きを覚えて、私の知らない知識を吸収できたらいいなと」

「そうか。キュールのそんな想いに気付かずにすまなかったな。それなら話は引き受け……」

「でも、私はヒスクのお荷物にはなりたくありません! 私のために身を削って働いてもらうのは嫌です。引き受けるのなら、ご自身のために働いて下さい」

「キュール、聞いてくれ。キュールをこのままにしていたら、先代から尽くしてくれたお前の父に申し訳が立たない。私はキュールに幸せな人生を歩んで欲しいし、その為に働けるなら本望だよ。それに私も再就職先が決まって、安定した生活を送れる」

「でしたら、私をヒスクの学び舎で生徒として受け入れて下さい。学ぶなら、ヒスクやマオのような素敵な方から知識を享受したいです。父も亡くなり、身寄りのない私を傍に置いてくれたヒスクには感謝の言葉しかありません。どうかお願いします!」


 教団の運営する学び舎は学費を含めた諸経費は掛からないだろうが、学院のような高等教育を受けさせるのは難しいだろう。


「学び舎でキュールの望む知識は手に入るか分からない……それでもいいのか?」

「知識を学べるなら、それを活かすのに場所は関係ないと思いますよ」

「……そうだな。キュールの言う通りだ。分かった、明日にでもアニムス殿に返答してキュールの受け入れも相談しよう」


 ヒスクはキュールの傍に寄って抱き締めると、いつの間にか大人びた考え方をするようになったなと感心した。

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