第18話 将来について
二人は温泉から出ると、ヒスクは着替えをしながら魔王に訊ねる。
「そういえば、魔物と交戦した時に魔法を駆使して応戦していたけど、物理で応戦する気はなかったのか?」
「物理の方が楽だけど、それで長時間戦っていると加減が雑になるんだよ。下手したら、味方のお前に被害が及ぶかもしれないし、魔法は出力を抑えて放つ工程があるから加減し易い」
「そうだったのか。足手まといになって悪い事をしたな」
「気にするなよ。俺も親友に怪我させたくはないし、戦闘行為に及ぶと魔族の血が騒いでしまう傾向があるから、今後も魔法主体で戦闘は繰り広げる予定だ」
そんな事情があった事を知らずに、ヒスクは申し訳なく思った。
山菜を手当たり次第採って胃袋に収めている魔王を見てきたので、戦闘も魔法で応戦する事に深い意味はないと思い込んでいた。
二人は着替えを済ませると、温泉場を後にして火照った体で帰路についた。
居間のテーブルには大皿にサラダと三人分の鉄板にステーキが並べられていた。
キュールは帰って来た二人に気付くと、屈託のない笑顔で出迎えてくれた。
「おかえりなさい。お湯加減はいかがでしたか?」
「ああ、とても気持ちよかったよ。後でキュールも入っておいで」
「それはよかったです。スープと食料庫からワインとジュースをお持ちしますので少々お待ち下さい」
「食料庫は私が行くから、スープを運んだら先にマオと一緒に食べていてくれ」
ヒスクは食料庫の鍵を持って玄関を出ると、食料庫から上等なワインとグレープジュースを抱える。
まだまだ食料の備蓄に余裕はあるが、自家栽培の野菜も早く味わってみたいものだ。
急いで居間のテーブルに戻ると、二人はまだ食事に手を付けずにヒスクを待っていてくれたようだ。
「私のために待っていてくれたのか」
「早く座って食べようぜ」
魔王はヒスクを促して席に座らせると、三人は食前の挨拶を済ませる。
ヒスクとキュールはスープを一口飲むと、その横で魔王は器用にナイフとフォークを駆使してステーキにかぶりつくと、満足した表情を浮かべている。
今日の功労者は魔王なので、テーブルマナーとかは抜きにして食事を楽しむ事にする。
ヒスクは空いたグラスにグレープジュースを注ぐと、キュールに差し出した。
「美味しい料理をありがとう。食べながらでいいから、私の話を聞いてくれるか?」
「ええ、先程も温温泉場へ行く前に仰っていましたね」
「実はキュールに学院へ通わないかと思ってね。学院と言っても、別に魔術の勉強を強要する訳じゃないよ。キュールの今後の人生を考えて、外の世界の景色を見て欲しいと思うし、色々な物に触れてもらいたいと私は考えているんだ」
街でキュールと同い年の子供達を見ながら、ヒスクはキュールの将来について想像していた。
成人を迎えて、素敵な男性と結婚して子供を授かる。
家庭を築いて幸せな暮らしをして欲しいと心から願うヒスクは真剣な眼差しでキュールと向かい合う。
「お気持ちは有難いのですが、私には学院へ通うお金もありません。こうしてヒスク達と一緒に過ごせているのが幸せですよ」
「お金の心配はしなくていい。私が工面する」
「どうしてそこまで私のために……」
「そんなの当たり前だろ。キュールは我がマクシャル家に十分仕えてくれたし、今もこうして一緒にいるだけでも嬉しいのだ。私に姉妹はいなかったが、キュールは本当の妹みたいに尊い存在だ。そんな妹のためなら、良い人生を歩んで欲しいと願うのは当然だよ」
ヒスクは秘めていた想いをキュールにぶつけると、キュールは俯いて涙を浮かべた。
「私の事をそこまで考えていらっしゃるとは思いもしませんでした……」
「私の気持ちは変わらないよ。後はキュール次第だ」
「……今夜一晩考えさせて下さい」
「ああ、待っているよ」
キュールは涙を拭くと、お互いに料理を口にして料理を楽しんだ。




