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第17話 上機嫌な魔王

 精肉店で金貨一枚分の肉を買い込むと、魔王は軽やかな足取りでスキップをしてみせた。


「今夜は焼き肉でもしようぜ。きっと、キュールちゃんも喜んでくれるよ」

「そんなにはしゃいでいると、転んで怪我するぞ」


 子供のようにはしゃいでいる魔王を注意するヒスクだが、怪我は自前の治癒力で治ると分かっていても、お節介な性格は承知の上だ。

 傍から見れば、若い娘の魔術師が肉を抱えて喜んでいるようにしか見えないので、魔界の魔王だとは誰も思わないだろう。

 街の入口まで差し掛かると、途中でキュールと同い年ぐらいの子供達とすれ違った。

 規模は小さいが、この街には魔術師を育成する学院がある。

 子供達は杖と魔術書を大事に抱えながら、学院から家路に着くところなのだろう。

 ヒスクはキュールの事を考えながら、ぽつりと呟く。


「キュールにも、あの子達のような友達が必要だよな」

「えっ? すまん、聞いてなかった。もう一度頼む」

「何でもない。今夜は豪勢な食事といこうぜ」


 魔王はヒスクに振り向くと、ヒスクは魔王の前を歩いて街道へ進んだ。

 人の気配がないのを確認すると、魔王は瞬間移動の魔法を唱えて村の入口まで戻った。

 先程の街と比べると、人が少ないのは一目瞭然で静寂な村である。

 キュールが待っている掘っ立て小屋に到着すると、魔王は元気な声を上げる。


「ただいま。キュールちゃん、今日は美味しい肉を大量に手に入ったよ!」

「おかえりなさい。あらあら、それはよかった。服が少し汚れて汗も掻いていますね。先に温泉で体を温めに行って下さい。その間に獲れた肉を使って料理に取り掛かりますよ」

「そうかい。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな。ついでにこの前飲んだグレープジュースも用意してもらえると助かるよ」


 魔王は肉を居間のテーブルに置くと、着替えを持って温泉場へ行く仕度を整える。

 入れ替わりに、ヒスクはキュールに無事な顔を見せる。


「遅くなってすまないな。キュール、後で食事をしながら話をしたいのだが」

「それでしたら、私もヒスクにお話ししたい事がありますので、後ほどお伺いしましょう」


 キュールはヒスクの着替えを渡すと、今朝と同じく二人を見送って料理に取り掛かる。

 温泉場には誰もいないのを確認すると、魔王は掛け湯をして温泉に浸かる。

 ヒスクも魔王に続いて温泉に浸かると、今回の件で味を占めた魔王は悪い顔をする。


「明日も川魚を獲って、あの街で例の若い姉ちゃんに売りつけようぜ」

「また買ってくれる保障はないよ。仮に買ってくれたとしても、あんな大金をもう一度受け取るのは気が引けるよ」


 釣り合わない対価を再度受け取るのはヒスクにとって罪悪感が芽生えてしまう。

 また会う機会があれば、事情を聴きたいところだ。


「今度は川魚以外に食材になりそうな山菜とかを拾って並べようぜ。畑の野菜が収穫できれば、それも店頭に並べてさ」

「その心意気は見習いたいが、本格的に参入するなら街で商売する許可証が必要になるな」


 ロンソールでは、商いをするためには役所を通して許可が必要だった。

 おそらく、帝国内の領地も同じだとヒスクは思う。


「今回は運が良かっただけかもしれないが、無許可で営業して役人に捕まるのは勘弁だからな」

「細かな手続きは任せるよ。今日も実演してみせたように、山菜やその他の食材は私の腹で食べられるか判断するよ」

「毒とか本当に大丈夫なのか? 万が一と言う場合もあるから、俺としては控えて欲しいところだけどね」

「相変わらずの心配性だな。フグやトリカブトの毒も魔王の前では無意味だよ。むしろ毒より空腹で倒れる方が数百倍苦しいよ」


 昼食に弁当と川魚をお腹いっぱいに食べた筈なのに、魔王は腹の虫を鳴らす。

 たしかに、かけ離れた胃袋をしているよとヒスクは呆れた様子だ。

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