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第16話 川魚が金貨に

 村から一番近い街だが、人の行き来は盛んで賑わいを見せていた。

 川魚の鮮度を保つために、魔王が魔法で氷を作ってバケツの容器を召喚して入れながら、街の様子に圧倒する。


「まるで、お祭り状態だな。これだけ人がいれば、川魚を捌いて肉にありつけそうだ。もしかしたら、高級食材にありつけるかもしれない」

「そんな簡単にいかないと思うけどな。わらしべ長者じゃあるまいし」

「商売はお互い初めての経験だろ? 物は試しで、やるだけやってみようじゃないか」


 街並みの一画に露店商が並んでいる場所を見つけると、魔王は容器を置いて呼び込みを始める。


「新鮮な川魚が揃っているよ! そこのお嬢さん、夕飯にお一つ如何です?」


 通りかかった女性に川魚を勧める魔王だが、女性は迷惑そうな顔をして足早にその場を去って行く。

 ヒスクは隣で魔王のお手並み拝見と様子を見ていると、意外にも呼び込みは板についている感じで、黒の法衣と髑髏の杖が目立っているのと、顔立ちが整って男を惹き付ける胸の存在が助長して、道を行き交う男達は一瞬足を止めてしまう。

 しかし、売られているのが大量の川魚のみなので、客足はすぐに遠退いて行く。

 最初は活き活きしていた魔王も、顔色が曇り始めていた。


「売れないものだな……」

「まあ、そんなものさ。諦めて村に戻ろう」


 努力は評価したいところだが、現実は厳しいと言う事だ。

 ヒスクは慰めようと魔王の肩に手を添えると、魔王は何か閃いたような顔をして肩にあるヒスクの手を握ってみせる。


「そうだよ! 何でこんな簡単な手を思いつかなかったんだろう」

「急にどうしたんだ?」

「前世でさ。アイドルの新曲CDと一緒に握手券を売る方法があっただろ? それと同じ手法で川魚と一緒に我々美女二人の握手券を……」


 魔王が話している途中だったが、ヒスクは付き合いきれんと言わんばかりに店仕舞いの準備をする。


「名案だろ? これなら絶対いけるよ」

「真面目に聞いた俺が馬鹿だったよ。それに、握手券はある程度の知名度がないと効果がないだろ。見ず知らずの者と握手をしたい奇特な人間はいないよ」

「女性と縁がない童貞冒険者ならワンチャンある!」

「その前向きな思考は評価したいけど、肉は諦めろ」


 ヒスクは容器を持ち上げると、街道を目指して歩き始める。

 魔王はヒスクの横に並んで、握手券が駄目ならお食事券と代案を出すが、却下。

 顔を膨らませて拗ねる魔王に、村まで瞬間魔法を頼もうとした時だ。


「その容器にある魚を全部いただけるかしら?」


 背後からヒスクを呼び止める女性の声がした。

 一瞬、魔王の悪戯の類かと思ったが、当の本人は信じられないと言う顔をしていた。

 女性は全身を黒のローブで纏って、ヒスクと同い年ぐらいの若い魔術師のような風貌だ。

 魔王は小声でヒスクに問いかける。


「全部となると……何回彼女と握手するんだ?」

「いや、握手から一旦離れようか」


 冷静にヒスクは突っ込むと、女性は腕組みをして返答を待っている。

 容器を地面に置くと、ヒスクは女性に対応する。


「えっと、本当に全部買ってくれるのですか?」

「ええ、そう言ったつもりよ。売ってくれるの? くれないの?」


 冷やかしかもしれないと警戒したヒスクは女性に訊ねると、どうやらそれはなさそうだ。

 一匹や二匹なら夕食の買い物に訪れた客だと思うが、全部となると話は別だ。


「勿論、ご所望ならお売りしますが、これをお一人で召し上がるつもりですか?」

「そんなのはあんたに関係ないでしょ? こちらの事情をいちいち詮索するようなら、他を当たるわよ」


 女性は踵を返してヒスク達の前から去ろうとすると、魔王は彼女を呼び止める。


「お待ち下さい! 詮索なんてしませんから、全部買って下さい」

「じゃあ、代金を支払うわよ。お釣りはいらないから」


 女性は懐から金貨が入った袋を取り出すと、魔王に金貨一枚を手渡した。

 取引が成立すると、女性は容器を抱えて街の中へと消えて行く。


「やったぜ! ところで、この金貨はどのくらいの価値があるんだ?」

「お前、知らないで受け取ったのかよ。前世で例えると、一万円札をお釣りなしで対応したようなものだよ」

「……マジかよ。まさか川魚が諭吉一枚に化けるとはな」


 魔王は金貨を拝むようにすると、街の精肉店へと足を運ぶ。

 ヒスクは元貴族令嬢だったので、どことなく女性の雰囲気が気品に満ち溢れていたように見受けられた。

 もしかしたら、名家のお嬢様だったのかもしれない。

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