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第14話 狩りへ

 魔王はやれやれと言わんばかりに、肩をすくめる。


「全く、冗談の通じない奴だな」

「お前はガチっぽいんだよ。明日は早く出立するから、身体を休めておけよ」

「出立は昼前にしようぜ。俺は朝が弱いのを知っているだろ?」

「昼前から出立したら、帰りが夕方を過ぎて暗くなる。魔物と夜戦を繰り広げるのは御免だよ」


 全ての魔物が該当する訳ではないが、魔物は夜になると活発的になる傾向がある。

 ある程度の地理を理解して暗闇に慣れている魔物と初めての土地で暗闇の中を戦うのは圧倒的に不利と言える。


「夕方以降は用事がなければ、村の外を出歩かない方が無難だ。お前は魔王だから夜でも全然平気だろうが、俺は人間だからな」

「それなら、俺一人で狩りに行って来るよ。お前はキュールちゃんと一緒に留守番してた方が都合はいいだろ?」

「別にキュールと二人っきりになっても、何も起こらんよ。とにかく、明日は早朝から二人で出立するからな」

「へいへい。じゃあ、朝が弱い私はもう寝るとしますよ」


 魔王は踵を返すと、部屋を出て行った。

 ヒスクはしばらく書籍に目を通すと、ロウソクの灯りを消してベッドに潜って就寝した。


 明朝、ヒスクと魔王は出立の準備を整えてキュールから昼食の弁当を渡してくれた。


「こちらは昼食に召し上がって下さい。それと魔物には気を付けて下さい」

「ああ、帰りは遅くならないつもりだ。夕食は捕まえた猪や兎を捌いて肉料理を作ってくれ」

「期待して待っていますよ」


 キュールは二人を見送ると、溜まっている洗濯物の片付けを始めた。

 ヒスクと魔王は村の入口を抜けると同時に、魔王が魔物除けとして打ち込んだ楔の外に出た。

 しばらく街道を抜けて山道に入ると、ヒスクは楔の礼を魔王にする。


「ありがとな。楔を打ち込んでくれたおかげで、やっぱり安心できていいよ」

「急にどうしたんだ?」

「あの村は魔物による被害が多い地域なんだ。お前がいなかったら、自警団でも設立して魔物の対応をしていたところだったよ」

「まあ、前にも言ったが人間には効果がないから、野盗の類はどうしようもないけどな。俺がいる間は村に滅多な事はさせないから、大船に乗ったつもりでいてくれ」

「すまんな。恩に着るよ」


 山道を進んで行くと、キュールが採ってきた山菜やキノコ類を見つけて魔王は採取しようとすると、咄嗟にヒスクは魔王の行動を制止する。


「ちょっと待て。山菜でも食べられる物とそうでない物があるだろ? お前、見分けができるのか?」

「できん」

「おいおい、じゃあ採取するのは止めておけよ」

「見分けはつかんが、確実な方法はある」


 魔王はニヤリと笑って採取した山菜を口に含んでみせる。

 キュールは家事全般を含めて、メイド時代に地元の農家から山菜の知識を学んでいたので、昨日は安全に山菜を堪能する事ができた。

 ヒスクは慌てて竹筒の水を取り出して、口にした山菜を吐かせようとする。


「馬鹿! 毒があるかもしれないのに口にするな!」

「魔王の胃袋をなめるなよ。毒があれば、自動的に浄化するから安心しろ」


 しばらくすると、魔王は採取した山菜を捨てた。

 どうやら、食べられない代物だったらしい。


「魔界にいた時は大抵の肉類は食べられたが、魚や今のような山菜は毒があるかもしれない物は、直接口にして調べるのが常套手段だった」

「大丈夫なのか?」

「今のはハズレだったな。ヒスクが口にしたら、軽く平衡感覚が麻痺してしまうところだったよ」

「その方法で見分けられるのは魔王のお前だけだよ」


 一番確実な方法の見分け方かもしれないが、万が一と言う場合もあるので今後は控えるようにヒスクは魔王に注意を促す。

 しばらく山道を歩いていると、上流に差し掛かった。

河川に沿って下流へ進んで行くと、大きな岩場にぶつかって川魚が泳いでいる絶好の釣り場を発見した。

 ヒスクは一旦、ここで休憩する事を提案する。


「ここで少し休もう。釣り道具がないから、さすがに素手で川魚を捕まえるのは……」

 ヒスクは近場の岩場に腰を下ろして、素手で川魚を獲った経験がないので、捕まえるのは無理だろうと諦めていた。

 竹筒の水を取り出して一息入れようとした時に、ヒスクは驚いて言葉を失ってしまった。


「川魚か。魔界の魚に比べれば美味しそうだな」


 魔王は軽々と素手で川魚を捕まえていた。

 活きがいい川魚を魔王は魔法で火を起こすと、その場で焼き魚にしてヒスクに提供する。


「お前といれば、少なくともサバイバルに困る事はなさそうだな」

「このぐらいは普通さ。魚を食べたら、本命の肉を探そうぜ」


 捕まえた川魚を軽々と胃袋に収めていく魔王の様子を見て、ヒスクは親友の顔に食べカスがあるのを取り除いて上げると、そこは前世と変わらずだなと笑いを浮かべた。

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