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第12話 賭け

 しばらくすると、村の山道から山菜を採りに出かけたキュールが戻って来た。

 アニムスを居間に通した時に、居間のテーブルには置き手紙が添えてあって、山菜を採りに出かけることが書かれてあった。

 ヒスクはベッドから飛び起きて、帰って来たキュールを出迎えると、籠には豊富な種類の山菜があったが、注意を促す。


「只今戻りました」

「おかえり。一人で山道を歩くのは危険だぞ」

「野犬や魔物の類なら大丈夫ですよ。こう見えても逃げ足は速い方ですからね」

「それでもだ。今度から山菜を採りに行くなら、私かマオを護衛に同行させる」

「ご心配かけてすみません。お二人共、畑の作業とかで忙しいと思いましたので」

「そんな事は気にしなくていい。私との約束を守ってくれよ」


 ヒスクはキュールが無事に帰ってきた事を心から喜ぶと、彼女を抱いて軽く頭を撫でた。

 キュールは恥ずかしがっていると、仮眠を取っていた魔王が個室から出て来て二人の様子をじっと見つめた。


「私は子供じゃありません!? 夕食の仕度をしますので、今日は山菜を使った料理を作りますね」


 キュールは慌てて籠を抱えて台所に立つと、夕食の仕度を始める。

 魔王に気付いたヒスクは自室に招いて、それとなく頼み事をする。


「すまないが、俺がいない時とかにキュールが村を飛び出したりしたら、護衛を頼むよ」

「それは構わないが、過保護だねぇ」

「私は国を追われている立場だからな。キュールも警戒に当たるのは当然だ」

「俺に護衛は?」

「悪いが、お前に護衛が必要な相手となると、神話に登場する怪物とかだろ? そんなのは逃げの一択だよ」

「言ってみただけだ。キュールちゃんの護衛の件は了解したよ」


 魔王が傍にいてくれれば、少なくとも滅多な事は起きないだろう。

 獣や魔物の他に、ロンソールから放たれた追手がいるかもしれない。

 まだ村に住み始めて数えるぐらいしか経っていない状況で、最悪の事態は避けたい。

 ヒスクは一安心すると、魔王は急に魔法を唱える。

 すると、ボード盤のような物を召喚してテーブルに並べる。


「少し暇潰しの相手をしてくれよ。オセロのルールぐらいは知っているだろ?」

「シスターから渡された書籍を読もうと思ったけど、オセロか。少し懐かしいな」


 ヒスクはテーブルの席に着くと、オセロ盤に白と黒の駒を置く。

 前世で学校の休み時間や放課後を利用して、インドア派だったヒスクと魔王はオセロやチェスの対局をしたりしたものだ。

 対局を始めようとした時に、魔王はヒスクに提案を持ち掛ける。


「普通に打つだけじゃつまらないからさ。賭けをしないか?」

「賭け? 悪いが、命を賭けたりする気はないぞ」


 魔王が要求する定番の謳い文句と言えば、命や魂だろう。

 ヒスクは頑なに拒否すると、魔王は笑って突っ込む。


「そんな訳あるか。俺は魔王だけど、人間と同じ道徳の価値観だよ。今日の夕食で出されるメイン料理はどうだ?」

「まあ……それぐらいならいいよ」


 賭けが成立すると、魔王も席に着いてお互い盤面に集中する。

 今日のメイン料理は山菜を使った手料理だ。

 キュールの手料理は基本的に美味しい物ばかりで、どれも一級品だ。


「昨日から知っていると思うが、キュールの手料理は料理人顔負けの腕だ。絶対に負けないからな!」

「それはこっちの台詞だ。キュールちゃんの料理は俺が頂く!」


 火花を散らして二人は駒を裏返していく。

 体力や魔力では差が開いて勝てる気はしないが、公平なゲームなら勝算はある。

 台所に立っているキュールはまさか手料理を賭けの対象にされているとは想像もしていないだろう。

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