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第11話 秘密の共有

 居間のテーブルに集まって、まずは現状の再確認を始める。

 ヒスクはアニムスに疑問に思っている事をそのまま言葉にする。


「どうして帝国の第二皇子様が、このような辺境の村で神父のような格好をなされていたのですか?」

「父である皇帝陛下が崩御されて、私は皇位継承権を巡って兄弟で泥沼化した争いに嫌気が差してクシュル教に入信することで身を引いたのだ。元々、私は皇帝の座には興味がなかったし、人を幸せに導く事ができればと常々考えていた」


 先代の皇帝陛下は二年前、病に伏せて亡くなり、現皇帝に治まったのは第一皇子のユシェルだった。ユシェルは野心家で、皇位継承権があったアニムス以外の皇子は不幸な事故に見舞われて亡くなっている。噂では先代の皇帝陛下や皇子達はユシェルの謀略にかかったとされているが、真偽は定かではない。

 アニムスは続けて言葉にする。


「教団も私が帝国の血筋であると認識すると、教団の発言権が帝国側に奪われると危惧して、私をこの村に神父として派遣を命じられた。だから、今の私にあなた方を罰するような力はない」

「……帝国に通報はなさらないのですか?」

「先程、ロシュが嬉しそうにあなたを紹介してくれたのを見て、そんなつもりはないよ。それに晩餐会で見かけた時のあなたは実直で聡明な女性と見受けられた」


 ロシュとはシスターの名前のようだ。

 ヒスクは観念して魔王の素性は伏せておいて、アニムスに経緯を説明した。

 アニムスは黙ってヒスクの言葉に耳を傾けると、共感を示してくれた。


「それは大変だったね。それで今は三人でこちらに暮らしているのか」

「ええ、これからも村でひっそり暮らしていくつもりです」

「なるほど、事情は大体理解したよ。この事実は私の胸に閉まっておくから、安心してくれていい。邪魔したね」


 アニムスが席を立つと、ヒスクと魔王に握手を交わして玄関先へ向かう。

 そこにシスターのロシュが逃亡した際にヒスクが手放した風呂敷の包みを大事そうに抱えて訪れた。


「こちらでしたか。急に走り出すので驚きましたが、どうなさったのですか?」

「何でもないよ。彼女とは顔見知りで、偶然この村で数年ぶりの再会を果たして、恥ずかしがり屋な彼女は私の顔を見て逃げ出しただけさ」

「まあ、そんなロマンチックな事が実際起きるなんて、きっとクシュル神のご加護の賜物ですわ!」


 アニムスは咄嗟にヒスクとの設定を考えてロシュに伝えると、ロシュは疑う様子もなくアニムスの話を信じてくれた。

 アニムスはヒスクに小声でロシュには第二皇子だった経歴を隠しているようで、お互いの素性については伏せておこうと提案する。

 成り行きで秘密を共有する関係になったが、魔王を含めて村にはとんでもない肩書きの人物が集結したなと改めて再認識した、

 ロシュはヒスクに風呂敷の包みを渡すと、目をキラキラさせて詰め寄る。


「本の感想もそうですが、神父様とヒスクさんの馴れ初めも聞かせて下さいね」


 素性はバレなかったが、その分とんでもない勘違いをさせてしまった事にヒスクは頭を悩ませる結果になった。

 アニムスとロシュが教会へ戻って行くのを確認すると、隣で魔王は親友の様子を眺めながらぽつりと述べる。


「人間関係で苦労しているのは前世と変わらないな。この時ばかりは人間関係が皆無の魔王をやっててよかったと心底思うよ」

「お前にも苦労を分けてやりたい気分だよ。まあ、最悪の事態を避けられたのは運が良かったと割り切ることにするよ」


 逃亡生活を覚悟していたので、この生活が続けられるのは幸運である事はたしかだ。

 ヒスクは自室に戻ると、受け取った風呂敷を机に置いて、そのままベッドに潜った。

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