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第10話 神父の正体

 シスターは上機嫌で趣味の読書について語り始めると、途中で魔王は飽きたのだろうか適当な口実を述べて個室から出て行った。

 おそらく一人で村の散策の続きでもやるつもりなのだろう。

 ヒスクはお茶を啜りながら、シスターの話に耳を傾けて相槌を打つと、お勧めの書籍を何冊かテーブルに提示して、あらすじと見所等を熱く語る。


「こちらは恋愛小説なのですが、青年エルフが人間の女性と恋に落ちて、厳格なエルフのしきたりが二人の恋路を遮ってしまいます。他種族を題材にした珍しい恋愛小説なのですが、なんと著者はエルフの男性で実体験を基に執筆されたのです」


 恋愛小説に興味はないが、ノンフィクション作品である事は驚いた。

 前世でもそうだったが、どこの世界も女性は色恋沙汰の話には目が無いのだなとヒスクは思う。自身が女性になっても、その手の話はあまり興味が湧かないし、それは魔王も同じ事だろう。

 残り数冊の書籍も同様に語り終えると、シスターは風呂敷を取り出して書籍を丁寧に詰めていく。


「こちらは全て差し上げますので、是非今度お会いした時にでも感想を教えて下さい」

「いや、こんな貴重な書籍を頂くのは悪いですよ」

「ご安心を!? 実用、保存用、布教用と常時三種類ありますので」

「……そうですか」


 筋金入りの読書好きだと再確認したヒスクは言葉を失った。

 本職である教会の聖書も確かめたかったが、クシュル教に入信する口実にされそうなので止めておいた。

 ヒスクはシスターにお礼を言うと、包んでくれた風呂敷を持ち上げて退出した。


「ありがとうございます。空いた時間を活用して読んでみますね」

「またいつでもいらして下さい。今度は焼き菓子も用意してお待ちしていますよ」


 シスターがヒスクを教会の外まで見送ると、そこに丁度ミトラを被った神父が外出から戻って来た。

 手には水晶の錫杖と純白の法衣を身に付けて、魔王とは対照的な存在である。

 ヒスクが想像していたより、神父の年齢は若いようで二十代前半の若者だろうか。

 シスターは神父に挨拶をすると、ヒスクを紹介する。


「神父様、おかえりなさいませ。こちらは村に最近引っ越してきたヒスクさんです」

「ほう? それは珍しいですね。ヒスク……どこかで聞いたような」


 神父とヒスクは互いに目が合った瞬間、どちらも驚きの声を上げた。


「君はロンソールの暗黒騎士ではないか!」

「貴方は帝国の第二皇子アニムス様!」


 神父はミトラを取ると、かつてロンソールの晩餐会で来賓として招待されたシャンドゥール帝国の第二皇子アニムスだった。

 どうして帝国の皇子がこんな辺境の村にいるのだろうか。

 それより、最悪なのは自分の正体を知る者が言い訳できない相手だ。

 このままでは帝国の兵士に捕まって死罪は免れない。

 ヒスクは風呂敷を手放して、その場を駆け足で走り去って掘っ立て小屋を目指した。

 キュールを連れて、村の散策をしていると思われる魔王と合流する。

 とりあえず、瞬間移動の魔法で村から離れることが先決だ。

 そんな事を頭で整理しながら考えていると、ヒスクの背後から手が伸びて腕を掴まれてしまった。


「待ってくれ! 私は君と少し話がしたい」


 動きにくい法衣を纏って追い付いたのか。

 よく見ると、アニムスは走り易くするために法衣を脱ぎ捨てて、鎖帷子を着込んだ姿だった。

 ヒスクはバランスを崩してその場で倒れ込むと、アニムスが覆い被さる形になってしまった。

 そこに偶然、村の散策を続けていた魔王が通りかかって現状の様子が飛び込んできた。


「……悪い。邪魔したかな」


 妙な気遣いを見せる魔王にヒスクは誤解だと弁明する。

 すぐそこにヒスクの掘っ立て小屋があるので、とりあえず三人は中に入って話をつけることにした。

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