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 エドナに会った二日後、ルミナリエはリタに会いに行った。


 こちらもルミナリエ側からリタのタウンハウスに向かう形である。以前も約束した通り、本を貸してくれるとのことだ。


 ――案内されたフレイン家の書庫は、それはそれは広かった。

 恐ろしいことにこの書庫、フレイン家のタウンハウスにある地下いっぱいに広がっている。

 わざわざ光の入らない地下に本を置いている辺り、さすがだなとルミナリエは感心した。


(さすが、魔導書と魔術書の管理を代々行なっている司書官を輩出しているフレイン家ね)


 司書官はリクナスフィール王国が持つ魔術文化、魔導文化を保管、管理する重要な役職だ。その中でも一番大きいのは、王宮内にある書庫。そこには各家系が持つ技術が記載された書が保管されている。この国の貴族ならば申請を出す決まりになっているので、それを守る仕事はとても重要視されていた。

 フレイン家はその中でも、建国当時から司書官職についている家系だ。当然、王宮書庫の司書官も輩出しているすごい家系なのだ。


 ルミナリエは一通りの棚を見て回る。ここには魔導書や魔術書はないが、ありとあらゆる本がしまわれていた。中にはルミナリエが読めない文字で綴られた背表紙もある。他国の本のようだ。


 どうやらフレイン家の人間は、根っからの本好きのようだった。こんな場所まで本だらけなのに仕事でも本を扱っているとか、すごいを通り越して怖い。

 本に囲まれているリタのテンションも、前会ったときよりも断然高くて驚いた。


「ここ! この辺りが、わたし専用の区画です! ここからここまで、ずらーっと! 男装女子がヒロインのラブロマンスなんです!」

「すごい量ですのね……棚が倒れたら埋もれて圧死しそう」

「本に埋もれて殺されるとか、我が家からしてみたら本望ですっ!」


 本気か。

 本気だった。目がキラキラしていた。


「か、管理とか大変でしょうね……」

「本のためならそんな苦労くらい。というより我が家では代々、本の劣化を防ぐための維持魔術や書庫に埃がたまらないようにするための浄化魔術などを習うので、なんら問題ないのですよ」

「それ確かに無属性魔術で誰にでも使えるたぐいのものだけれど、練度が必要になる魔術じゃ……」

「本のためなので! その程度、苦痛ですらありません‼︎」

「そ、そう。……この本とかリクナスフィール王国の言葉ではないのでは? リタ様は言語習得をなさっているのです?」

「もちろん! ですがその程度の努力で多種多様の素晴らしい本が読めるなら、いくらでもやりますとも!」


 そう言うリタの目はキラッキラに輝いていた。しかも満面の笑みを浮かべている。

 本にかける情熱が強すぎて、ルミナリエは若干、いや、かなり引いた。


(私、リタ様のことあの三人の中で一番平凡で大人しい人だと思っていたけれど……認識を改めたほうがいいかもしれないわ……)


 この歳で多国語を使える令嬢とか、普通ではない。

 とりあえず借りる本を数冊決めたルミナリエたちは、リタの部屋へと向かったのである。







 リタの部屋に着いてしばらく本の布教をされていたルミナリエは、頃合いを見てエドナのことを口にした。


「そういえば先日エドナ様のお宅に伺ったのですが、そのときにものすごい数の贈り物を見てしまったのです。エドナ様って、殿方からとても愛されているのですね」

「あー……あれですか? ほんっと、すごいですよねぇ……エドナさんはものすごく迷惑してますけど」

「お気持ち、分かるのですか?」

「分かるといいますかぁ……別に好きでもない人からもらう贈り物とか、嬉しくないと思いません?」

「そもそももらったことがないのでなんとも言えませんわ」

「それは男どもの見る目がないだけです」


 どうして真顔で、エドナと同じことを言うのだろうかこの人。


「まあなんていいますかぁ……わたしもエドナさんも、割と夢見がちなんですよね」

「夢見がち、ですの?」

「はい。現実ではそんなことがないと思いながらも、心の中では素敵な王子様が来てくれることを、どこかで期待してるんです。エドナさんにとっての王子様が、ルミナリエ様なんですよ〜」

「あ、ああーなる、ほ、ど……?」


 一応納得したが、なるほどでいいのだろうか。

 まぁ話がうまく繋がりそうなので、良いことにする。


「そう言えばリタ様は、エドナ様につきまとっていたチェルノ・バルフのことはご存知でして?」

「もっちろんですよ。なんていうか、三流の小者感漂う男ですよね。当て馬にすらならなそうなタイプ」

(分かるわー)


 ものすごく首を縦に振ってしまった。


「そうですその人。リタ様は、その小者さんにエドナ様のような絡まれ方をしたことはないのですか?」

「ああー周りの友人から落としていって囲うっていう趣向は、割とよくありますよね。でもあの人は、わたしたちは眼中にない感じでしたよぉ?」

「あら意外。女性ならなりふり構わず口説くのかと思っていました」

「そういう意味では一途だったのかもしれませんね。わたし的には、恋愛感情っぽいものは見えませんでしたけど」


 紅茶にミルクを入れスプーンでかき混ぜながら、リタは言う。

 その言葉が意外で、ルミナリエは首を傾げた。


「そうなのですか?」

「あくまで主観ですけどね。もっと邪な考えですよーあれ。多分、グランベル家に婿養子に入りたかったから、エドナさんにアプローチかけたんじゃないですかね? そしたらかなりの逆玉の輿になりますから」

「あら、グランベル家には男児がいないのですか?」

「はい。親戚筋もみんな女児ばかり生まれてしまったので、エドナさんは嫁ぐのでなく婿養子を取る形で家に貢献する予定だったんです。他の殿方もそれが理由でアプローチしてきてる人もいるので……エドナさんとしてはかなり複雑なのではないかなーと、わたし勝手に思ってますよ」

「同感ですわ」


 しかし貴族社会では、割とよくある話だ。

 紅茶を飲んでから、リタは肩をすくめた。


「エドナさんとは昔からの付き合いになりますけど、自由がきかないって大変だと思います。……そんな彼女を少しでも元気付けてあげたくて本を薦めたら、想像以上にハマってしまって驚きましたけどね」

「ということは、リタ様とエドナ様は、読書仲間でもあるのかしら?」

「はい。わたしの大切な大切な、友達です」


 そう笑うリタの笑顔は、とても清々しかった。


(やっぱり私には、リタ様がチェルノに加担するとは思えない)


 エドナも、チェルノに対してかなり怒っていた。そんな男を手引きするのはちょっと想像できない。

 だがちゃんとした証拠がなければ潔白とは言えないのだ。


(もう少し深く聞けたらいいのだけれど……流石にアリバイを聞くのは怪しまれそうだわ)


 ルミナリエはふう、と息を吐く。

 結局ルミナリエはそのあと当たり障りのない会話をして、リタと別れることになった。


 ――犯人調査は、なかなか難航しそうだった。

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