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 フランシスが帰った後、ルミナリエはリビングで正座をしていた。


 その真ん前には、輝かしいばかりの笑みをたたえた母の姿がある。

 そのあふれんばかりの素敵な笑みから目をそらしながら、ルミナリエはだらだらと冷や汗をかいた。


「……ねえ、ルミナリエちゃん? あなた、まんまと彼に乗せられたってこと、分かってる?」

「……はい、分かっております……」

「かんっぺきに掌の上で転がされていたこと、分かってる? ころっころだったわよ? そばで見ているわたくしにも分かるくらい、ころっころだったわよ?」

「はい、はい……アルファン様の口車に乗せられカッとなりころころされてしまったこと、とても反省しております……」


 そう。ルミナリエは現在、ミリーナからきついお説教を受けているのだ。

 理由はルミナリエも分かっている。


 冷静さを欠き、感情で最終決定をしてしまったからだ。


(ほんとなんていうか……我がことながらほんと馬鹿)


 昔から、頭に血がのぼると突飛な行動を取ってしまう。そのせいでじゃじゃ馬と呼ばれることもしばしばだ。

 この世の終わりのような気持ちで、ルミナリエはどんよりとうなだれる。


 するとミリーナは、そっとルミナリエの頭を撫でる。

 顔を上げれば、ミリーナが困ったような笑みを浮かべていた。


「だけれど、別にルミナリエちゃんに不利になる条件ではなかった。むしろわたくしとしては、ルミナリエちゃんがそんなふうに感情的になるほどの友人が後宮での暮らしでできて、良かったとすら思ってるわ」

「お母様……」

「わたくし、ルミナリエちゃんのそういうところが羨ましいと思ってるし、良いところだと思っているのよ? 誰かのために熱くなれる人間は、戦士に向いているから」

「……本当?」

「もちろん。……だーけーど、ちゃんとコントロールできるようにならないといけないわ。コントロールできてようやく一人前だもの。それはルミナリエちゃんも分かってるわよね?」

「うっ……はい……」


 ルミナリエは頷いた。王太子妃になるのだから、その点は重点的に鍛えなければいけないだろう。

 ミリーナのお許しをもらったルミナリエは、生まれたての子鹿のような気持ちで立ち上がりつつ、レレリラの手を借りて椅子に座った。

 ミリーナも向かい側の椅子に座り、使用人に紅茶を淹れてくれるように頼む。


「でも、あの子なかなかの策士ねー。さっすが王太子殿下の副官って感じだわ」

「……お母様から見ても、アルファン様はすごいの?」


 足を揉みほぐしつつ、ルミナリエは首をかしげる。はじめのうちは感覚がなくなっていたがだんだんとピリピリしてきて、思わず顔をしかめた。だけれど割と正座をすることはよくあることなので、それくらいなら気にしなくなっている。

 百面相をするルミナリエを見て、ミリーナは頬杖をつきながら微笑んだ。


「そうね。優しい顔してなかなかの腹黒だと思うわ。煽り方なんかすごかったもの。知略に関してはまだなんとも言えないけれど、相手の痛いところを突いて煽りに煽り、相手の行動を上手い具合に誘導しているし、そのくせベルナフィス家を一度たりともこき下ろしたりしなかったわ。それってすごく難しいことだもの。将来の宰相にふさわしい性格してると思うわよ。……まあもっちろん、うちの夫ほど優秀ではないけれどねえ〜!」

「最後に惚気ないで」


 しかしミリーナの言う通り、フランシスは優しい好青年のような顔をしているが、中身はかなり腹黒いと思った。なんせ、今思い出してもふつふつと怒りがこみ上げてくるほど、憎たらしい言い方をしていたからだ。


(見てなさい。目にもの見せてやるんだから!)


 淑女としてはどうかと思うが、次会ったときは是非手合わせしたい。そしてボッコボッコにしたい。


 頭の中でフランシスの顔をぶん殴る姿をフィーリングして溜飲を下げたルミナリエは、グッと拳を握り締めた。


 そうと決めれば行動である。

 ルミナリエはぐりぐりとこめかみを押した。


「とりあえず、エドナ様とアゼレア様とリタ様に会いに行かなくっちゃ」

「そうよねーまず一番初めにやらなきゃいけないことは、事情聴取よねー」


 注がれた紅茶に角砂糖を三つも入れスプーンでかき混ぜつつ、ミリーナは言う。


「でもルミナリエちゃん、相手に怪しまれちゃダメよ? ルミナリエちゃんにとっては事情聴取で、彼女たちの疑いを晴らすっていう善意で動いてるけれど、彼女たちからしたら気分が良くなることではないから」

「分かっているわ。善意だからって、やっていいことと悪いことがあるものね」


 善意の押し付けは良くないとルミナリエは思っている。

 特に今回の件はルミナリエが勝手に売られた喧嘩を買い、フランシスをギャフンと言わせたいと思い動いてるのだ。あくまで自然に質問をしなければいけない。


 幸いなことと言えば、彼女たちがまだ王都にいることが分かっている点だろうか。


(後宮を出るときに、どこにいるのか教えてもらって良かったわ)


 かなり急に後宮から出されることになったのだが、最後に顔を合わせることができたのだ。そのときに現在の居場所は知っている。そのときに一応、会おうという約束をしていた。


(お手紙書かなくっちゃ!)


 妙に闘志を燃やすルミナリエを尻目に、ミリーナはクッキーを口に含む。


「ルミナリエちゃん、頑張るのはいいけれどあなた、自分のことも忘れちゃいやよ? 王家との方々との話し合い、一週間後だからね?」

「分かってる! だから焦ってるの! このタイミングでアルファン様が殿下からの言伝を言ってきたってことは、次に殿下に会うときまでに調べておけってことでしょう? なら急いで会う約束取り付けなきゃ、報告書が書けない! というよりそういうお母様こそ、お父様大丈夫なのっ? 間に合うの⁉︎」

「大丈夫大丈夫〜。彼はね、約束の日時に遅れたことはないもの。生真面目で神経質で戦場とかはとことん向いてないけれど、そこだけはちゃんとしてるから!」

「大丈夫な感じがしないのは私の思い過ごし⁉︎」

「もしものときは迎えに行くわ」

(それでいいの⁉︎)


 とことん模範的な貴族とはズレてるなぁ、と思う。

 だが、すぐに体調を崩すわ血を見たら倒れるわとこの国の貴族男性的ではないが、知識量と弁舌が立ち政治面でサポートできた父親だからこそ、勇猛果敢な母親との政略結婚をしたのだ。今となってはラブラブだし、お互いの良いところを活用してベルナフィス領を守っているので、二人はこれで良いのかもしれない。


(私も政略結婚だけれど、こんな二人みたいになれたら良いわね……)


 甘い考えだと分かっているが、恋愛小説に出てくるような甘い関係には憧れがあった。

 ヴィクトールがルミナリエを好きになった理由が好きになった理由なので、そこはあまり期待できなさそうだが。


 ぼんやりと先行きに不安を感じながらもルミナリエは手紙を書き、使用人を使って三人に届けさせたのだった。

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