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マカイ学校の妖達と私。  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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26 陰陽師。




 学校が休みの土曜日は、電車で行き幻影師匠の屋敷を一人で訪ねた。

 あとから神宮先生も来るそうだ。


「いばらの森の植物使い・翠を倒したそうじゃないか! あっぱれだ!!」

「皆がついていたからですし、翠も本気ではなかったので、たまたまですよ」


 神宮先生から聞いたらしい幻影師匠は、とてもご機嫌だ。相変わらず若々しい男性の顔をしている。青い髪はボリュームがあってうねっていた。

 翠は結局昨日まで居座ってしまい、みやちゃんが「みどりん」というあだ名を付けたのだ。今は何しているかな。


「謙遜するな! お前には戦いの素質もあると見た!」

「戦いの、素質ですか……」


 喜ぶべきなのだろうか。


「私が最強にしてやろう!」

「はい。友だち達を守れるくらい強くしてください!」

「よろしい! その粋だ!!」


 用意してもらった白い道着に着替えて、いざ修業に挑んだ。

 数時間後、神宮先生が道場を覗きにきた。


「安倍。修業捗っているか……何やらせてるんですか!? 幻影師匠!!」

「おお、智」

「おお、智……じゃないです!」


 幻影師匠と神宮先生のやり取りを横目で見ながら、シャトルランをする。

 シャトルランとは、20メートルを合図音に合わせて往復して走る体力測定の方法。ゼェハァと走っている私に向かって、幻影師匠は小さなボールを投げ続ける。そんなボールは霊力の壁を作って弾く。

 シャトルランをしながらの霊力の壁を張る修業である。


「ほれ、そこまでだ。小紅芽」

「はいっ、ハァハァ」


 すぐには止まらずに歩いていく。そんな私にまたボールを投げるけれど、霊力の壁は解除していないので、跳ね返った。それが廊下に立つ神宮先生の元に転がる。


「いやぁ、小紅芽は器用だな。長い間霊力の壁を保っていられる」

「俺の時はこんなことさせませんでしたよね!? もっと初歩的な霊力の使い方を教えないですか!?」

「小紅芽は強くなりたいと言うからな。身体と霊力を鍛えているんだ」

「安倍! お前どこを目指してるんだ!?」

「ハァハァ……どこ、でしょうか?」


 明確な目指す先があるわけではないので、自分でもよくわからない。

 使用人の女性がタオルを持ってきてくれたから、それを使って汗を脱ぐわせてもらった。


「さて、次は腕立て伏せをしながら、壁を保つことにしようか?」

「いやだからもっと初歩的なものからやらせてくださいよ!! 幻影師匠!」


 初歩的な霊力の扱い方ってなんだろう。

 気になる。息を整えていた。


「初歩的なって、例えば何やるんですか?」

「俺の時は、正座して霊力の球体を作ったり壁を作ったりしてた」

「私の修業メニューは体育会系ですか」

「でも強くなりたいのだろう?」

「はい」

「ならば続けるべき!」

「はい! 師匠!」

「体育会系!」


 強くなれるなら、体育会系でもいい。

 ツッコミ担当をしてくれる神宮先生は、何故か崩れ落ちた。


「安倍行く末が心配だ……」

「そんなに心配ならなんで師匠を紹介したんですか?」

「こんなことになるなんて夢には思わなかった」

「可愛い弟子、ええのぉ」


 疲れた声を出す神宮先生とは逆に、鼻の下を伸ばしてご機嫌な幻影師匠。

 そこで、他の使用人の女性が「困ります」と言いながら来た。その制止の声も聞かずに現れた客人に、私達は注目をする。


「幻影さん。お邪魔しますよ」

「……冴木の」


 にこやかに挨拶をする着物姿の青年に対して、幻影師匠は眉を潜めた。

 青年は健康的なやや色黒の肌をしていて、冴木と呼ばれる。


「何しに来た、歓迎せんぞ。さっさと帰れ」

「相変わらず、若作り頑張っていますね」

「素じゃボケ!!」


 さっきまでご機嫌だった幻影師匠の悪態、初めて見た。

 この常に能天気そうな人も怒る冴木さんって何者だろうか。

 私が目を向ければ、そんな冴木さんも私に目を向けた。


「君ですか。いばらの森の植物使い・翠を倒したという少女は」


 え、何? そんな噂になってるの?

 この手のことは広まるのが早いのか?

 戸惑っていれば、冴木さんが歩み寄ろうとした。その前に立ちはだかる幻影師匠と神宮先生。険悪なモードで対峙する。

 でも冴木さんは、にこやかな表情を保っていた。


「一応補足すると私一人で倒したわけではありません」


 冴木さんの視界に入るように、ちょっと立ち位置をずれて言ってみる。


「いやいや。それほどの霊力の持ち主……今まで噂にならなかったことが不思議ですね。どうしてですか?」

「どうでもいいじゃろうが! お前には関係ない、冴木の! この子は私の! 弟子なのだからな!!」


 ふふん、と胸を張って得意気になる幻影師匠。


「霊能力者の弟子ではなく、陰陽師の弟子になりませんか?」

「おん、みょうじ?」

「はい。僕は冴木守孝さえきもりたかです。陰陽師の末裔です」


 霊能力者の次は、陰陽師のご登場か。


「私は」

「名乗らんでいい! 小紅芽!!」

「こぐめと言うのですか。可愛らしい名前ですね」

「しまった!!」


 幻影師匠が一人コントをやっている目の前で、冴木さんは着物の袖を探る。

 そして取り出したものに、フーッと息を吹きかけると白い蝶が舞い上がった。ひらひらと私の元まで飛んできた蝶を掌に乗せれば、一枚の紙に姿を変える。名刺だ。

 おお、と感動しながらも、名刺を読む。

 冴木守孝と大きく書かれている裏に、携帯番号とメールアドレスが記してある。


「ええい、小紅芽。燃やしてしまえそれ!」

「気が変わったら連絡してください。いつでも受け入れますよ」

「陰陽師の弟子になったら、今の出来ますか?」

「こら小紅芽!! 何気を持っているんだ!!」


 すごい剣幕で迫った幻影師匠。

 いやだって、気になるじゃないか。やってみたい、紙を蝶にする技。

 絶対みやちゃんにやって見せたら、喜びそう。


「出来ますよ。こっちに来てください」

「だめだ! 安倍、こいつらは危険だ。よせ」

「危険だなんて、人聞き悪い」

「本当のことだろう!?」


 ギッと睨み付ける神宮先生。

 それでも表情を崩さない冴木さん。

 なんだろう。思った以上に確執があるみたい。


「今の術くらい教えてあげてもいいでしょう?」

「……」


 番犬のように睨む神宮先生を横切って、冴木さんは私を手招きをする。

 縁側に腰を落とすから、私はスタスタとゆっくりした足取りで近付く。神宮先生達を気にしながら、だ。

 冴木さんは全く気にしていない様子で、隣を座るようにトントンと指で叩く。

 私が腰を下ろすと、もう一枚名刺を取り出した。


「霊力を込めて術を唱えるのですよ。こうしてーー蝶・変化へんげ

「おお!」


 掌の上で吐息をかけるように唱えると、白い蝶になった。


「仕掛けは、この紙に術式を込めている。ほらごらん」

「あ、本当ですね」


 その蝶を摘んで紙に戻した冴木さんが透かして見せると、読めないけれど漢字の羅列がある。

 なるほど。紙に仕掛けがないと今のように唱えても蝶にならないのね。


「蝶・変化」


 霊力を集中させて、フーッと息を吹いてみる。

 そうすれば一枚の紙は蝶の形になって舞った。


「……これは驚いた。一度で出来てしまうなんて。才能があるのですね」


 冴木さんの顔を見てみれば、表情が変わっている。驚きの顔だ。

 でもすぐににこやかな表情に戻って「ぜひうちに来てほしいですね」と手を伸ばしてきた。頭を撫でるつもりだったのだろうけれど、私の視線は舞い上がった蝶の方にいく。庭に落ちたので、それを拾いにいき、結果手を避けてしまった。


「ありゃ」

「はははっ! ざまぁみろ!」

「あ、すみません」


 手が宙を彷徨う冴木さん。それを指差して笑う幻影師匠。

 悪気があって避けたわけじゃないと軽く頭を下げて見せる。


「いいよ。謝らなくても。さて、自己紹介と力量も知れたし、失礼させていただきますね」

「帰れ帰れ!」


 冴木さんは縁側に立つと、来た廊下を戻り始める。


「こぐめさん。また会いましょう」



 手を振る冴木さんに、私は頭を深々と下げた。

 使用人の女性の案内で去っていく冴木さんを見送る。

「塩をまけ! 塩だ!」と幻影師匠は、使用人の女性にそう伝えた。


「何故一方的に嫌っているのですか?」

「……冴木家の陰陽師は、妖を捕らえて使役しているんだ」

「妖を捕らえて?」


 神宮先生が手を差し伸べてくれたので、受け取って縁側に乗る。

 足の裏についた砂は手で払う。


「中には無理矢理従わせている妖もいるんだ」

「無理矢理ですか……それはいただけませんね」


 にこやかな表情をしている人なのに、嫌悪を抱くようなことをしているみたいだ。


「それって違法とかにはならないですか?」

「この世界にそんなものはないんだ」


 険しい顔の幻影師匠が、その場に座って答えた。


「植物使いの翠が魔界で悪名高いのなら、冴木家の陰陽師は人間界で悪名高いと言ったところか。妖は冴木家には近付かないようにしているほどだ」

「そもそも霊能力者と陰陽師の違いは何ですか?」

「霊能力者はほとんどが相談だが、いわば払い屋だな、取り憑かれた人を解放してやる。陰陽師はさっき言ったように妖を服従させる術を使ったり、あとは占いもするな。表向きには、主に占いで権力者を成功に導いている」


 幻影師匠の次に神宮先生が答えてくれた。

 陰陽師は占いをするのか。悪い権力者が想像出来た。

 いや、占い相手が悪いとは限らないけれども、そんなイメージになってしまう。


「いい連中ではないから、関わるな」

「……はい。わかりました」

「名刺は燃やせ」

「一応持っておきます」

「何故じゃ!?」


 燃やしたがる幻影師匠から、名刺を隠す。


「修業の続きをやりましょう」

「うむ。では霊力の球体を作りながら腕立て伏せだ」

「こうですか?」


 両手の中に球体をイメージをして霊力を固める。それを出しながら、腕立て伏せ。これがなかなか難しい。壁より、球体を作る方が難しいとは。いや球体を作りながらの腕立て伏せが難しいのだろうか。

 球体に手をついて腕立て伏せをしているから、バランスが取りずらい。


「そう言えば……んしょ……翠に霊気を打ち込んだ時に爆発したのですが?」

「それはあれだな。霊波動じゃ」

「霊波動……ですか」


 バランスを崩さないように腕を曲げては伸ばしながら、幻影師匠と話す。

 霊波動、つまりは霊気の波動で吹っ飛ばしたことになるのか。


「なんじゃ、無意識に霊波動を使って倒したのか! 次は霊波動の練習をしてみるか!」


 幻影師匠は嬉々として、次のメニューを決めた。

 神宮先生が肩を竦める中、構えを指導してもらい、投げられるボールに霊波動とやらを打ち込んだ。弾き飛ぶ前に、ボールは破けたのだった。


 

 

20180311

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