表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/29

19 霊能力者。




 くたくたになるまで頑張った体育祭の翌日は、昼食を済ませると神宮先生が車で迎えに来てくれた。

 車の中にはすでにみやちゃん達が乗っていたので、私も乗らせてもらう。

 助手席は空席。その後ろに私とみやちゃんが肩を並べて、一番後ろの席に狼くんと白銀くんが座った。

 今日のみやちゃんのコーディネートは、フリル付きの短パン。ピンクのドレープのカットソー。

 私は陽射し避けの黒のカーディガンと、明るいオレンジ色のフリルのキャミソール。そしてスキニーパンツ。

 狼くんは、真紅のカットソーシャツとチェック柄の七分丈のズボン。

 白銀くんは、薄手の黒いニットと七分丈のズボン。ボケーと外を眺めている。

 神宮先生は、白いカーディガンと黒のVネックのシャツとジーンズを合わせていた。


「神宮先生。幻影さんってどんな人ですか?」

「んー……見た目は若く中身はオジサンかな、一言で表すとな」

「……はぁ」


 どんな反応をすればいいか、わからない。

 目的地には、一時間弱でついた。

 長い階段を登らされた上に、その幻影という霊能力者の屋敷があるそうだ。

 立派な門があって、中から一際大きな気配を感じた。

 これが幻影という人の霊気か。


「うう、何度来ても強烈な霊気だよね」

「そうですね」


 みやちゃんは角を撫でて縮こまり、相槌を打つ狼くんは頭の上の耳を気にした。

 黙り込んでいる白銀くんも落ち着きなく、自分の尻尾を撫で付ける。


「霊気を感じると嫌なの?」


 私は率直に尋ねた。


「いえ、ただこの寺には妖を寄せ付けない結界が張ってあるため、そう感じてしまうだけなんですよ。例えるとそうですね、小紅芽さんの家の結界は穏やかなもの。ここの結界は少々棘があるものです」

「わかるような、わからないような」

「番犬を置いているようなもんだ。入るぞ」


 神宮先生が話を切り上げさせて、棘のある結界とやらに入る。

 あ、なんか、落ち着く。

 そう感じて、一息ついた。


「落ち着くだろう? 師匠の霊力が満ち足りた空間だからな」


 胸を撫で下ろす私を見て、神宮先生が言い当てる。

 どうやら本当に、本物の霊能力者らしい。

 使用人らしい着物の女性の案内で、広い屋敷を歩いた。

 通された畳の広間に、座布団を敷いて座って待つ。

 少ししてやってきたのは、若い男性だった。神宮先生よりも小柄で身長が低い。真っ青な髪が癖が強くてうねっている。この人が、幻影さん。若々しい顔立ちをしているが、きっと神宮先生より歳が上なのだろう。師匠だもの。


「やぁやぁ、待たせたね。ん? 今日の用件は……その子、悩んでいる君だね!」

「え? 俺は別に何も悩んでいないですけど……」


 ビシッと指差したのは、私の後ろに座っていた白銀くん。


「いやいや嘘だね、私にはお見通しなのです!」


 ふふん、と得意げに笑う幻影さんを見て、私は本物なのか? という疑問を無言で見上げて、右隣の神宮先生に投げかけた。


「げ、幻影師匠。用件なら電話で話したでしょう?」

「なんだったかな?」

「霊力持ちの女子生徒を見てくれって用件です!」

「そうだったかな?」


 大丈夫か、この人。

 確かに気配はすごい。なんというか、芸能人でいうと芸能人オーラってやつみたいで、存在感はあるのだ。存在感だけは、ある。存在感だけ、は。


「それで可愛いのか? その女子生徒は」

「いきなり真顔になってそんなことを訊かないでください」


 笑っていた幻影さんが真剣な表情になったから、神宮先生はツッコミを入れた。


「可愛いですよ! この通りです!」


 すると左隣のみやちゃんが私の眼鏡を取る。


「ほう? ほうほうほう! なるほどなるほど! うん、合格じゃ!」


 何が、ですか。

 そういう質問をするのも疲れてしまうように感じた。

 グットサインを出す幻影さんが、ポンと私の頭に手を置く。

 その瞬間、完全に気が緩み、霊力をただ漏れにしてしまった。


「ほーう! これはすごい霊力だ!!」


 真っ青な目を見開いた幻影さんが笑みを深める。


「決まりだ! 弟子になれ!!」

「いきなりですか!? 事情を聞いてもらって助言をもらうつもりできたのですが」

「可愛い弟子が欲しいのだ」

「可愛くなくて悪かったですね!」


 幻影さんと神宮先生のやり取りを交互に見て、私は挙手をした。


「あの、私は昔から妖に狙われていて、それで霊力を隠してきました。妖とも関わらないように生きてきましたが、摩訶井学校に入学してそれが変わってしまいました」

「うんうん、隠していた霊力が成長と共に膨れたのだな。そして、その三人の妖と会ってしまったのだな?」


 その通りだ。

 私はみやちゃんの顔を見た。笑みを向けられる。

 幻影さんは私の目の前にあぐらをかいた。


「摩訶井学校は、魔の領域。それ故に、霊力を持つ者も妖気を持つ者も触発されることもある。元から惹きつけやすい質が強まったのだろう。そういう霊力じゃ」

「惹きつけやすい質、ですか」

「そうじゃ。その性質を断ち切ることは無理だ。天性のものだからな。残念ながら、それに関しては私は何も出来ん」


 そうか、天性のものがあの魔の領域で強まってしまっているのか。

 だからみやちゃん達を惹きつけたのか。

 納得して頷く。


「それで、君は私に何を求めて来たんだい?」


 真っ直ぐに見据えてきて、問われた。

 そう問われても、私は何を求めに来たのだろう。


「えっと……私は……」


 視線を落として、自分の手を握り締める。


「この力が役に立てるなら……使い方を教えてもらいたいです。友だちを、親友を守るために……」


 青い瞳と視線を交じり合わせて、私はそう答えた。


「うむ、ならやはり私の弟子になれっ!」


 ポンポンと頭を撫でられる。

 それって神宮先生にもやられたことあるけれど、神宮先生はこの人の真似をしていたのだろうか。


「私、先ず治癒の技を覚えたいのですけれど……素質があると聞きました」

「おっ。よくわかっているじゃないか。この霊力は浄化に適しているからな、治癒の技が使いこなせるぞ。とりあえず……とも、怪我しろ」

「無茶言わないでください、師匠」


 智。神宮先生の下の名前か。

 無茶振りをされた神宮先生の代わりに、私は挙手をする。


「足、ちょっとした怪我をしているので、それでいいですか?」

「ほう、見せてみろ」


 私は靴下を脱いで、絆創膏を貼った足の裏を見せた。

 ベリッと絆創膏は外される。躊躇ないな、この人。


「これなら一瞬で治せるな。手を貸してみろ。霊気の使い方を教えてやる」

「はい」


 右足を出して、私は左手を差し出す。

 その左手を持って、右足に翳す幻影さん。


「手に集中をしてごらん。熱をイメージして」


 言われた通りイメージをして頷く。

 するとじんわりと翳した右足が熱くなる。

 霊力も注いでいる感じがしたが、それも一瞬のこと。

 傷は塞がって、触っても痛みも感じなかった。


「うそ、治ってる……」

「こんなもんじゃ」

「ありがとうございます。幻影さん」

「何、礼を言われるほどではない。お前さんの霊力を使って治しただけのこと。それと、今後私のことは師匠と呼ぶように」

「はい、幻影師匠」

「うむ、いいのぉ、若くて可愛い弟子は」


 デレッと鼻の下を伸ばす幻影師匠。

 大丈夫なのか、この人。私は神宮先生に視線を投げかけた。神宮先生は何も言いたくなさそうだ。


「あの、これって妖相手にも有効ですか? 学校に傷付いた幻獣がいるので治してあげたいのですが」

「幻獣とはまた珍しいものが入り込んだな。幻獣にも有効じゃ」

「そうですか」


 これであの幻獣を治せる。


「もう少し時間があるかい? ちょっと軽く霊力を操る修業をやってみるか?」

「師匠、それはまた後日にしましょう。治癒をやったばかりですから」

「なんだ、もう帰るのか? 寂しいのう。名前はなんというんだ?」


 修業って軽くやれるものなのだろうか。

 私は疑問に思いつつ、名乗る。


「小さな紅の芽と書いて、小紅芽です。安倍小紅芽」

「小紅芽か。いい名前だ。これからよろしくな」


 握手を求められたので、握った。


「さて、そこの坊やの相談も聞くぞ?」

「だから俺は別に何の悩みもありません!」

「恋か? 恋だな? 青春しておるのぉ」

「違います!」


 何故か絡まれる白銀くんだったけれど、一緒に帰る。


「明日、小紅芽ちゃんの家に遊びに行ってもいい?」


 その帰りの車の中で、みやちゃんが訊いてきた。


「え? 多分いいと思うけれど」


 振替休日で月曜日である明日は、お父さんは仕事だ。


「何して遊ぶの? 大したものは家にないよ」

「大丈夫、持参していく。あれがあればいいよ!」

「あれ?」

「DVDプレイヤー!」

「DVD観るの? 何の?」

「ふふふっ! ホラー鑑賞会するの!!」


 ……半妖の皆と一緒に?



 



残り十話!

2018305

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ