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17 親友。



三話連続更新!




 夢を見た。

 私は夜の学校にいて、巨人みたいな妖がいる。

 ボロボロのみやちゃん、狼くん、白銀くんがピンチになっていた。

 そんな夢を見て、飛び起きる。


「……? ん?」


 今すぐにでも夜の学校に駆け付けたい衝動にかられたけれども、朝になっていた。混乱するほど、リアルな夢だ。

 私は首を傾げつつも、朝の支度を始めた。

 家を出ても、珍しく黒猫の忍くんがいない。

 久しぶりに、一人で学校に向かう。右足を庇ってひょこひょこと歩く。


「おはよう! 小紅芽ちゃん見守り隊です!」

「おはよう。何それ」

「おはようございます」

「おっはよー」


 いつも渡る信号機のある道に、みやちゃん達が待ち構えていた。

 みやちゃんも狼くんも白銀くんも、普通そう。

 それもそうだ。あれは夢だったのだから。

 三人は不思議そうに私の足元を一度見た。忍くんならいないけど。


「小紅芽ちゃんがまた嫌がらせを受けないために、守ります!」


 みやちゃんは、角の前で敬礼した。


「もう受けないと思うよ? 噂広がっているだろうし」

「そうですね。でもやらせてください」


 私に嫌がらせして狼くん達に知られたらどんな末路になるのか。

 泣き止まなかったであろう彼女達を見て、わかったはずだ。

 狼くんは昨日見せた冷たい眼差しではなく、優しげな眼差しで言う。

 その狼くんに見つめられては、呻くように頷いてしまった。

 そんな狼くんと目が合わせずらい。昨日の今日だもの。


「鞄持ちますよ」

「よし! 行こう!」


 白銀くんが先導して、私の鞄は狼くんが持って、みやちゃんは私を支えてくれた。

 校舎につくと、真っ先に画鋲が入っていないかと白銀くんがチェックをする。

 おお、ボディーガードを雇った気分だ。


「画鋲なし! どうぞ、履いてください。お姫様」


 いや、騎士のつもりなのか、白銀くん。

 傅いて上履きを履かせてくれようとする。


「普通に履けるから、やめて。白銀くんが好きな子達にも嫌がらせされかねない」

「おっとこれは失礼」


 普通に床に置いてもらった上履きを履かせてもらった。

 教室につくと、みやちゃんが真っ先に私の机周辺をチェック。


「異常ありません、お嬢!」

「今度はお嬢……統一しようよ」


 ビシッと敬礼して見せるみやちゃんだった。


「では、また放課後」

「あとは任せた雅!」

「まっかせなさい!」


 みやちゃんがあとは引き受けて、狼くんと白銀くんは自分の教室に行く。

 心配なんてしなくても、嫌がらせはなかった。

 私を見てひそひそと話す女子生徒に視線を感じたけれども、昨日の噂だろう。

 体育祭の練習は、見学した。当日の土曜日、走れるかな。

 放課後は狼くんと図書委員の仕事。

 狼くんがまた私を送るというので、みやちゃんと白銀くんは先に帰っていった。図書室の前に幻獣が居座っていたから、二人は苦労して通る姿を見送る。

 淡々とこなして下校時刻になって、二人で下校。

 鞄を持ってもらい、手を借りた状態。

 これでは交際している噂まで、立ちそうだ。

 やっぱりみやちゃん達に待ってもらうべきだったかな。


「打ち明けませんか?」

「ん?」


 夕陽を浴びて、さらに真っ赤に艶めく髪を持つ狼くんが口を開く。


「秘密。雅と和真に」

「……」

「体育祭が終わったあとにでも、打ち明けましょう」


 狼くんは穏やかな微笑みでそう言う。

 でも、私は……。


「狼くんが何を言っているか、わからない」


 ツンッと言い放った。

 狼くんが困ったように首を傾けた。


「心を開いても、いいのですよ」

「……」

「俺達は受け入れますから」

「……」

「怖いですか?」


 私は俯く。目を合わせられない。

 正直言って、怖いのだ。

 今まで越えなかった一線。

 踏み出す勇気は、なかった。

 私は狼くんから、手を離す。


「本当に……何を言っているか、わからない」


 そう嘯いた。


「小紅芽さん……」


 狼くんは足を止めて、私を見つめた。

 彼の目にどんな風に映っているのか、知りたくない。


「もうここまででいいよ。じゃあね、さようなら。狼くん」


 革鞄を奪うようにとって、先を進む。


「待ってますから」


 私の決心がつくまで、と言う意味だろうか。


「さようなら、また明日。小紅芽さん」


 私はもう見えていた家に飛び込むように帰った。

 なんだろう。胸騒ぎがした。

 前のように胸の中がぐちゃぐちゃになっているけれど、それ以上に落ち着かない。今朝の夢が何度も過ってしまった。

 もしかして、あれはまた予知夢ではないのか?

 そうだったら……みやちゃん達がピンチ?


「……」


 夢の中の三人は、ボロボロになっていた。巨人の妖に苦戦している様子。

 もしも巨人の妖が現れて、三人を襲ったら……?

 お風呂から上がって、寝間着に着替えていた私は、手を止めた。


「……ああもうっ!!」


 寝間着を脱ぎ捨てて、私は再びセーラー服を着る。

 ちょっと見に行く。それだけだ。夢が予知ではなかったら、すぐに帰る。


「忘れ物したので取りに行ってきます!」

「あらまたなの? 気を付けて」


 痛みを堪えて、駆けていく。

 すると、校門に忍くんがいた。


「来たか!」


 忍くんはオッドアイを見開いて、口角を上げる。


「今ちょうどお前を呼ぼうとしていた。面白いことになっているぞ」

「お、面白いこと?」


 校門を潜った瞬間、大きな気配を察知した。

 校庭からだ。

 私はすぐに校庭に向かう。そうすれば、夢に見た通りの巨人の妖を見付ける。一つの角と一つの大きな目玉の妖が、太い指の手を振り回していた。


「幻獣を、喰わせろー!!」


 狙いは、あの幻獣!?

 校庭がしっかりと見える位置にくると、みやちゃん達の姿も見付けた。

 夢に見た通りの光景だ。ボロボロの姿で、白銀くんは倒れていて狼くんは膝をついている。

 振られた手に飛ばされて、みやちゃんがテニスコートのフェンスに叩き付けられた。それを見て、もう考える間もなく飛び出す。


「え、小紅芽ちゃん!?」


 白銀くんと狼くんの前に立ち、私は両手の中に大きめのボールをイメージして霊力を固めた。光の玉が出来上がる。それを巨人の妖にぶつける気で思いっきり振りかぶって投げ付けた。


「うごぁ!」


 妖はひっくり返る。ドシンと、校庭が揺れるほどだ。


「こ、こんな霊力っ! 感じたことねぇ!! ひぃいい!!」


 すぐに起き上がった妖が、私を見るとたちまち怯えた様子で、ドシンドシンと駆け出した。校庭の隅に向かう。そこには井戸があって、立ち入らないようにフェンスで囲ってある。そんな場所に行き着くと、妖の姿は吸い込まれたように消えた。

 あそこか。魔界に繋がっているのは。

 なんて考えたのも一瞬のこと。


「大丈夫!?」


 振り返り、狼くんと白銀くんを見た。


「あ、ああ、大丈夫……」

「……フッ」


 白銀くんは戸惑い一杯の反応をしつつ、答える。

 狼くんの方は、安心したように微笑んだ。

 あとはみやちゃん。私はテニスコートのフェンスまで駆け寄って、みやちゃんの怪我を見る。目立った怪我はなさそう。

 みやちゃんは、ポカンと私を見上げた。


「大丈夫? みやちゃん」

「……大丈夫だけど……小紅芽ちゃん」

「何?」

「その霊力……」


 霊力と言われて、あ……となる。

 私は今、霊力ただ漏れ状態だ。

 深呼吸をして霊力を抑え込む。

 それでもみやちゃんは、あんぐりとした表情だった。


「……こ、小紅芽ちゃん」

「な、何?」

「視えてるの?」

「……っ」


 視えているのか。

 妖が、視えているのか。

 正体を、視えているのか。

 みやちゃんに問われて、私は言葉に詰まった。

 けれども私はそれに答える。


「初めから視えてた。ごめん……」


 ずっと視えていて、視えていないふりしていた。

 ずっと騙していたのだ。

 ソウルメイトだって言ってもらえたのに、隠していた。


「私……小さい頃から、視えてて……だから霊力抑えて、妖に見付からないようにしてた……」


 言い訳のようにそう伝える。

 ちょっと泣きそうになった。

 生まれて初めて、口にしたからだ。

 初めて打ち明けた秘密。

 少しの痛みを伴って、口から出すことが出来た。


「ごめんね。私、言えなくて、ごめんね」

「な、なんで謝るの?」


 涙までもが、溢れてきてしまう。


「いい妖だってわかってたけど、今まで言えなくて……ごめんね、ごめんっ」

「そんな謝ることないよ! あたし、嬉しい!!」


 ガシッと手を掴まれた。

 ぱぁあっと目を輝かせているみやちゃんは、堪えきれなかったように私を抱き締める。


「これでお互い秘密なし!? 親友だ! あたしと小紅芽ちゃんは親友だ!!」

「っ……」


 親友。その言葉に胸が締め付けられた。

 一線を、踏み越えたのだ。

 秘密を打ち明けられた。

 みやちゃんは、大喜びしてくれる。

 じんわりと温かくて、胸の奥がムズムズした。

 私もみやちゃんを抱き締め返して、涙を溢す。

 背中をさすってくれたかと思えば、狼くんだった。

 彼は優しい翡翠の眼差しで、私達を見守るように見下ろす。


「ごめんね、狼くん」


 今までのこと。今日の態度のこと。


「謝らなくてもいいですよ。小紅芽さん」


 狼くんの声は、いつものように優しかった。



 

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