表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/29

14 発覚。




 翌朝、登校しようとすれば、忍くんが待ち構えている。

 すっかり馴染みになったものだ。

 そのまま一緒に学校に向かうと。


「小紅芽ちゃん、見っけー」

「白銀くん。おはよう」


 後ろから声をかけられたかと思えば、ひょいっと追い越して目の前に白銀くんが現れた。ちょっとギクリとしてしまう。暫く秘密にしてくれるとは言っていたけれど、狼くんが視えていることを話したんじゃないかと身構える。

 でもゆらゆらと尻尾を揺らす白銀くんは、人懐っこい笑みを浮かべて私と肩を並べるだけ。前のように私が視えているかどうか、調べるためのもふもふ攻撃はしてこない。


「小紅芽ちゃん、なんで眼鏡にしてんの? 可愛いのに、丸眼鏡が邪魔してるよ?」

「……そう?」


 話題は私の眼鏡の話。眼鏡に度が入っていないことも、狼くんは話していないようだ。


「ギャップ萌えでキュンとする。もしかしてそれ狙ってる?」

「そんなまさか」

「あはは。でも可愛いよ、本当」

「狼くんにも言ったけれど、あまりそういうこと女の子に言わない方がいいよ? 勘違いさせちゃうよ、白銀くんはモテるんだから」

「えーでも可愛い子には可愛いって、ありのままのこと言いたいじゃん。言うと可愛くなるって聞くし」


 白銀くんの束ねてある長い髪が、そよ風で靡いた。

 銀に艶めく綺麗な髪だ。

 モテるという自覚はあるのね。

 確かに可愛いと言われると可愛くなる生き物らしい。女の子とは。


「真逆ね、狼くんと白銀くんは」

「狼は小紅芽ちゃんのこと、可愛いって認識してるよ?」

「そうじゃなくて……狼くんは女子に冷たくしてるって言ってた」

「ああ、冷たい冷たい。氷みたいに冷たいぜ、アイツ」


 おかしなことのように、白銀くんは笑った。

 そんなに冷たい対応をしているのだろうか。

 その割には、人気っぷりはすごいけれども。


「アイツ、バレンタインも受け取ろうとしないもん。可哀想だよな、アタックする子は皆玉砕。たまに雅にも怒られる、もう少し優しくしなって。でも狼もああ見えて頑固だからなぁ」

「へー……」


 みやちゃんと狼くんのやり取りが目に浮かぶ。


「中学じゃ、狼にコクる子は勇者って呼ばれるくらい高嶺の花だったんだぜ。それが小紅芽ちゃんには優しいんだよなぁー……」


 優しいか。

 狼くんの私に対する接し方はおかしいと思う。

 尻尾を膝の上に乗せてきたり、変身を見せて頬に触れてきたり、頬擦りをしてきたり。


「俺も小紅芽ちゃんが好きだぜ」


 校門を潜ると、白銀くんが言った。


「それはありがとう」

「ちょっとは動揺しようぜ?」

「友だちと好きって言われて動揺するほど、自惚れたりしないわ」

「あはは!」


 いきなり恋愛的な意味の好きだという告白ではないだろう。

 私が冷静に返せば、白銀くんは声に出して笑った。


「でも小紅芽ちゃんと話すと楽しいし、かなり好きだぜ? まじでさ」

「それはありがとう」

「あれ? 私も白銀くんが好き! とは言ってくれないの?」

「……」


 私は沈黙して、昇降口で上履きを替える。

 こういうところなのだろう。

 相手に必要以上に近付こうとしない。


「ちょっと、沈黙しないで。傷付く」

「いたっ、あ!」

「え、どうした?」


 上履きを履いた瞬間に、痛みが走ってよろけた。

 すぐに上履きを脱いで、足を上げて見てみれば画鋲が突き刺さっている。

 しまった、確認を怠った。すぐに引き抜く。


「画鋲じゃん! 保健室行こう!」

「う、うん。わっ!?」


 浮遊感を味わったかと思えば、白銀くんに抱え上げられた。


「おー軽い軽い。小さいからかな? よっと、このまま保健室にちょっこー!」

「下ろして! 火に油っ」

「え? 火に油って何?」


 うっ。

 私の革鞄も持った白銀くんにお姫様抱っこされて、保健室に運ばれてしまう。白銀くんにこんなことされたなんて噂が広がったら、私への嫌がらせがエスカレートしてしまうかもしれない。

 キョトンとした白銀くんはそれでも私を下ろさずに、保健室に向かった。


「えぇ? また画鋲?」


 美雪ちゃんこと村田先生は、棒付き飴をくわえたまま怪訝な顔をする。


「え? またなの?」


 ベッドに下ろしてくれた白銀くんが、私の顔を見た。


「……安倍さん」


 重たい口を開く村田先生。でも私も口を開く。


「私、最近ついてないんです。変なところで転びっぱなしだし、画鋲が二回も刺さるわで、お祓いでもしてもらうべきですかねー」


 そうおちゃらけて言うのだけれども、空気は変わらない。


「正直に言いなさい、安倍さん。誰かにいじめられているの?」


 村田先生は、真っ直ぐに私を見据えて問う。

 心なしか保健室が寒くなったように感じて、ぶるぶると震えた。


「……違う、と思います」


 いじめというか、なんというか。

 私がそう答えると、白銀くんの手が肩に置かれた。


「俺と狼のせいで嫌がらせでもされてるわけ?」


 いつも浮かべている明るい笑みなんてなくて、白銀くんも険しい表情で問い詰めてくる。琥珀の瞳は、真剣だ。


「……」

「……なるほどね」


 私が黙り込むと、肯定と取った村田先生は頷く。


「その生徒の名前は?」

「……名前は知りません。ああ、みさこっていう生徒で、昨日鼻血を出して保健室に来たと思いますが」

「A組の金子さん?」

「彼女達に突き飛ばされたりしましたが、画鋲の犯人かはわかりません」


 金子っていうのか。知らないけれども。

 村田先生が驚いたように目を丸くする。

 そして、私に棒付き飴を持たせた。


「とにかく、生徒指導の神宮先生に伝えて、その生徒に事実確認してから処罰するわ。また何かされたら言いなさい、私でも雅でも和真でも狼でもいいから」


 私達のことは苗字呼びなのに、みやちゃん達は下の名前呼び。ちょっと気になった。神宮先生もそうだったな、確か。


「聞いているの? 安倍さん」

「あ、はい」

「じゃあまたお姫様抱っこで……痛い! 美雪ちゃん!」


 私をまたもや抱えようとした白銀くんの獣耳を、村田先生は一瞬摘んだ。

 やっぱり村田先生も、人ではないのか。


「火に油を注いでどうするの」

「でもこれじゃあ教室まで登れないじゃん」

「いや大丈夫」

「雅を呼べばいいでしょう?」

「大丈夫ですって」


 私の意見は無視だった。

 白銀くんの携帯電話で、みやちゃんを呼び出す。みやちゃんは真っ先に駆け付けた。


「嫌がらせってどういうこと!? 怪我大丈夫!? 大丈夫じゃないよね!?」


 すごい剣幕で詰め寄ってきたものだから、私は引く。

 まさに鬼のような形相だ。小鬼だけに。

 可愛い顔が台無しである。


「狼のクラスメイトの女子に嫌がらせされてるんだって」

「シメる!!」

「こらこら、事態を悪化させるような真似をしないの」


 鼻息を荒くしているみやちゃんを止めてくれたのは、村田先生だった。

 あとから神宮先生が来る。神宮先生に村田先生は事情を話した。

 それを聞き終わる前に、みやちゃんの手を借りて、教室に行く。

 追ってきた神宮先生が、私の机の前でしゃがんで話をした。


「とりあえず、生徒指導室に呼び出して事実確認をするから昼休み来てくれ。な?」

「はい。神宮先生」

「うし。怪我、平気か? 無理するなよ」

「はい」


 大きな掌で頭を撫でられる。

 うう、ちょっとドキドキした。


「……ごめんね」


 ずっと横に立っていたみやちゃんが、謝罪を口にしたものだから、私は首を傾げる。


「気付いてあげられなくてごめんね」

「っ……」


 なんで、みやちゃんがそんなことで謝らなければいけないのだ。

 話さなかったのは、私。気付かれないようにしたのも、私だ。

 みやちゃんは何一つ悪くないのに、謝ることないのに。

 私が頼らなかったから、みやちゃんに悲しげな表情をさせてしまう。

 私が頼らなかったから。頼らなかったから。

 謝りたいのは、私の方だった。

 HRが始まったから、みやちゃんは自分の席につく。

 嫌な気分で一杯だ。胸の中がぐちゃぐちゃな感じ。

 移動教室の時は、みやちゃんが荷物を持ってくれた上に、肩を貸してくれた。

 毛利さん達は、画鋲を踏んだことを知って笑う。


「えー?」

「画鋲踏むなんて災難だね」

「クスクス」


 大方嫌がらせだとわかっている反応だ。


「クスクス、じゃねーよ」


 そこに響いたのは、間違いなくみやちゃんの声だった。

 いつもの可愛らしい声ではなく、男の子っぽい怒った声。


「笑い事じゃねーんだよ」

「……っ」

「ご、ごめん」


 みやちゃんの怒った様子に、青ざめて毛利さん達は逃げるように先に行ってしまう。


「全く。ねー? 小紅芽ちゃん」


 ため息をつくと、コロッと変わってみやちゃんは私をしっかり支えた。

 そんなみやちゃんに謝ろうかどうか迷っているうちに、教室につく。

 結局、私から謝れずじまいだった。

 そして、昼休みがくる。

 みやちゃんに送られて私が生徒指導室に入れば、もうすでに金子さん達は来ていて、私を恨めしそうに睨んできた。

 私はスンッとした態度で、用意された椅子に腰を下ろす。


「直球に問うぞ。安倍の上履きに画鋲を入れたのは、お前達か?」


 腕を組んで見下ろす神宮先生の問いかけに、三人は口を開こうとしない。

 それが肯定になっている。


「わかっているのか? 安倍は怪我をした。十分大ごとなんだぞ。なんでこんなことをした?」


 咎める鋭い声で、神宮先生は理由を問う。

 ギッと金子さんとやらが、私を睨み付ける。


「当然の報いよ! だって大神くんに近付いたのは彼女なんだから! 罰を受けて当然なのよ!」


 なんで狼くんに近付いただけで、報いを受けなくてはいけないんだ。

 私が呆れた視線を向けると。


「何よ、その目は! アンタなんて小栗くんと親しくなければ、大神くんと話せもしなかったはずじゃない! 地味で何の取り柄もないくせに!」


 金子さんは金切り声を上げる。

 余計なお世話よ。

 なんて思っていれば、ガラッとドアが開いた。

 そこに立っていたのは、狼くん。しかも優しい微笑みはなく、しかめた表情でいた。



 



次回、断罪!


20180302

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ