小雨そぼ降る夜の覚書
〇月✖日
自室の布団の上に寝転がって,SNSを確認する。
ベランダに面した掃き出し窓からは,近くの県道を通る車の音が聞こえる。
濡れた路面を走るからか,音が潤みを帯びている。
雨は降っているんだか降っていないんだか分からない。音がしない雨だ。
どのページを見ても彼女の足跡がないことに,ひとまずホッとする。
と,同時に,ここまで跡を追おうとする自分の執着に,おののく。
彼女がなんら行動をとっていないことの,なんの証明にもならないという思いが不意に沸き起こり,たまらなく不安になる。布団が,じっとりと湿って感じられる。
彼女が何か行動をとっていたところでぼくのすることは変わらないと,半ば自棄にもなる。布団からはずれ、フローリングに転がって室内灯を見る。ひんやりして気持ちいいが,じきに内省の気持ちがわいてくる。
SNSパトロールの途中で目にした知人の投稿が思い出されてきて,むかむかと腹が立ってくる。
「閉店間際のスーパーの総菜売り場でウロウロしている男女」云々。
ぼくだ、と思う。余計なお世話である。いったい何のための投稿なのだと,とがめたくなる。
堂々巡りさえしない思考の羅列を整理しようと,筆を執る。
夜は更け,県道を走るタイヤの音も聞こえなくなった。思えば今日は平日だ。
蒸し暑さを感じ扇風機をつけると,静かな夜にモーターの駆動音だけが通奏低音のように響く。
部屋のエアコンは10年以上前のもので,リモコンが壊れてしまってからつけていない。つければきっと、嫌なにおいがする。ここ数年は扇風機だけで暑さを凌いでいる。
モーターの音は,聞き慣れたものだ。
文字におこしてわざわざ気を逸らしていたのに,気付くと巡回を再開している。
自分の行動を理解した途端,布団に嫌な湿気がのるように感じられる。そういえばいつの間にかまた布団に戻っていた。
相変わらず彼女の痕跡はない。もう寝たのかもしれない。誰かの腕の中で。あるいは誰かの寝物語を聴きながら。
平日だが。完全に否定はできない。それもまた証明する方法はない。音のない夜に想像だけが飛躍する。頭の中がうるさくなってきた。
ここに至って,ようやく思考がどうどう巡りをしている。時を同じくして,隣家の住人が帰宅する音が響く。駐車場に敷かれた石が,車のタイヤにぎしぎしと踏みしめられている。音は湿気をはらんでいない。
現実、に帰ってきた。そぼ降る雨は,今はもうない。
書いたものを一通り確認し,筆をおく。
今日はここまで。




