95 野球 VS ベースボール その3
「新しく入ってきたニャントロさんも只者ではなさそうだが、わが身を犠牲にしてまでアウトを取った烈光仮面さんも只者ではないね。
あれこそが『武士の精神』ではないだろうか?!!」
日本チームの選手交代の様子を見ていたマリーザがつぶやき、多くのメンバーがそれに賛同する。
「さすがは日本チーム!あの精神を我々も見習わなければ!」
(ニャントロ氏は明らかな『変人(神)』だし、烈光仮面氏も単にボールをよけ損ねたようにしか見えないのだが…。)
非常に盛り上がってやる気を見せる自分たちのチームを見ながらケツアルコアトルは頭を抱えていた。
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その後私とマリーザのホームランで一点ずつを入れた後、ジェラルドが打席に入ります。
剣の達人であるジェラルドが私の魔球を見事に芯で捉えて、サード方向に強烈なライナーを放ちます。
その打球をサードの充さんがレフト近くまで吹っ飛びながら何とか…ああ!!落ちちゃったよ!!
と思ったのですが、レフトの伊集院君が何とかノーバウンドキャッチしてアウトにしてくれました。
二人ともナイス!!
……というか、充さんがピクリとも動きません。
望海ちゃんが駆けつけて回復魔法をかけてくれますが…そのままタンカで運び出されてしまいました。
私がちらりと橋本君を見やると…橋本君はベンチの下に隠れてしまいました。
善意でメンバー入りしてくれた橋本君にあまり無理をさせるわけにもいきません。
ここはやはり、熱血元プロテニスプレイヤーのお兄さんを騙し…もとい、説得して入ってもらうしかないかもしれません。
私が観客席に向かおうとすると、ライトスタンドからなぜか日本チームのユニフォームを着た女性がグラウンド内に飛びおりました。
それも、二人の赤ん坊を背負っておられるのですが?!!
…よく見たら土御門美夜さんです!!
地球防衛軍副隊長で、モンスターバスター一二星の一人にして世界最強の陰陽師です。
運動神経自体は常人離れしてますが、マリーザクラスと比べるとさすがに落ちるのではあります。
とは言え、歴戦の猛者で、校長や充さんよりはずっと頼りになるのは助かります。
「仕事が終わったから観戦に来たのだけれと、メンバー集めに苦労してるのね。
協力させてもらうわ!」
みんなの顔なじみの清楚系の長髪美女が参加されるので、グラウンド内には安ど感が漂います。
美夜さんはグローブを受け取ると、二人の赤ちゃんを背負ったままサードの守備に入っていきます…ちょっと待ってください!!
「大丈夫。これから身体強化の『式神』を召喚するから。その時に双子ちゃんたちの霊力も借りるから背負ったままなの。」
美夜さんは涼しい顔でを背負うための布を上手に使って『かわいい男女の赤ちゃんたち』を背中に結わえています。
「超戦士降臨!!」
美夜さんが叫ぶと、凄まじい存在感の霊体が美夜さんに憑依します。
見た目は変わりませんが、雰囲気が通常の美夜さんと全然違い、私がまともに殴りあっても『力押しで負けそう』なくらい戦闘オーラがすごいです。
元々一〇八種の式神を自在に操れる美夜さんの霊力は凄まじく、全モンスターバスター中最高の攻撃力を持つと言われてましたが、妊娠五カ月くらいから体内の赤ちゃんの霊力も借りるようになって、さらに二倍くらいアップしました。
そんな美夜さんが赤ちゃんたちを背負いながらの守備練習の動きを見ていると…ほとんどアメリカチームのメンツに引けを取らない動きをしています。
こんなすごい『子連れ狼』を見るのは初めてです!!
次のバッターはカイザスさんでしたが、サードへの強烈な打球はサードゴロに終わってしまいました。
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「美夜さんのことは知っていたが、まさかベースボールまであそこまで素晴らしいプレイができるとは?!!」
美夜の華麗なプレイを見て、マリーザが感動しており、他のチームメートも次々と称賛の言葉を発している。
「ミツルさんの『命がけのプレイ』を見せてもらった後、ピンチに陥った日本チームに強力な助っ人、それも子供たちを背負ったままのスーパーウーマンが活躍するとはなんてクールな展開なんだ!!
まさか、『スーパーヒーローの祭典』ということを踏まえて狙ってやったのでは?!!」
「…あの瀬利亜嬢なら確かにありうる!!さすがにスーパーヒーローのスピリッツの体現者だけのことはある!!」
マリーザの言葉を受けて、ジェラルドがさらに盛り上がっている。
「我々も彼らを見習って、さらにヒーローの精神を発揮して試合をしようではないか!!」
「「「「おーーー!!!」」」
思い切り盛り上がるベンチを見ながらケツアルコアトルはまたもや困惑していた。
充は烈光仮面同様『単に打球をよけそこなっただけ』であり、また、美夜の登場は単に用事が終わって観戦に来たら、欠員が出そうになったので『成り行きで参加しただけ』と真相を見ぬいていたからだ。
とはいえ、先ほどのニャントロへの選手交代の時同様、『真実を明かさない方が試合が盛り上がる』のは明白だったので、ケツアルコアトルは沈黙を貫くことにした。
「それにしても『女性の真の社会進出』をする上で、『赤ちゃん・子供を職場になじませる』という最新技法まで提示するとは日本チームはさすが過ぎる!!
その点も我々も見習わなければ!!」
自らの弟子でもあるマリーザが明らかに勘違いして盛り上がっているのを見て、ケツアルコアトルは深いため息をついた。
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そして再び先ほど『烈光仮面を倒した』憎っくき超人マルクを打席に向かえます。
…よく考えたら体育教師の兜鋼児先生が校長をふっとばした結果になるのですよね…。
もしかしたら新たな校内暴力とも言えるかもしれません。
今度伊集院君を吹っ飛ばしたりしたら『行き過ぎた体罰』として問題になるかもしれないです。
もちろん、クラスメイトとしてそんなことを許すわけにはいきません。
試合中に自らの実力不足を実感し、こっそり練習していた成果をいまこそ実践すべき時です!
私は右手を思い切り振りかぶると、マルクに向かって直球を投げ込みます。
スピードだけで言えば、時速二〇〇キロ位です。
マルクは狙い澄ましたようにボールを死んで捉え……球はバットを削り取って、そのままちーちゃんのミットに静かに収まります。
「馬鹿な?!!一体今何が起こったのだ?!!!」
ボールに削り取られて短くなってしまったバットの柄を手にしてマルクが叫んでいる。
審判さんはしばし戸惑った後、『ファールチップ扱い』でストライクの判定をします。
「これぞ『魔球・シードラゴンボール』なのだわ!!」
私はマルクに向かって叫ぶ。
そう、スピードはいわゆる速球と比べるとかなり落ちます。
しかし、大怪獣ゴメラを一撃で吹き飛ばす、私の必殺技『シードラゴンソニックウィイブ』並みの闘気をボールに注ぎ込んで投げる私の必殺級です。
当たったら、『戦艦大和』すら撃沈するくらいの威力がありますから、当然バットなんぞ簡単に削り取ってしまいます。
もちろん、ちーちゃんには予め伝えておいて、手に闘気を纏ってもらって捕球してもらってます。
この魔球を捕球できるのは今のところちーちゃんだけですが、練習すればマリーザや『式神降臨』状態の美夜さん、巧さんも何とかなりそうです。
おっとっと?!ケツアルコアトルさんがタイムをしてピッチャーマウンドに向かってきました。
明らかに顔が焦っておられるので、『シードラゴンボールの破壊力』に気付かれたのでしょう。
「瀬利亜嬢!!なんつうボールを投げてんの?!!万が一外したら間違いなく『大惨事』になるよね?!!」
「ふっふっふ、ご安心ください。ちーちゃんの能力なら一〇〇%捕球できます。
それに万が一トラブルになりそうな場合は私が『シードラゴンかかと落し』で地中に埋め込みますから大丈夫です。」
私の説明を聞いて、ケツアルコアトルさんは呆れるような表情でため息をつく。
「…わかった。万が一が起きないように私も気をつけるよ。」
なんとか納得してくれたケツアルコアトルさんがベンチに引き揚げていきます。
そして、私はシードラゴンボール三球でマルクを三振に打ち取ったのであります。
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「魔球シードラゴンボールだって?!!そうか!!瀬利亜さんは私にも『闘気を込めた魔球』を習得しろと『先例を見せて下さっている』わけだね!!」
瀬利亜がマルクを打ち取ったのを見ていたマリーザが目をキラキラ輝かせる。
「ケツアルコアトル!我々もやりましょう!!」
孫たちと変わらない年齢の愛弟子の提案を当然ケツアルコアトルが拒むことなどできなかった。
次の次の回の八回表にはマリーザは『魔球・ライトニングボール』を完成させ、試合はさらに盛り上がった。
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マリーザがライトニングボールを完成させてからは今まで以上に投手戦の傾向が強くなりました。
決め球としてのシードラゴンボールとライトニングボールはたとえちーちゃんと言えど打つのが難しいのです。
とはいえ、大量の闘気をつぎ込んで負担の大きいシードラゴンボールを前球投げるというのはさすがに体力を消耗しすぎてできない……わけでは全然ないのですが、はたから見ていて『カッコよくない』ので、さまざまな超絶変化球やものすごく速いストレートを織り交ぜながら投げていきます。
スーパーヒーローやヒロインには美意識が非常に求められるのです。
スーパーヒーローの本場アメリカのヒーローたちはその辺はさすがです。
ちなみに我が日本チームのベンチは……すっごくほのぼのしています。
特にちーちゃん、のぞみちゃん、トラミちゃんと光ちゃんが仲良く談笑しています。
美夜さんは…双子に授乳しているよ?!!
試合中に自分の赤ちゃんにお乳をあげている選手は世界初ではないでしょうか?
「そういや、女性は妊娠すると乳腺が発達しておっぱいが大きくなるんやったね。
これでアルテアはんが妊娠されたらどこまで『巨大化』するか見当も…。」
セクハラ発言をする光ちゃん監督をとりあえずハリセンでKOしておきました。
試合は延長一二回に私の『シードラゴン打法』でホームランを打ったのが決勝点になり、三対二で日本チームが辛くも逃げ切りました。
なお、ホームランの打球がいろいろ破壊しそうだったので、マリーザが空間高速移動能力を駆使してボールを完全粉砕してくれて事なきを得ました。
この件でシードラゴンボールとライトニングボールは試合では封印されることになったのはちょっと残念です。




