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89 良太と幼馴染 その5

 「イブキとキシマが使い物にならなくなった?!」

 太り過ぎてどんどん見た目からして威厳の無くなりつつあるデービル国王が宮廷魔術師からの報告にうろたえた。

 「ええ、朝になって『何かの恐怖症に憑りつかれたような状態』になってぶるぶる震えています。 明日の会見の際にまともに戦えるかどうか…。」

 宮廷魔術師は完全に困り果ててしまっている。


 「困りましたわね。新しく来た連中もこちらを半信半疑のような状態の上、同じく半信半疑のケンイチとシンゴといろいろ話をしているようなので、『実態がばれた』ら、明日の会見の時にどう動くか想像がつきませんね。」

 見た目は金髪美女のイザベル王女も難しい顔をしている。


 「いざとなったら騙してはめさせた『隷属の首輪』を使って何としても言うことをきかせるしかあるまい。少なくとも戦闘力はイブキとキシマを大きく上回っているんだ。

 戦闘に勝ってしまえば、隷属の首輪を盾に言うことを聞かせ続けさせるのもたやすくなろう。」

 デービル国王が何とか結論を出し、他の二人もうなずく。



~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~



 「というようなことを言って、今頃安心している頃だと思うのです。」

 望海ちゃんが国王、宮廷魔術師、王女の声帯模写などをしながら解説する。


 「連中は私たち六人が『隷属の首輪』を付けているからと安心しているはずです。

 だからこそ、私の魔法で『命令に反抗しようとすると痛めつけたり、最悪の場合致死魔法をかける機能』を無効化していることを気づかれない方がいいのです。」

 「本当に無効化できているのかい?」

 望海ちゃんの説明に賢一がおっかなビックリといった感じで聞く。


 「ええ、この程度の魔法道具なら簡単に無効化できます。ただし、無効化したことを気づかれないようにするために、それ以外の効果は残しています。

 ですから、首輪を外すのは私か、異世界から迎えに来られたアルテアさんに任せてください。

 間違ってもニャントロさん以外はご自身で外そうとされないでください。」

 望海ちゃんが真剣な顔で僕たちに伝え、僕たちはそれに素直にうなずいた。


 「しかし、何かありそうだとは思っていたけど、まさかそこまで腹黒だとはね…。」

 真悟が大きくため息をついている。


 「あなたたちの鑑定だと個人の善良度までわかるのですね。」

 賢一が望海ちゃんを見ながら言う。


 僕の鑑定で国王、王女、宮廷魔術師の善良度を見たところ、一〇段階で鑑定して、それぞれ二、二、三(普通の人が五)と、全員悪人になるというとんでもない結果でした。


 ちなみに真悟、賢一がそれぞれ八、僕が一〇、望海ちゃんが一三、瀬利亜さんが一六、ニャントロさんが測定不能でした。


 ニャントロさんは置いておいて、望海ちゃんや瀬利亜さんは『規格外のお人よし』なのですね。

 だからこそ、スーパーヒロインなんぞやっているんでしょうが…。

 なお、今まで鑑定した中で一番のお人よしはアルテアさんで一八でした。

 そういうわけでアルテアさんには『女神疑惑』みたいなものが発生しています。


 「こういう連中が『明日は魔王とその同盟軍がこの城に乗り込んできて、連中に条件のいい条約を無理やり結ぼうとしているから、何とか阻止してほしい』と言われてもその信憑性が怪しいのよね…。

 可能な限り情報を集めて、明日の会談の実態を突き止めたいわよね。」

 瀬利亜さんが僕たちにゆっくりと語りかけている。

 瀬利亜さんの言うように『鑑定能力や自分たちの目』を使って事実を確かめたいですね。




 翌日、いよいよ魔王とその同盟国の仲間が城に乗り込んできました。

 瀬利亜さんと望海ちゃんは、会談中に奇襲できる場所に待機するよういという作戦になりました。

 僕は会談に乗り込んでくる相手を鑑定して、こっそりみんなに伝えることにします。


 護衛の人数は思ったより少数で魔王と同盟軍が謁見の間に入ってきました。

 魔王は肌の黒い、小柄な女性です。

 ですが、LVが二〇〇を超え、前後にゴーレムの護衛を連れています。

 女性を模したスリムなゴーレムのレベルは三〇〇を超える、ものすごい強者です。

 同盟国軍は…王様直々に来ているようです。

 聖騎士でレベルが一〇〇をちょっと超えたくらいです。

 ここの国のへっぽこ国王とは『容貌も含めて』レベルが違います。

 ものすごいイケメンです。


 数人の外交官や護衛らしき人達もすごく落ち着いています。


 ああああ!!!いきなり、瀬利亜さんが飛び出してきて、叫びました。

 「ミーシャ陛下!ラシャール陛下!大変です!!この国が講和を結ぶと見せかけて、お二人を亡き者にしようと暗躍していたのです!!」

 瀬利亜さん!!!!一体何を言っているんですか!!!!


 魔王と国王は瀬利亜さんを信じられないものを見るような目で見ています。

 「瀬利亜!どうしてここにいるの?!!それからその話、冗談じゃないよね?!!」

 えええええええ!!!!!これは一体どういう状況?!


 「ミーシャ陛下!ラシャール陛下!私が今までに公式の場で一度でも嘘を言ったことがありますか!!私たちの調査の結果、こちらのデービル国王とイザベル王女は異世界から勇者を召喚し、彼にあなたたちの暗殺をさせようと目論んでいたことが判明したのです!!」

 「わかった!ありがとう!!皆のもの、この場を制圧するぞ!!」

 魔王の指示に従い、ゴーレムや護衛たちが素早く動き出す。


 あっという間に王国の騎士団や魔術師団は魔王側に圧倒されていく。

 特に一人のタキシード姿の男性の動きは凄まじく速く、十人単位で王国騎士たちを昏倒させていく。


 「あれ、良太がいる?!お久しぶり!!」

 えええええ?!!!アリス姫の友達の『ロリ女神ちゃん』がどうしてこんなところにいるの?!


 ロリ女神ちゃんは背中の羽根でを使って僕の元に飛んでくると、僕の背中にしがみついてくる。

 「良太!!その天使みたいな女の子はなんなの?!!」

 真悟と賢一も僕同様、あまりの状況についていけてないようだ。


 「女神ちゃん!その男性が良太君なのですか?!!」

 「うん、ラーくん♪この人が良太君だよ♪」

 ラシャール陛下と言われた男性が、なぜか僕のことを女神ちゃんに確認しているのですが…。


 「なるほど…それでは後顧の憂いを断つために…ここは良太君には『亡き者』になっていただきましょうか!!」

 ラシャール陛下は抜刀すると僕に向かって切りつけてきたのですが?!!!!


 「ラシャール陛下!!!落ち着いて下さい!!!」

 望海ちゃんが現れて、ラシャールさんの剣を真剣白刃取りで受け止めている。


 「望海さん、そうはいきません!アリスに手を出す危険人物はここで始末しておく必要があります!!」

 「ラシャール陛下!!それは誤解です!!良太さんは確かにアリス姫に告白しましたが、『いいお友達でいましょう♪』と完全に振られて玉砕しました。

 良太さんはすごくいい人ですから、アリス姫さえその気なら応援しようかと瀬利亜さんたちとお話したのですが、アリス姫に全く脈がなく、『赤い糸の透視』をしても可能性がかけらもないことが判明したので、応援を取りやめましたから。

 良太さんとあなたの大切な妹君のアリス姫がくっつかれる可能性は皆無です。ご安心ください!!」

 「そうか、それは申し訳ないことをした。すまない!良太君!!」

 僕の心がえぐられそうなやり取りを二人がされているのですが…。


 「そうか、良太はアリスに振られちゃったんだね。でも、良太はやさしくてそれなりに男前だから、チャンスはいくらでもあるよ!良太ファイト!!」

 女神ちゃん、気持ちは嬉しいけど、さらに心をえぐるのはやめてくれるとありがたいです。



 「なぜだ!!どうして隷属の首輪の効果が作動しないのだ?!!」

 追い詰められてデービル国王が叫んでいる。


 「ふ、こんなおもちゃが私たちに効くと思っているのが間違いだわ!」

 瀬利亜さんはご自身が付けておられた首輪を引きちぎって、その場に投げ捨てて平然としている。


 「瀬利亜さん!!首輪を無理やり外さないよう注意したじゃないですか?!!なんともないですか?!」

 「ちょっとだけびりっとしたけど、全然大丈夫だから。」

 「それ、解除対策の『即死魔法が発動』したんですが…。まあ、他の人はともかく、瀬利亜さんは大丈夫だとは思ってましたが、念のためにお伝えしておいたのですよね…。」

 「え?!即死魔法?!!言われてみれば、なんだか効いてきたような気が…。」

 「瀬利亜さん、魔法の発動は終わって、それ以上の効果はありませんから。

 そういう『女の子アピール』は個人的にはすごく萌えますが、とりあえず落ち着きましょう。」

 望海ちゃんの言葉に瀬利亜さんが落ち着き、デービル国王たちはさらにパニックになる。


 「くそう!!こうなったら『召喚した奴ら』の即死魔法を強制的に起動させてやる!!

 そうだ!召喚した奴らの命が惜しければ…。」

 「ええええええ?!!!これを付けていたら危ないんですか?!!!」

 デービル国王の言葉に叫んだニャントロさんを見て、その場にいた全員が固まってしまう。


 なんで、ニャントロさんの首がきりんのように長く伸びて、何十個もの首輪をはめているのですか?!!!

 「く、『受け狙い』でみんなの首輪を私に付けてしまったのが、まさかこんな『悲劇的な結果』を招くとは?!!」

 「…そ、そうだ!!お前たちの仲間に隷属の首輪が付いているんだ!!お前の仲間の首がふっとんでもいいのか?!!!」

 ニャントロさんの姿を見て、震えながらデービル国王が瀬利亜さんに叫ぶ。


 「…ええと、やってみたら?本人さんが好んで付けたので、『完全な自己責任』ですから。

 間違って死んでしまったら、ちゃんとお葬式をあげてあげるから。」

 瀬利亜さんがあっさりニャントロさんを見捨てました。

 というか、死なないと思っていそうな気がします。


 「畜生!!見ていろ!!爆破!!」

 デービル国王が叫ぶと、ニャントロさんの首に付いていた首輪が一斉に爆発する。

 そして、もげた首が僕に向かって飛んできたのですが?!!!


 反射的に受け取っちゃったよ?!!!ええと…意外と軽い…いやいや!そんなことを言っている場合では?!!!


 「良太さん、ニャイスキャッチです!!

 もう、瀬利亜さん!危ないところだったじゃないですか!!

良太さんがキャッチしてくれなかったら首がどこまで転がっていったからわかったものじゃなかったですよ…。」

 僕の持っていたニャントロさんの首がしゃべった後、体がひょこひょこと僕のほうに歩いて来て、僕から頭を受け取り、そのまま首にはめてしまった。


 「ニャントロホテップ、復活!!!」

 高笑いするニャントロホテップさんをしり目にデービル国王、イザベル王女はその場に崩れ落ち、

他の人たちも全員が一言も口を開けなかった。



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