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88 良太と幼馴染 その4

 「次は私が模擬戦をやってみましょうか♪どなたか相手をしてくださいますか?」

 ヤンキーな杵島が望海ちゃんによって回復されて、闘技スペースから運び出された後、ニャントロさんが闘技スペースに入っていった。


 望海ちゃんが望海ちゃんより強いと明言しているニャントロさんの登場に闘技場内は静まり返っています。

 扱う武器は銃器だったけれど、望海ちゃんの隙のない戦いぶりを見れば、望海ちゃんやそれより強い二人がどれくらいなのか想像がつきそうなものですよね。


 「どうですか、騎士団長さん。やってみませんか♪」

 軽いノリで話すニャントロさんの言葉に騎士団長さんはぶんぶんと首を振っています。

 僕もニャントロさんの実戦とかを見ていなくても『ヤバサ』を感じるくらいですから、僕以上の猛者である騎士団長さんにはなんとなくニャントロさんの『規格外さ』が感じられるのでしょう。


 「俺がいこう!」

 生徒会長の伊吹和也が前に進み出てくる。

 僕は生前はあまり接点がなかったけれど、真悟や賢一は『いけ好かない奴』とか言っていた。

 やたらエリート意識が強いとか言っていたよね。


 「ほお。あなたが私の対戦相手になって下さるのですね♪先ほどの『ヤンキー君』よりは楽しませてくれそうで、うれしいです。」

 ニャントロさんは本当に楽しそうに答えています。


 「こっちも『いい試合』が出来そうで、楽しみだよ。」

 伊吹はニコニコしながら闘技スペース中央に歩いてきてますが、その笑顔を見ていると、僕の背筋が寒くなってくる気がします。



◎ 伊吹和也 17歳 人間 男

レベル 60

HP 350 

MP 150 

(中略)

【魔法】格闘術(LV20)身体強化魔法(LV18) 剣術(LV15)暗黒魔法LV(15)他

【称号】 異世界召喚勇者 生徒会会長 



 おいおい!!レベルが真悟や賢一、杵島の倍以上あるうえに、能力が杵島の上位互換という感じじゃないか?!!

 まあ、それを言うなら、『ニャントロ拳法LV345』は規格外どころの話ではないですが…。


 「いやあ、『イケメン同士』の戦いは盛り上がりそうですね♪」

 ニャントロさんの爆弾発言に会場が凍りつく。

 いやいや、へんてこなお面を被っておいて、この人何を言っているの?!!


 「へえ、そのお面を外してあげればいいのかな?」

 「そうですね♪それじゃあ、私が勝ったら素顔を見せてあげることにしましょうか?」

 伊吹が殺気をニャントロさんにぶつけると、ニャントロさんは気付かないかのように涼しい顔?をしたままのようです。



 二人が向き合って、いよいよ模擬戦開始かという時に瀬利亜さんが前に出て宣言する。

 「ニャントロさん、選手交代してください!私が出ます。」

 「えええええ?!!なんでですか?!!」

 「…ニャントロさん…。ご自身の胸に手を当ててみられたら、『すぐにお分かり』ですよね。

 交代しますよ?」

 ええと…一見しただけではわかりませんが、淡々と語っているだけに見える瀬利亜さんの目が笑っていないような気がします。

 

 「わかりました!喜んで交代させていただきます!!!」

 ニャントロさんが素早く舞台から立ち去っていく。



 「え?どうして瀬利亜さんは自分と交代させたの?」

 僕も同じ疑問を持ったことを賢一が代弁して望海ちゃんに聞いてくれる。


 「おそらくですが、ニャントロさんが『見た目だけはイケメンの委員長さん』をぼこぼこにしようとされているのに気付かれたのでしょうね。

 あまりボコボコにしすぎると悪目立ちするうえに、召喚されたみんなの士気がおかしくなることを懸念されたのではないでしょうか?」

 いやいや?!!望海ちゃんは人のこと言えないよね?!!!

 ヤンキー杵島君を完膚なきまでにボコっているよね?!!!


 「あれ?みなさん、もしかして私が『好き放題やったのにそんなことを言うの?』という顔をされてますね?

 あれは思い切り『優しく手加減』してますよ。

 本気でやっていたらすぐにひき肉(ミンチ)になってますし、心を折るつもりだったら、あの一〇倍くらいやってますから。」

 望海ちゃんが淡々と怖いことを言っています。

 この人は間違っても敵に回してはいけないようです…。



 瀬利亜さんが伊吹と対峙すると同時に、僕たちのところにニャントロさんが戻ってくる。

 「いやあ、残念です。私の『企み』を瀬利亜さんに見抜かれてしまいましたよ、ハッハッハ♪」

 やはり、何かを企んでいたようです。


 「念のため、何を企んでいたか、教えていただけますか?」

 望海ちゃんがため息をつきながらニャントロさんに問いかける。


 「ちょっと気絶してもらった後、額に『肉』と書いたり、髭や楽しい模様を顔にマジックで書きまくったり、『女性プリマ』の扮装をして貰ったりしようと思ったのですが…。」

 「いやいや、そんなことをのんびりしていたらすぐに止められますよね?!!」

 「ちっちっち!こう見えても私は邪神ですよ?それくらいの芸当は三秒もあれば楽勝でできますから♪」

 それって邪神の能力の無駄遣いですよね?!!瀬利亜さんが止められてなかったらえらいことになってましたよね?!!!



 「よかったら、私が勝ったらデートしていただくというのはいかがでしょうか?」

 余裕たっぷりに伊吹が口を開く。

 「こう見えても既婚者なので、遠慮させていただきます。」

 涼しい顔で瀬利亜さんが返答されています。


 「帰還までずいぶんかかるようなのですが、それまで待てるのですか?」

 「こう見えても超常現象トラブル解決のプロですから、いろんな手はあるのですよ♪」

 ううむ、早速心理戦を行っているようですね。


 「勝てる自信がおありでしたら、デートの約束をしていただいても構わないのでは?」

 「私が勝った場合の『特典』がありそうにないので、遠慮しておきたいのですよ。」


 「瀬利亜さん!勝たれたら『私とデートできる』というのはいかがでしょうか?」

 「望海ちゃん、ちょっと待って!!!何そのインチキな特典は?!!

 『君が勝ったら僕とデート』、『僕が勝ったら君とデート』と言う勝負を持ちかけているのと同じことだよね?!」

 「では、光一さんとの勝負の時にそれを使われてはいかがでしょうか?」

 「勝負がそっちのけになるからパスするわ!それに光ちゃんがよろこんで『毎回使うようになる』のが目に見えているから、やりませんから!」

 確かに瀬利亜さんを溺愛しておられる光一さんなら間違いなくその手を使いだす未来しか見えませんよね…。 



 「へえ、よそ見をしている余裕があるのかな?それと、君は鎧とか武器は用意せずにその格闘着で構わないのかね?」

 「ええ、私はこれでも古武術の師範代ですから。下手なものを持ったり着たりする必要がないのですよ。」

 言いながら瀬利亜さんが自然体に構えておられます。


 「へえ。じゃあ、思い切りやらしてもらって構わないよね?!!」

 狂気をはらんだ目線で瀬利亜さんを睨みながら伊吹が黒いオーラと共に全身に鎧状のものを纏っていく。


 「…へえ。魔法でできた鎧をまとう『魔装化』とでも言うべきもののようですね。軽くて強力な鎧をまとって、おまけに怪力にもなったようです。」

 望海ちゃんが涼しい顔で解説をする。


 「そら!行くぞ!!」

 試合開始と同時に凄まじいスピードで伊吹は瀬利亜さん目指して突っこんでいく。

 そして、瀬利亜さんに届く寸前で、さらにスピードを増し、そのまま石の床を砕きながら、地面に突っこんでしまう。


 「余分な力が入りすぎているようね。もう少し肩の力を抜いて冷静に動かないと勝負にならないわよ。」

 床面にめり込んでいる伊吹から少し距離を取って、瀬利亜さんが語りかける


 「突っ込んできた会長に技を掛けて、さらに勢いをつけて地面に突っこませましたね。合気道の術に近い投げ技ですね。」

 望海ちゃんが解説をしてくれて、ようやく僕も状況を把握できる。


 「くそ!ふざけるな!!」

 よろよろと立ちあがった後、さらに伊吹が突っこんでいくが、再び瀬利亜さんの手で地面にめり込まされる。


 「動きが直線的でわかりやすいから、全然ダメです。そろそろ降参されることをお奨めするわ。」

 ふらふらしている伊吹に瀬利亜さんが淡々と告げる。


 「なるほど…ではこれでどうだ!!」

 伊吹が呪文を唱えると、自身のの全身が炎に包まれる。

 「はっはっはっは!!この炎は人食い鬼(オーガ)すら、あっという間に燃やし尽くす強烈な炎だ!これに触れることなどできまい!!」

 伊吹のやつ!模擬戦ではなく、相手を殺すつもりでいやがる!!


 そんな伊吹に瀬利亜さんは滑るように歩み寄ると、一本背負いで伊吹を地面にめり込ませた。

 その後、ちょっと距離を置いた瀬利亜さんは火傷どころか、着ている格闘着も全然焦げていないのですが?!!


 「…待て?!なんで俺を投げて何ともないんだ?!!!!」

 さらにふらふらしながら立ち上がった伊吹が悲鳴を上げる。


 「ふ、『心頭を滅却すれば火もまた涼し!』その程度の炎で『熱く燃え盛る正義の心』を打ち破ることなどできはしないわ!!」

 「言っていることがわかんねえよ?!!!」

 「なるほど、『辞世の句』はそれでいいわけね!!」

 「辞世の句…て…ちょっと待って?!!!」

 「シードラゴン・かかと落し!!!」


 瀬利亜さんの蹴りがさく裂し、さっきの二倍くらいの深さに伊吹がめり込んでぴくぴくしています。


 「ううむ…。充分手加減したつもりだったけど、ちょっと威力を間違えたかな…。

 望海ちゃん、回復魔法お願いね♪」

 瀬利亜さん!!てへペロしてもダメです!!!望海ちゃんとニャントロさん以外は完全に固まってますよ?!!ニャントロさんと交代した意味がないですよね?!!



~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~



 「で?私たちをわざわざ呼び出したのはどういう秘密を明かされたかったのかしら?」

 その晩、僕たちに『大切な秘密を打ち明けたい』と伊吹から手紙が届いたので、僕たち四人は城の外の裏の森の近くに来たのだった。


 「あなたたちに見せたいものがあるのです。そら!」

 伊吹と杵島が何やら箱を開けると、黒い煙があたりを覆い、その周りに何十という大きな影が出現した。


 ライオン!それも漆黒の色をした、黒いオーラを纏った獅子だ!!

 「ふっふっふ、とある邪術師から闇の魔獣を召喚する方法を教えてもらっていたのですよ。

 この闇の魔獣『名状しがたき黒獅子』をね!!

 さあ、黒獅子ども!こいつらを喰らい尽くせ!!」


 黒獅子たちは一斉にニャントロさんに向かって行き…足元にすり寄ってごろごろし始めた。


 「ニャントロさん、確か『名状しがたき黒獅子』はあなたの眷属でしたよね。

 ということは、伊吹君たちに召喚方法を教えた邪術師はもしかして…。」

 瀬利亜さんがジト目でニャントロさんを見ている。


 「はっはっは、もちろん、『変装した私』に決まっているじゃありませんか♪

 『一〇〇一の貌を持つ男』の異名は伊達ではありませんよ♪」

 これは『さすがは邪神』とでも言うべきなのでしょうか…。


 「さすがは我が眷属たちですね♪貸し出した場合には一応従うことはありますが、このようにすりすりするのは私に対してだけ…。」

 …ええと、黒獅子たちは瀬利亜さんに対しても思い切りすり寄ったり、ごろごろして甘えているのですが…。


 「さすがは我が眷属たち!!『強きを助け!弱きを憎む!!』めちゃめちゃ強い瀬利亜さんにすり寄って甘える姿勢は『太鼓持ち』の鑑です♪」

 いいんですか?!!そんなことで本当にいいんですか???!!! 


 「ところで、ヤンキーさんと委員長さんが『逃げようとされている』ようですが、少しお話(物理)させていただいた方がいいですよね?」

 望海ちゃんがいつの間にか歩兵銃を取り出して、構えています。


 「では、黒獅子さん達と『肉体言語』でお話していただくのはどうでしょうか?

 黒獅子さん達は軟体(にゃんたい)動物ですから、体が非常に柔らかいのです。

 彼らとおしくらまんじゅうしていれば、きっと改心のきっかけがつかめるのではないでしょうか?」

 ニャントロさんの言葉に従って、杵島と伊吹が黒獅子たちに取り囲まれる。


 男性二人の悲鳴が聞こえる中、僕たちは自分達の寝室に戻ったのでした。


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