76 誘拐事件
ガンガンガンガンガン!!!!
太った男性ときらびやかな男性とトラミちゃんが銃を撃ちまくり、騎士や兵士たちが悲鳴を上げながら次々に倒れ伏している。
「ばかな?!!魔法を封じているのにどうして攻撃できるんだ?!!」
腰を抜かしたガヴァスが震えながら叫んでいる。
「ええ、『熱く燃え盛る正義の心』がある限り、ヒーローに不可能はないのです♪」
望海ちゃん!何を言ってるんですか?!!単に銃を撃つのに魔法を使わないだけだよね?!
「さて、おっさん。この場は完全に制圧した!これ以上の抵抗は無駄だ。大人しく捕縛に付いてもらおうか?」
いつに間にか取り出した歩兵銃を構えて望海ちゃんとトラミちゃんがガヴァスに近づいていく。
「う、動かないからこいつらのように殺さないでくれ!!」
「安心しろ、その連中は峰撃ちだ!ちゃんと生きている!抵抗さえしなければお前さんの頭に風穴が開くことはない。」
いやいや、『峰撃ち』てなに?!!ガンガン銃弾が兵士たちに命中したよね?!!
「ええ、この銃の弾丸は『念弾』を使ってます。これは精神エネルギーを銃弾に変えた代物で、威力の調整をすれば今のように撃った相手を気絶させて無力化することもできるんです。」
望海ちゃんが僕に囁いてくれる。
その間にトラミちゃんがガヴァスを亀甲縛りにしてしまう。
見ていてとても見苦しいのだけれど…。
「で?どうしてマイト殿を時空を超えてさらったのですか?」
望海ちゃんがガヴァスの頭に銃口を突きつけながら冷ややかな視線で見つめている。
望海ちゃんが発している目力と殺気がすごいんですが…。
数日前にアルテアさんが『現時点では望海ちゃんと並んで一二星候補の最右翼になる』と言っていたけど、つまり望海ちゃんは現在モンスターバスター一二星最右翼の候補なのだよね…。その全身から発する戦闘オーラに僕まで圧倒されそうになる。
「…そこのマイトは先代皇帝レジウスの隠されていた息子になる。つまり、現皇帝の甥なのだ。皇帝の知力、魔法の力は皇帝の資質として非常に重視される。つまり、こいつは次期皇帝の有力候補になり、政治的な駒として極めて有効に使える…のです…。」
話の途中で望海ちゃんの視線が非常に厳しくなり、ガヴァスの言葉が弱弱しく変わる。
「へええ、マイト殿をあなたたちの傀儡としようとしていたわけね…。ところで、どうしてわざわざ未来のマイト殿を召喚したのかしら?コールドスリープしているときに召喚できなかったわけ?」
「…コールドスリープに使っているカプセルは強力な対魔法結界が張ってあって召喚魔法が通じないのだ。…この召喚魔法は時空を超えて働くから眠りから覚めたところに召喚魔法を掛ければいつでも好きな時にこうして召喚できるというわけなのだ…。」
「なるほど、それで、『クーデターの準備』ができたから、こうして召喚したということなのね?なかなか策士だわね…。」
「ひいいいいいい!!!おっしゃる通りです!!命ばかりはお助けを!!!」
後で望海ちゃんに聞いたらクーデターうんぬんの話は鎌掛けだったそうだけど、ビンゴだったのですね。
完全に震え上がっているガヴァスに望海ちゃんがさらに質問しようとした時にバターン!と大きな音がして扉が開かれた。
「ガヴァス!貴様のクーデターはこれでおしまいだ!!もはや…。」
何人もの兵士や騎士が部屋になだれ込んで来たが、全員望海ちゃんの圧倒的なオーラに気圧されて固まってしまう。
正体不明の圧倒的な戦闘オーラを放つ集団の傍でクーデター側の兵士たちが倒れて、首魁が縛られているしね…。
「そ、そなたたちは一体何者なのだ?」
後ろから入ってきたものすごく豪華な服を着た中年の男性が入ってきて口を開く。
温厚そうで、頭に王冠を被ったこの男性は…?
「セ、セブロ皇帝?!まさか本人が出てくるとは…。」
ガヴァスが呆然としながらつぶやく。
「良太、スゴイにゃ!おじさんが来てくれたにゃ♪」
トラミちゃんが軽い口調で言った言葉に入ってきた兵士とセブロ皇帝が騒ぎ出す。
「おじさん…とは、いったいどういうことだ?!」
皇帝が血相を変えてトラミちゃんに近寄ってくる。
「良太…マイトはレジウスの息子になるのにゃ♪あにゃたがレジウスの弟で今の皇帝ということだから、マイトはあにゃたの甥ということになるのにゃね♪」
トラミちゃん、ドストレートな説明ありがとう…。相手が皇帝だとかどうとか一ミリたりとも配慮していないよね?!
「…兄上の息子で、私の甥…。あなたたちは一体?」
皇帝は僕たちを怪訝そうな顔で見ている。
「正義を守る日輪の使者!烈光仮面!!」
「真実の司徒!キャプテンゴージャス!!どんな悪も許しはしない!!」
二人とも何を言っているのですか?!!!説明どころか、皇帝も兵士の皆さんも困惑してますよ!!!
「私は二三世紀の未来から良太…もとい、マイトを破滅の運命から救うために結果的にやってきた猫娘型人造人間トラミなのにゃ♪」
「トラミちゃん!その説明おかしいから!!あなたは僕を救うために未来から来たわけじゃないでしょ?!!」
「まあ、それはそうなのにゃが、本来救いたかった女性は『できる女性』で私の支援が必要なかったのにゃ。で、『ヘタレ男子』のマイトを代わりに救ってやろうという話なのにゃ♪」
「ねえ、僕に対するその評価はなに?!それから、どうしてそんな上目線なの?!どうして僕を救うどうこうという話になるの?」
「話しは簡単なのにゃ♪本来は瀬利亜ちゃんとこへは勘違いできたのにゃが、居心地がすごくいいから、入り浸りしたいのにゃ。ただ、入り浸る『口実』が無いとタイムパトロールがうるさいので、こうやって良太を助けてやっているのにゃ♪」
…僕の存在は瀬利亜さんとこに入り浸る『口実』ですか…そうですか…。
僕が愕然となっていると、皇帝や兵士たちがさらに状況が読めずに困惑しているので、望海ちゃんが口を開く。
「わかりました。私が詳しく説明しましょう。トラミちゃん、そこのガヴァス大臣を気絶させて。」
「わかったにゃ♪気絶ハンマー!!」
謎の効果音を出しながらトラミちゃんが懐から人の頭くらいの大きさの柄のハンマーを取り出すと、ガヴァスの頭をぶん殴った。
ガン!!と鈍い音がすると、ガヴァスは悶絶してぶっ倒れた。
明らかに皇帝と兵士たちがひいているよね…。
「私たちは約一万五千年後の世界からやってきました。マイト君がコールドスリープで封印されて目覚めたのがその時代なのです。
目覚めたマイト君は私たちと友達になり、その友達が召喚魔法でさらわれたので、こうして救出に来たのです。ですから、これからマイト君を連れて未来の世界に帰ろうと思います。あなたたちをどうこうしようとは全く思いません。」
望海ちゃんの言葉に皇帝と兵士たちの表情が一気に和らぐ。
さっきまで圧倒的な戦闘オーラを出していた望海ちゃんが友好的な笑顔で話しているので、話を聞く方も安心したのだね。
「そうか…。私の甥が未来で大切な友達が出来たのだね…。」
皇帝が感慨深そうに話している。
…この皇帝さん、なんかすごくいい人そうなんだけど…。
「わしも友達じゃ。」
「私も友達です♪」
いえいえ!!そこのコスプレコンビは全然知り合いでもなんでもないですから!!
「…良太君、そこの二人、うちの学校の校長と理事長だから…。」
望海ちゃんが小声で囁いてくれるのを聞いて、僕は固まる。
…新学期に二人に校内を案内してもらったよ!!!
イケメン理事長と温厚そうな校長の正体がコレですか?!!!
「良太君が攫われて、トラミちゃんを呼んだ時、ちょうど近くに二人が居てね。急いでいたから一応戦力になるかと連れてきたんだけど…。
よく考えたら『トラミちゃんのタイムマシンを使う』のだから、準備に時間を掛けても全然大丈夫だったんだよね。失敗、失敗…。」
望海ちゃんでもこういう失敗?をするのだね。
まあ、助けてもらったのだから文句は言いますまい…。
間もなく僕たちは皇帝や兵士たちに別れを告げて元の時代へ戻っていった。
僕の存在は僕の生家以外ではガヴァス将軍一派しか知らなかったようで、今回初めてその存在が明らかになったようだ。
ただ、未来へ戻る僕のことはいないものとして扱うそうだ。
時代を隔ててしまったとは言え、僕の叔父に当たる人がいい人だったのは嬉しいことだ。
同時に校長や理事長など学校関係者もいい人達だったこと自体は嬉しいこと……にしたいと思います…。




