75 魔法の特訓?
「詳しいことは私から説明しましょう。」
淡々とした口調で望海ちゃんが話し始める。
「良太さんは鑑定で以下のようになっていたと思います。
スキル:戦闘用魔術(LV321)非戦闘系魔術(LV165) 剣術(LV88)」
望海ちゃんが鑑定結果を立体映像にして僕たちの前に提示している。
「したがって、この鑑定結果の通りであるならば一二星並の戦闘能力を持っていなければおかしいはずなのです。
しかし…良太さん、巧さんにも見せてあげた『炎の柱』の呪文を唱えてみてくれますか?』
望海ちゃんの要望に従って僕が炎の柱の呪文を詠唱すると、僕の目の前の地面に高さが一メートルくらいの炎でできた円柱状の柱が現れる。
「皆さん、今の状態をよく覚えておいてくださいね。
炎の柱の呪文は当人の魔力に応じて威力が増大します。
次に現在攻撃魔法がLV141の私が同じ炎の柱の呪文を唱えてみます。」
望海ちゃんがみんなのいない方向に向かって呪文を唱えると、太さ数メートル、高さが何十メートルにもなる膨大な炎が形を成し、最初赤かった色が黄色から青白く変色していった。
えええええ??!!!どういうこと??!!!
僕だけでなく、千早ちゃんもびっくりした顔をされている。
「鑑定の通りであれば、良太さんの魔法は私の倍以上の威力が出てなければおかしいのです。
つまり、今の良太さんの魔力は魔法初級者並みしかないのです。」
「えええええ??!!でも、魔法の知識はしっかりと頭に残っているけど?!」
「そうですね…。それに関して今度は私と剣での模擬戦をやってみましょう。」
望海ちゃんは木刀二本を持ち出すと僕に一本を私、自身がもう一本を構えた。
「それでは、私にかかってきてください。」
望海ちゃんの言葉に従って、木刀を打ち込みに行くと、軽くいなされてしまった。
そして、木刀を取り落した僕はしばし呆然とするが、それ以上に千早ちゃんがびっくりしている。
「私の技能は『剣及び近接武器全般』がLV72です。つまり良太さんの方が強くないとおかしいのです。
こんな一方的に私にやられるというのは本来ならあり得ないのです。」
ええええ??!!それじゃあ、チートなモンスターバスターどころか…。
「瀬利亜さんや千早さんはご覧になられていて感じられたと思うのですが、良太さんは私の動きはかなり察知できているものの『体が付いていっていない』ことを感じ取られたのではないかと思います。
ですから、今の良太さんからしたら『早川良太がマイト・フォン・ガイラークとしての前世を思い出し』て、その記憶も活用はできないことはない。…けれども、自身はマイトというより早川良太という感覚が圧倒的に強い…そんな感覚ではないですか?」
望海ちゃんの説明は今の僕の体感に非常にしっくりくるので、こくこくとうなずく。
「あとは私が説明した方がいいかしら?」
気付くとアルテアさんが僕たちの前にゆっくりと歩いてくるところだった。
「良太君がマイトの知識・経験をあたかも借り物のように『遠い昔の記憶』のように感じているのは結論から言えばとても自然なことなのです。
だって、マイト君は封印された後、魂が抜けて出て、他の世界で転生に入っちゃっから。
そして、何度かの転生の後に早川良太として生まれ、最近亡くなってしまいました。
その後、マイト君に肉体に戻ってきたというわけ。
だから、良太君の人格がそのままマイト君の体に戻ってきたわけだから、今のあなたは同一人物であるとはいえ、マイトではなく、良太君なのね。」
「……ええと…それって重要なことなのでしょうか?」
話の内容を一生懸命消化しようとしつつ僕はアルテアさんに問いかける。
「ええ、早川良太君の肉体・経験にあなたはすごく馴染んでいるから、マイト君の知識、経験にある魔法や剣術を今のあなたの心身になじませるのはものすごく大変なことなの。
だから、鑑定にあった通りの技能を発揮するには良太君は想像を絶するくらい大変な特訓が必要になってくると思うな。」
なんだってーー?!!!じゃあ、チート技能で無双どころか、『日々過酷な特訓』の連続なわけですか?!!
「ただ、幸いなことに『竜の血が暴走する危険」は激減すると思うの。良太君が激情に駆られて暴走し、大陸が消える可能性はゼロです。
最悪の場合でも良太君が崩壊するだけです。よかったね、危険人物指定が解除されるよ♪」
ええと、これってほっとするべきところなんでしょうか?それともがっかりするところなんでしょうか…。
「ですが、鑑定であれだけの技能が出たということは『才能は十分ある』ということではあるのですよね?」
望海ちゃんが僕も感じていた疑問を口にしてくれる。
「ええ、『死ぬほど大変な特訓を継続して数年すれば』あの数値には十分到達します。一二星になり得る絶大な天賦の才があるのは確かです。努力した分は必ず返ってきますよ♪」
…死ぬほど大変な特訓を数年間継続…ですか…。小説やアニメとかだとショートカットして数年飛んだりするけど、僕の場合は『丸ごと体験』する必要があるのだね…。
考えただけで心が折れそうなんだけど…。
「アルさん、望海ちゃんありがとう。
さて、良太君。現状を認識してもらったうえでここからが本題です。
あなたが魔術や剣術などを磨いてもらうことは『義務』から、『努力を推奨』に変わりました。
そして、技能を磨くことの難易度が激増した代わりに、暴走のリスク激減しました。そして、あなたを利用しようとする組織などがちょっかいを掛けてくる可能性はやや減りました。
それを踏まえて再度選択してもらう必要が出てきました。
ただ、今度はやりながら結論を出していく…くらいのペースでもいいと思います。
最低限『自爆』の可能性が皆無になるように魔法の制御はできた方がいいですが、おそらく数年以内にはレジウスのおっさんが制御方法を見つけてくれると思うので、それも必須ではなくなります。
その後は利用される確率もさらに下がります。」
瀬利亜さんはそこまで話すと少し深呼吸をする。
「もし、魔法を習得されたい場合はあなたの知識にある魔法を使われようとするよりは私から学び直されることをお奨めするわ。
アトランティス時代の魔法体系は『大魔女の魔法』より洗練されていなくて効率が悪いの。
さらにあなたが自身の暴走を制御するのにもっと有効だわ。
その代り『ゼロから学び直す』必要があるので、学ぶこと自体は『大学院』どころの話ではないくらい膨大になってくるけどね。
もし、学びたいのでしたら、最初は望海ちゃんから手ほどきを受けた後、進行度との関係で主にちーちゃんと一緒に学ぶことになると思うわ♪」
高校生がいきなり膨大な勉強をすべきかどうかの選択を迫られるのですか…。
「今のことを踏まえた上で、まずは風流院大学・異文化交流学部へ進学してもらって、そこで具体的な進路を決めたもらった方がいいかもしれないわね。
ああ、異文化交流学部は通称『モンスターバスター学部』だから、無理なくモンスターバスターに必要な技能を学べるわね。」
「瀬利亜さん、モンスターバスター学部へ行くのは確定でしょうか?」
「確定です。良太君が自分の身を最低限守れる技能を身に付けない限り、石川邸以外の場所に住むのは無理だと思っておいてください。」
なんと!僕には学部選択の自由と住居選択の自由がないのだね?!!…変な相手に利用されるよりは百倍ましだけど…。
「ところで、今日からでも『大魔女の魔法の習得』を始めてみる?古代アトランティスの魔法体系はそこそこ実用的ではあるのだけれど、『本当の世界の真理』を学ぶにはやや不向きだからね。魔法は本来は『真理にたどり着くための知識体系であり、ツール』なのだから、本当の意味で魔法を身に付けたいのであれば、最初は二度手間のように感じるかもしれないけれど、『大魔女の魔法』を一から学ばれることをお奨めします。」
アルテアさんがニコニコしながら僕に話しかけてくる。
「ええと、少し考えさせてください。まずは学校生活に慣れながら、どうしていくかを自分なりに整理したいと思います。」
「了解しました。じゃあ、今日はせっかくだからみんなのトレーニングを見学していく?」
僕はアルテアさんの誘いに乗って、瀬利亜さん、千早ちゃん、望海ちゃんたちのトレーニングを見学させてもらうことにした。
結論から言えば、瀬利亜さんたちのトレーニング(途中で巧さんも加わりました)は僕には高度すぎて何をされているのか全然わかりませんでした。
戦闘訓練は動きが速すぎて何をしているのか全然見えないし、望海ちゃんと巧さんの魔法訓練は高度すぎて何をしているのか理解不能でした。
魔法に関してはアトランティスの魔法の知識があるはずなのに、さっぱりわからないのはすごくショックでした。
そんな気持ちで学校に行くと、授業も難しくて全然わからないのです。生前は二年生で、現在三年生の授業を吹っ飛ばしてやっているので、全然付いていけません。
それに気づいてくれた望海ちゃんがわからないところを教えてくれると言ってくれました。
ありがとう望海ちゃん!それから勝手に『性格がクロ』判定していてごめんなさい!
ゲーム上ではともかく、現実の望海ちゃんはいつも親切でした!!
下校時、忘れ物に気付いて教室に戻ろうとした時、ふっと周りが暗くなりました。
僕があたふたしていると、急に明るくなり、石造りの遺跡にような場所にいたのです。
僕の十メートルくらい前には完全武装した騎士のような人たちと、偉そうなひげを生やした中年の男が立っています。
「召喚魔法は成功したようだな!」
中年の男の声で、僕に脳裏に電撃のように記憶が蘇ってきた。
この男はアトランティス帝国防衛大臣のガヴァスだ!
僕がマイトの時に僕を騙してコールドスリープに付けた張本人だ!
「ほお、マイト殿。俺が誰か思い出したようだな。だが、お前さんには何もできんよ。
何しろ、召喚魔法でお前さんを時空を超えて呼び出したあと、完全魔法封じの結界をはったからな!」
くそ!魔法が使えてすらヤバイ相手なのに、これじゃあ何もできない!またしてもこいつらに好き放題にされてしまうのか?!!
「わっはっはっはっはっは!力の無い者はむなしいですな!わっはっはっはっは!」
「にゃっはっはっはっは!本当だニャ♪」
……ええと、いつに間にか僕の後ろでトラミちゃんが笑っていて、ガヴァスたちが呆然としているんだけど…。
「悪人ども、貴様らの悪事はそこまでだ!!」
さらに変な扮装の人たちがトラミちゃんと一緒にいるんですが…。
一人は太った体に真っ白なタイツにを全身に着込み、黒いサングラスの下は白いマスクをかぶり、額には赤く光る丸い飾りを付けている。そして腰のベルトから抜いた二丁拳銃を構えている。
もう一人は金糸銀糸の入ったきらびやかな衣装とマントを羽織り口元が見える仮面をかぶったすらっとした男性だ。
「日輪の使者!烈光仮面見参!!」
太った白い男性が叫んでいる。
「どんな悪党どもも許さない!キャプテンゴージャス!ただいま見参!!」
きらびやかな男性が口元をキラッと光らせて叫んでいる。
過去に戻されたことより、こっちの方が現実離れしているよね?!!
「いくら急いでいたとはいえ、連れてくる人を間違えましたかね…。」
さらには望海ちゃんまでいました。いや、望海ちゃんは唯一まともな人だろうか?!
「まあ、いいでしょう!変なおっさんたち!良太君、もとい、マイト君は返してもらいますよ!」
望海ちゃんがガヴァスたちに指を突きつけて叫んだ。




